桃太郎 その二
パロディ昔話第十五弾、桃太郎セカンドシーズンです。
今回は昔子ども達に語った話に、なろうの人気要素「追放」を加えてみました。
一体誰が追放されるのか? そしてその後どうなるのか?
どうぞお気楽にお楽しみください。
「サル、お前を追放する」
桃太郎から放たれた言葉に、サルは耳を疑いました。
「え、あ、あの、な、何の話でやんすか……?」
「聞こえなかったのか? それとも聞かざる気取りか?」
桃太郎の冷たい言葉に、冗談で言われてるのではない雰囲気を感じ、サルの赤い顔は真っ青になりました。
「ど、どうしてでやんすか! 一緒に鬼退治をした仲でしょう!?」
「その鬼退治だよ」
「えっ……」
戸惑うサルに、桃太郎は続けます。
「お前の活躍って鬼ヶ島の城の扉を開けた事位だろ。ろくに役に立っていないのに仲間ヅラとはな」
「いや、鬼に噛みついたり、引っ掻いたり……!」
「噛みつきはイヌの方が強い。引っ掻きは空から蹴爪で引っ掻けるキジの方が戦略の幅が広い」
「うぅ……」
桃太郎に反論を封じられ、サルは他の仲間へと救いを求めます。
「い、イヌさん! キジさん! 何か言ってくだせぇよ! あっし達は仲間だって……!」
「……犬猿の仲って言うよね」
「……イヌ、さん……?」
「僕、前からサルさんとはウマが合わないなって思ってたんだよ」
「そんな……!」
衝撃を受けるサルに、キジが追い討ちをかけます。
「サルさん、何かにつけて賢いアピールしてましたよね? あれって桃太郎さんのポジション、狙っての事だったんじゃないですか?」
「ち、違います! あっしはただ皆さんのために……!」
「言い訳は見苦しいぞサル!」
桃太郎の激しい口調に、サルは言葉を失います。
「とにかくこれは俺達の総意だ。とっとと出て行ってもらおうか」
「え、そ、そんな……」
三人の冷たい目に、サルは声をあげようとして、やめました。
「分かり、やした……」
サルは肩を落とし、とぼとぼと家を出て行きました。
「西の方なら何か仕事があるかもなー!」
「頑張ってねー!」
「サルさん、賢いんですからー!」
三人のからかうような言葉を背中に受けながら……。
「はぁ、これからどうしやしょうか……」
桃太郎達から離れたい一心で、サルは西へ西へと旅をして、全く見知らぬ土地までやって来ました。
それでもあの「お前を追放する」と言われた言葉が頭を離れません。
「どうかなさいましたか?」
「え、あ、あっし、でやんすか?」
温かい声に顔をあげると、優しそうな人がじっとサルを見つめていました。
「えぇ。だいぶ落ち込まれているようでしたので」
「はは、分かりやすか。実は一緒に鬼退治をした仲間から追放されやしてね……」
「鬼退治? それは凄い! ではあなたは腕に自信が?」
「ははっ、どうでしょう……。仲間からは大して役に立ってないからと言われて追い出されたんですけど……」
「鬼なんて恐ろしいものに立ち向かっただけでも、勇気と力のある証拠ですよ」
「!」
その優しくも力強い言葉で、サルの目に光が戻ります。
「もしあなたがよろしければ、私の手伝いをしてくれませんか?」
「えっ? で、でも……」
「あなたの力をお借りしたいのです」
信じてくれる瞳。
それはかつて桃太郎達から向けられた、信頼の証。
心は決まりました。
「……あっしなんかで、よろしければ……!」
二人は手を取り合いました。
「桃太郎さん、本当に良かったの?」
「何が」
「サルさんの事だよ。本当はサルさんの事、追放なんてしたくなかったんでしょ?」
「まぁな。でもあいつは俺のところなんかで終わる器じゃないよ。もっとでっかい冒険をやって、世界中に轟く物語の主人公になれる、そういう奴さ」
「まぁそれは同意ですけどね。私らも心にもない事言った甲斐がありますよ」
「何が心にもない、だよ。キジさんは賢い賢いって褒めてばっかりだったじゃないか」
「そういうイヌさんだって、無理がありありでしたよ。何ですか犬猿の仲って」
「しょうがないだろ。サルさんの悪口なんて思い付かないんだから」
「本当、優しくて気が利いて、大変な仕事を真っ先に引き受ける方でしたね」
「楽しみにしてようぜ。俺達の仲間がヒーローになる物語をよ」
数年後、サルは雲に乗って故郷に錦を飾りました……。
読了ありがとうございます。
さて、サルは一体何の物語の主人公になったのでしょうか……。
関係ないですけど、昔『天◯ひとしい』って言う漫画がありまして、主人公を師匠と慕う六耳の妖猿の娘が可愛かったなぁ……。
関係ないですけど。
それでは次回は「『こぶとりじいさん』でお会いしましょう。