マッチ売りの少女 その三
暮れの元気なご挨拶。
パロディ昔話第百五十九弾です。
年末の忙しさにかまけ、お待たせしてすみません。
今回は『マッチ売りの少女』で書かせていただきました。
どうぞお楽しみください。
昔々ある街に、貧しい暮らしをしている少女がおりました。
少女は刺すような寒さの夜に、マッチを売りに街を歩いておりました。
「マッチ買ってください……。マッチを買ってください……」
しかし街の人達は見向きもしません。
寒さに震えながら、少女はマッチを手にあちらこちらを回ります。
すると、
「ぐひょひょひょ……。可愛い女の子ぉ……。ねぇ、君ぃ。マッチ全部買ってあげるから、おじさんのお家においでよぉ……」
「え……」
小太りの男が声をかけてきました。
「あったかいご飯もあるし、可愛い服だっていっぱいあるよぉ……。ほら、おいでぇ……」
「……!」
ねっとりした話し方に恐ろしさを感じながらも、少女はマッチを差し出します。
「……マッチ、買ってくれるんですね……? それなら、あの、ついて行きます……」
震える声でそう言ったその時、
「ちっ、保護対象か」
「え……?」
男の態度が豹変しました。
すっと手を挙げると、数人の衛兵が二人の元に駆け寄ります。
「大丈夫? 寒かったでしょう。この毛布を肩にかけて」
「え、あ、は、はい……」
「あったかい紅茶だよ。さ、飲んで」
「あ、ありがとう、ございます……?」
「お家はどこ? 送ってあげるよ」
「あ、あの、この先の角を右に曲がって、突き当たりを左に行って……」
突然の優しい対応に戸惑う少女を、少し離れて見つめる男。
その目には激しい怒りがこもっていました。
「隊長。お気持ちはわかりますが、あの子が見たら怯えますよ」
「……わかってる」
隣にやって来た女性衛兵の言葉に、隊長と呼ばれた男は息を吐いて髪をかきあげました。
「怖い思いをさせて、夜中一人で出歩く子を家に帰す。それでも帰らない子は、家庭に問題があると判断して保護する。良い方策だと思いますけど」
「……あれだけ恐怖を与えても、あの子はマッチを売る事を優先した。逃げる事さえ許されないなんて、どんな家庭環境だ……!」
「もう……。怯えて逃げられても傷付いて、逃げられなかったら腹を立てるんですから、隊長脅かし役に向いていないのでは?」
「見た目からして俺が一番適任だ。それに部下にこんな事させられるか」
「私なら喜んでやりますよ?」
「お前はガチだから駄目だ」
そんなやり取りの中、少女はあったかい毛布と紅茶に微笑みを取り戻していたのでした。
この後家に乗り込んだ隊長にこってり絞られた少女の父親は心を入れ替え、少女を大事にするようになりましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
最初に思い付いたネタが形にならず、四苦八苦した結果、こんなベタな形になりました。
ハッピーエンド好きだからね。仕方ないね。
次回はキリ番企画なので、タイトルは内緒。
今度こそ日曜に投稿しますので、どうぞよろしくお願いいたします。