金の斧 銀の斧 その五
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百四十九弾です。
今回も『金の斧 銀の斧』で書かせていただきました。
前回は正直すぎる木こりが女神にお仕置きされましたが……?
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに正直者の木こりがおりました。
ある日木こりが愛用の斧で木を切っていると、手が滑って斧が泉に落ちてしまいました。
「あぁ! 僕の斧が!」
慌てて泉を覗き込みましたが、斧はその影すら見えません。
「どうしよう……。あの斧がないと仕事が……」
すると泉が光輝き、美しい女神が現れました。
「ふわぁ……!」
目を見開く木こりに、女神はにっこりと微笑みかけました。
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
「ど、どちらでもありません! あの、ごく普通の鉄の斧で……!」
木こりが慌ててそう答えると、女神は嬉しそうに笑いました。
「貴方は正直者ですね。正直な方は好きですよ」
「!?」
「褒美にこの金の斧と銀の斧も差し上げましょう」
「え、あ、ありがとう、ございます……」
木こりは言われるままに金の斧と銀の斧、そして自分の鉄の斧を受け取りました。
そして女神が消えた泉をじっと見つめているのでした。
一ヶ月後。
女神の泉に斧が落ちてきました。
(……これはあの木こりから話を聞いた者が、真似をして斧を落としたのでしょうか……。そういう者に限って、欲に目が眩んで嘘をつくのです……)
複雑な気持ちを抱えながら、女神は金の斧と銀の斧を持って水面に姿を現しました。
するとそこには、
「あら、貴方は……」
「こ、こんにちは!」
立派な服を着た木こりが立っていました。
少し驚いた女神は、悲しい気持ちになりました。
(随分と立派な服……。きっとあの金の斧と銀の斧を売り、お金を得て買ったのでしょう。そして無計画に使った結果、お金が尽きて再びここに……)
そんな女神の様子に気付かず、木こりは早口で喋り始めます。
「あ、あの! ぼ、僕女神様の姿を見てからずっとそれが頭から離れなくてえっと仕事一生懸命頑張ってお金稼いで服だけでもちゃんとしようと思ってその」
「え、え……?」
「も、貰った斧は何か勿体なくて売れなくて家に置いてあってだからあんまりちゃんとした服じゃないですけど告白するにはいつもの服じゃ駄目かなってその」
「……? ……?」
「め、女神様好きです! け、結婚してください!」
「!?」
木こりの言葉と態度から、女神は嘘を感じ取れませんでした。
そのあまりにも不器用な正直さに、
「……えっと、では、その、まず、お友達から……」
気付けば女神はそう答えていました。
「あ、ありがとうございます! そうですね! まずはお互いを知るところからですよね!」
「え、あ、は、はい……」
嬉しさのあまり顔一杯で笑う木こりに、女神は返す言葉がありませんでした。
こうして『百日後に人間と結婚する女神』の物語が幕を上げるのでした。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
当初は「金の斧も欲しい! 銀の斧も欲しい! 元の斧も女神のお前も、この世の全てが欲しい!!」と言わせる予定でしたがどうしてこうなった。
甘々が好きだからね。仕方ないね。
次回はキリ番ですが、リクエストの『雉も鳴かずば撃たれまい』を書こうと思います。
よろしくお願いいたします。