金の斧 銀の斧 その七
日付は月曜になってしまいましたが日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百五十六弾です。
今回は引き続き『金の斧 銀の斧』で書かせていただきました。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、正直者の木こりがおりました。
木こりは森で木を切っている時に、誤って斧を泉に落としてしまいましたが、泉の女神に、
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
と聞かれ、正直に普通の斧と答えたところ、その正直さの褒美に金の斧と銀の斧ももらったのでした。
それを聞いた隣に住む男は、悪い笑みを浮かべました。
「斧を落としたら金と銀の斧がもらえた。という事は……!」
男は家の物を荷車に積んで、泉へと向かいました。
「これを全部落とせば、全部金と銀になって戻ってくる……! ボロ儲けだ!」
そしてつまずいたふりをして荷車を横倒しにして、荷物を泉に落としました。
「ああー、何てこったー。荷物が全部泉の中にー」
男が棒読みでそう言うと泉が光り輝き、女神が姿を現しました。
「あなたが落としたのは、この金のコップとお皿とフォークとナイフとスプーンとタオルとハンカチと置き時計と熊が鮭を咥えた置き物ですか?」
「えっ」
「それともこの銀のコップとお皿とフォークとナイフとスプーンとタオルとハンカチと置き時計と熊が鮭を咥えた置き物ですか?」
「いえ、その、普通の……」
「普通の、何ですか」
「えっと……」
男は事前に落とすもののリストを作っていなかった事を後悔しました。
木こりの話からすれば、これを正確に言えない限り、目的は果たせないのですから。
「え、えっと、コップと、お皿と、フォーク、ナイフ、スプーン……。あと、タオル……? と置き時計と、後は……。あ! 熊が鮭を咥えた置き物です」
「おや? 何か違うようですよ?」
「えっ!? あ、えっと……? うーん……」
「ぶっぶー。時間切れでーす」
女神はそう言うと、泉に潜っていきました。
「ああっ! 女神様!」
男が絶望の表情で泉を覗き込むと、女神が箱を持って現れました。
その中には男が落としたものが全て入っていました。
「え……? あの……?」
「ハンカチを忘れてましたねー。今度から落とさないように気を付けてくださいねー」
「え、あ、はい……」
「それから」
女神は受け取った男の耳に、
「次はありませんから」
「!」
冷たく囁くと泉に消えていきました。
数日後。
「女神様ー! あの冷たい囁きが忘れられないのです! どうかもう一度ー!」
厄介な性癖に目覚めた男が、毎日のように泉に通うようになりましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
さぁ皆様ご一緒に。
「変態だー!」
次回は『白雪姫』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。