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絵姿女房 その一

日を跨いでしまいましたが日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百五十四弾です。

今回は『絵姿女房』で書かせていただきました。


原作では、美人の女房にぞっこんで働きに出ようとしない旦那のために、女房は自分の絵姿を渡します。その絵姿が風に飛ばされ、とある城の殿様がそれを見て自分の嫁にしようと連れ去ります。女房は旦那に「桃の種を植えて、実がなったら城まで売りに来て」と伝え、城では毎日泣いて暮らします。困り果てていた殿様の元に、旦那が桃を売りにやって来ました。すると声を聞いた女房がけらけらと笑い出しました。それを見て喜んだ殿様は旦那を城に入れ、挙句着物を取り替え、自分が桃売りになって女房を笑わせようとします。その勢いで城を出てしまい、身なりから二度と城に戻れなくなってしまいました。代わりに旦那は殿様として、女房と幸せに暮らしましたとさ。

こんな話が私の手にかかるとどうなるか……。


どうぞお楽しみください。

 昔々あるところに、一人の男がおりました。

 真面目で気の良い若者でしたが、早くに両親を亡くし、一人で暮らしていました。

 そんな時、武家屋敷に行儀見習いに行っていた庄屋の娘が村に戻って来ました。


「お、おめ、戻って来てただか……!」

「……! はい、お久し振りでございます……」

「……そ、そげな水臭い言い方せんで、い、今まで通りにしてくれ……」

「うん……! ただいま……!」


 幼馴染であった二人は自然と仲良くなり、結婚する事となりました。

 しかしそれから少し困った事が起こりました。

 男が外仕事をしなくなったのです。


「……お前さん、畑にいかねぇと……」

「いやー、そうは言っても、おめぇの顔ずっと見ていたくてよぉ……」

「……もう、お前さんったら……」


 満更でもない娘でしたが、さりとて働かなくて食べていける程の蓄えがあるわけではありません。

 そこで娘は自分の姿を絵に描きました。


「おぉ! おめぇそっくりでねぇか! おめぇにこんな特技があったとは……!」

「……ご奉公の時にちょっとな……。それがあれば、おらと一緒にいるのと同じじゃろ? だから精出して働いておくれ」

「あぁ! 頑張るだ!」


 こうして男は紙に描かれた娘の絵姿を持って、畑仕事に行くようになりました。

 そんなある日の事。


「あ! 嫁が!」


 突然の風に、娘の絵姿の紙が飛ばされてしまいました。

 その紙は風のいたずらで、近くのお城にまで飛んで行きました。

 それを庭先を散歩していたお殿様が拾いました。


「何だこの紙は……。なっ!?」


 その紙を見たお殿様は驚きに目を見開きました。


「この絵の者を連れて参れ!」


 お殿様の命令で、家来達は方々へと探しに出ました。

 そしてとうとう娘のところに辿り着いてしまいました。


「この絵、お主だな」

「……はい……」

「殿のお召しである。城に参れ」

「……分かりました……」

「っ……!」


 お殿様の命令に逆らえば命がありません。

 男は泣く泣く娘を見送るしかできません。

 その時です。


「……お前さん」

「……何じゃ」

「これから紙におらの絵を描いとくれ。おらそっくりに描けたと思ったら、お城に会いに来ておくれ」

「……わ、わかった! よくわからんがわかった!」


 こうして娘は城へと連れて行かれました。

 その日から男は毎日必死に働き、紙を買っては娘の姿を描き続けました。

 最初は福笑いのようだった絵が、数十枚、数百枚と描くうちに、本物と見紛うような見事な出来となりました。

 男は娘に言われた通り、その絵を持ってお城へと向かいました。

 門番はそんな男を不審がり、追い返そうとします。


「誰だか知らんが、殿のお呼びでない者を城に通すわけにはいかぬ」

「じゃ、じゃがこれを持ってくるように言われて……!」

「何を持って……、何っ!? し、しばし待て!」


 門番は男の差し出した絵に驚くと、慌てて奥へと走って行きました。

 しばらくして戻って来た門番は、


「……殿がお呼びだ。通って良い……」

「は、はぁ……」


 そう言って男を中へと案内しました。

 男は訳がわからないまま、奥へと進みます。

 そこではお殿様と娘、そして数人の家来が鬼気迫る様子で筆を動かしていました。


「え、こ、これは……」

「あ、お前さん! 絵、描いて持って来てくれたんだね!」

「あ、あぁ、これだ……」

「これだけ描ければ問題ねぇだ! これで間に合うだよ……!

「……え、えっと、これは一体……?」

「お殿様がね、以前武家屋敷で流行っていた戯画を見だそうで、自分でも描きたいって始めたんだども、なかなかうまく行かなかったそうでな……」

「え、え……?」

「それでも年末の品評会までには描き上げねばならねって時に、風で飛んできたおらの絵を見て手伝いを頼まれただよ」

「……じゃあおらに絵を描かせたのは……」

「手伝ってもらうためだべ! さぁ〆切は近いだで頑張るだよ!」

「えぇー!?」


 こうして男と娘の手伝いを経て、お殿様の自作戯画は無事完成し、二人は沢山のご褒美をもらって村に帰りました。

 その後二人もまた戯画を描き、年に二回人々に読ませるようになりましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


神絵師ってすごい。僕は改めてそう思った。


次回は『金の斧 銀の斧』で書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

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[一言] これが、我が国初めての「神絵師」!?
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