かぐや姫 その二
久々の日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百六十七弾です。
今回は『かぐや姫』で書かせていただきました。
かぐや姫に求婚し、宝物を集めに行った五人の貴族。
五人と言えば……?
どうぞお楽しみください。
かぐや姫は震えておりました。
今宵は満月。
月から迎えの来る夜。
追放され、竹の中にいた自分を、優しく育ててくれたおじいさん、おばあさんとの別れが、刻一刻と迫っていたからです。
「……ずっとここにいたい……!」
そんな悲痛な思いを嘲笑うように、月が一際強く輝きました。
かぐや姫を守ろうと庭で構えていた護衛の武士達が、次々に力を失ってへたり込みます。
その光の中に人影が降り立ちました。
「我が名は月の使者、無雲」
人影は男の姿となり、障子を開けて部屋に入ってきました。
かぐや姫は動けません。
「今日で貴女は月に帰るのです」
「……いや、いやー!」
かぐや姫が叫んだその時です。
「待てー!」
「!」
鋭い声が響き渡りました。
すると廊下側の障子が勢いよく開きました。
「ミハチシルバー!」
銀色の衣装をまとった男が部屋へと踏み込んで来ました。
続いて、
「ホウライゴールド!」
金色の衣装の男が別の障子を開けて入って来ました。
更に逆側の障子が開き、
「ヒネズミシルバー!」
金色の衣装に身を包んだ男がポーズを決めます。
「リュウギョクシルバー!」
また別の障子から、銀色の衣装の男が入ってきました。
「コヤスガイゴールド!」
最後に庭から金色の衣装の男が飛び込んで来ました。
「五人揃って!」
『ケンランジャー!』
五人は声を揃えてポーズを決めました。
「……」
「……」
かぐや姫と無雲は呆然と立っています。
そこにミハチシルバーが声を上げました。
「さあ! 早く逃げるんだー!」
「え、え……?」
「早く逃げるんだー!」
「あ、はい……」
かぐや姫は戸惑いながらも別室に逃げて行きました。
それを見送ると、ケンランジャーは無雲に向かって構えます。
「さあ来い!」
「かぐや姫は我々が守る!」
「……」
首を横に振った無雲は、
「……違う」
ぼそりと呟きました。
「え……?」
「貴方がたは何ですか?」
「……ケンランジャーです!」
「ケンランジャーはいいんですけど、そうではなくて」
「え?」
「何で五人組なのに、金が三人で銀が二人なんですか?」
「……」
無雲の言葉に、ケンランジャーは戸惑いを見せます。
そこでコヤスガイゴールドが一歩前に出ました。
「あの、我々はかぐや姫の求めた宝物から力を得ましたので、豪華絢爛の絢爛からケンランジャーと名乗りました。なので金や銀といった高級感溢れる衣装で」
「まぁそれは良いんですけど、色は別でも良かったんじゃないですか?」
「え?」
「五人もいるなら、一人一人色を変えても良かったんじゃないですか?」
「……」
しばらく流れる沈黙。
「……あの、我々は別に色とかではないので……」
「え?」
「一人一人の個性を見てほしいと思って」
「誰にですか?」
「……かぐや姫に」
「……まぁわかりますよ? 我々月の使者から守り抜けば、姫からの評価は爆上がりですもんね」
「はい!」
「だからこそ色による差別化が必要なのではないですか?」
「……」
再び沈黙が流れます。
重い重い空気の中、コヤスガイゴールドが口を開きました。
「……やっぱり目立ちたいので……」
「え?」
「やっとの思いでかぐや姫の求める宝を探して来たのに、他の方々も宝を見つけてきて、ここで目立たないと、と変身したら色も被る有様で……」
「さっきの個性云々の話は建前だったのですね」
「とにかく! 貴方を追い返せば、かぐや姫に想いを寄せてもらえる好機! いざ尋常に勝負!」
「……」
無雲はしばらく黙った後、首を横に振りました。
「こんな空気で勝負なんてできるわけがないでしょう」
「え、で、でも私達は格好良く戦って、かぐや姫からの愛を……」
「そう思うのなら、とりあえず装束の色をばらばらにして来てください。来月の満月の日にまた来ますから」
「……はい」
「では失礼」
こうしてケンランジャーの活躍で、月の使者・無雲は帰っていきました。
しかしこれからも無雲はやって来るでしょう。
頑張れケンランジャー。
負けるなケンランジャー。
かぐや姫を守るその日まで。
読了ありがとうございます。
来月はゆずの衣装とか着そう。
次回は『番町皿屋敷』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。