こぶとりじいさん その一
パロディ昔話第十六弾。今回は『こぶとりじいさん』です。
昔話って何らかの教訓があるイメージですけど、この話の教訓って何なんでしょう?
『人を羨んで自分に合わない事を真似すると痛い目に遭う』って感じですかね?
どちらかと言うと落語に近いような気が……。
そんな疑問から話を組み立ててみました。
よろしければお楽しみください。
昔々ある所に、頬に大きなコブを持つ二人のおじいさんがいました。
一人はコブの事をあまり気にせず、明るく暮らす陽気なおじいさん。
一人はコブが気になって、いつもイライラしている陰気なおじいさん。
ある時陽気なおじいさんが山で薪を集めていた時、なかなか良い薪が集まらず、山の奥へ奥へと進んで行きました。
気が付けば日が暮れてしまい、おじいさんは木の洞で一晩を過ごす事にしました。
うとうとしていたおじいさんの耳に、賑やかな音が聞こえて来ました。
目を開けると、焚き火の光。
(誰かおるんかいの……)
おじいさんがそっと木の洞から覗くと、そこには焚き火を囲んで宴会をする鬼達の姿。
(ひゃあ……! おっかねぇ……! 見つかったら食われちまう……!)
しかし陽気なおじいさんは楽しい事が大好き。
鬼達が酒を飲みながら歌ったり踊ったりしているのを見ていたら、どうにも我慢できなくなりました。
「あ、そ〜れよいしょ こらしょ ありゃさ こりゃさ」
鬼達は突然飛び込んできたおじいさんに驚きましたが、あまりにおじいさんが楽しそうに、また嬉しそうに踊るので、鬼達も楽しくなってきました。
「いいぞいいぞー!」
「もっと踊れー!」
鬼の宴会は近年稀に見る大盛り上がりを見せました。
「じいさん、いい踊りだったぜ」
「え、あ、ど、どうも……」
朝になって宴会が終わり、我に返ったおじいさんは、鬼達に囲まれている事を思い出して、怖くなりました。
「おい、また来いよ」
「あ、あの、ど、どうでしょう……」
「来ないと言うなら帰す訳にはいかん」
「しかし、か、帰らないと、家の者が、その、心配しますので……」
「ならば何か大事な物を置いて行け。それが約束の証だ」
「だ、大事なもの、と言われても……」
困ったおじいさんは、つい癖で頬のコブを撫でました。
「ほう、それか。ならばそれをよこせ」
鬼の不思議な力で、おじいさんのコブはポロリと取れました。
おじいさんが頬を恐る恐る撫でると、血も傷もなく、つるりとした頬があるだけでした。
「今夜来たらこいつは返してやる。分かったな」
「は、はい!」
おじいさんは大慌てで家に帰りました。
そしておばあさんにコブが取れた事を話すと、大いに喜んでくれました。
そこにやって来たのが陰気で意地悪なおじいさん。
陽気なおじいさんからコブが無くなっているのを見て驚き、理由を尋ねます。
「鬼の前で歌って踊ったら、取ってくれたんじゃ」
長年コブに悩んでいた陰気なおじいさんは、羨ましくてたまりません。
鬼が宴会をしていた場所を聞き出すと、大急ぎで山に向かいました。
教わった木の洞の中で待つと、鬼達が現れて宴会を始めました。
歌と踊りが始まったのを見て、おじいさんは飛び出して踊り始めました。
しかし陰気なおじいさんは、楽しく踊った事がありません。
最初は待ってましたと喜んでいた鬼達も、だんだん険しい顔になってきました。
「おいジジイ! つまらない踊りを見せやがって!」
鬼達の怒りに、おじいさんは震えました。
「つまらんじいさん 気分は散々
楽しみ爆散 お前を帰さん」
若い鬼がラップに乗せて、からかうようにそう言いました。
その時、おじいさんの脳裏に自分の特技が思い返されました。
口が悪いからこそ強い、MCバトルを。
「歳なら鬼のが上 常道
でも口なら儂の方が上々
バトル儂とやる気か上等
ほら滾るぜ儂の熱い情動」
鬼の中から、おおっと声が上がりました。
若い鬼も負けていられません。
「ジジイが調子乗ってんじゃねー
お前立場分かってなくねー?
命乞いすれば許さなくもねー
今すぐ跪けよヘイメーン!」
凄む鬼に、おじいさんは一歩も引きません。
「やるなら力じゃなく舌戦
それじゃなきゃ儂は降参せん
舌なら見せてやるぜ我がセンス
人と鬼 バトル最前線」
その返しに、若い鬼は親分鬼に目をやります。
親分鬼がニヤリと笑って頷くのを見て、若い鬼の声に力がこもります。
「やるじゃねぇかそのいい度胸
よし認めてやるぜ特別に今日
お前に不利なアウェー環境
そこで上げて見せろソウルの絶叫」
わあああぁぁぁ!と鬼達から歓声が上がります。
「お前に分かるか儂のソウル
盛り上げてきた幾つものホール
儂の前じゃお前なんてドール
始めるぜ言葉のドッヂボール」
おじいさんの指差しを、若い鬼は余裕の顔で受けます。
「ダンスもできないジジイを嘲笑
いきなりラップでバトルと暴走
踊り誤魔化せると言う妄想
どうなってんの脳の構造」
「宴の主役はホントにダンス?
そしたら何に使うんだマウス
ダンスとラップが合わさりナイス
分からないなら帰りなハウス」
間髪入れないおじいさんの返しに、若い鬼は動揺を隠しながら続けます。
「ダンスは花形 ジジイはガタガタ
満足されないお偉い方々
踊りから逃げるチャチなやり方
悔しきゃまともに踊れよまた」
「ワードは壊滅 ガードは消滅
逃げでできると思うのか幻滅
罵るだけの言葉など僭越
魂の輝きを見ろ鮮烈!」
うぐ、と言葉に詰まった若い鬼は、小刻みに震えた後、膝をつきました。
「勝者! ジジイ!」
親分鬼の宣言に、おじいさんは鬼達の歓声と拍手に包まれました。
額に汗を浮かべたおじいさんは、爽やかな笑みを浮かべました。
とある山の奥。
鬼達が毎日のように宴会をする場所があります。
その恐ろしい鬼達の中に、おじいさんが二人。
踊るおじいさんと、MCを担当するおじいさん。
二人の頬にもうコブはありません。
しかし二人は鬼達から『こぶとりじいさん』と呼ばれます。
グルーヴをは『こぶ』おじいさんと、ダンスでステージの『トリ』を務めるおじいさん。
二人がもたらす熱狂に、鬼達は今宵も酔いしれるのでした。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
子どもに話をする時は、
「昔々あるところに、少し太ったおじいさんがいました。小太りじいさん」
でお茶を濁していましたが、どうあがいても二百文字いかないので、意地悪じいさんの特性を活かして話を組み立ててみました。
……ラップって難しいですね……。
そもそもこれはラップとして成立してるのかな……?
あんなの即興で作れる人は、脳の造りからして違う気がします。
韻を踏む遊びは好きですけど、このタイプのはもうやらないでしょうね……。疲れた……。
次回は『オオカミと七ひきの子ヤギ』のセカンドシーズンで参りましょう。
オオカミの運命やいかに!