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聞き耳ずきん その一

今週は何とか間に合った日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百四十六弾です。

今回は『聞き耳ずきん』で書かせていただきました。

この話はバリエーションが豊かなのですが、今回は優しいおじいさんが、キツネに親切にした結果、動物の声が聞こえるずきんをもらい、長者さんの娘を助けて大金をもらうパターンを採用しました。

さてそのままでもハッピーエンドなお話をどうこねくり回したか……。


どうぞお楽しみください。

 昔々あるところに、とても心優しいおじいさんが、山でおばあさんと暮らしていました。

 おじいさんは山でたきぎを取っては町で売り、そのお金で少しの食べ物を買っておばあさんと分けるのが日常でした。


「すまんなぁ、大したものを食わせてやれんで……」

「ええてええて。じい様と二人、分け合って食べたらそれで十分じゃ」


 そんなある日の事。

 いつも薪を買ってくれるお屋敷でお祝い事があり、いなり寿司を分けてもらいました。

 おじいさんは、おばあさんの喜ぶ顔を想像しながら帰り道を急いでいました。


「こんなご馳走、滅多に食えるもんじゃねぇ。ばあさん喜ぶぞ……!」


 うきうきした足取りで、家まで半分を過ぎた峠道。


「きゅぅ〜……。きゅぅ〜……」

「……何じゃ?」


 草むらからか細い声が聞こえてきました。

 気になったおじいさんが草をかき分けると、


「……おや、こりゃあ……」


 痩せた親ギツネのお腹に顔を埋める、同じく痩せた子ギツネ三匹の姿が見えました。

 親ギツネはおじいさんの姿を見ても逃げようとしません。

 動く気力もない、といった様子でした。


「ははぁ、食い物が取れなくて、おちちが出ねえんだなぁ……。可哀想に……」


 するとおじいさんは、自分の持ついなり寿司に気が付きました。


「……ばあさん……」


 一瞬おばあさんの笑顔が浮かびましたが、おじいさんは小さく笑うとその包みを開いて親ギツネに差し出しました。


「食うとええ。子がひもじいのは親として辛かろうて」

「……」


 じっとおじいさんを見た親ギツネは、恐る恐るいなり寿司をかじり、


「!」


 美味しいとわかるとすごい勢いで食べ尽くしました。


「おぉ、それだけ元気なら大丈夫だな。達者で暮らせよ」


 おじいさんは気持ちも軽く、家に帰りました。


「ばあさん、すまん。ご馳走をふいにしてしもうた」

「え? 何の話じゃじい様」


 おじいさんはおばあさんにキツネの親子と、いなり寿司の事を話しました。


「そりゃええ事をしたのぅ。キツネも喜んだじゃろうて」

「……ありがとなばあさん」


 そうしておじいさんとおばあさんは、いつもの質素なご飯を食べて、心地良い眠りにつきました。

 その翌日。


「さて今日も薪を集めて、ばあさんと食う飯を買って帰ろう」


 おじいさんは朝早くから薪を集めて、町へと向かっていました。

 すると、草むらから昨日の親ギツネが顔を出しました。


「おや、昨日の。うん、元気になったようで良かった。……ん? 何じゃそのずきんは……?」


 おじいさんは親ギツネが口に咥えているずきんに気が付きました。

 親ギツネはそれをおじいさんの前に置くと、何度も頭を下げました。


「……もしかして、それを昨日のお礼にくれるのか……? ははは、何とも義理堅いキツネじゃ。じゃあありがたくいただくとするかのう」


 おじいさんは嬉しそうにそう言うと、ずきんを拾うと頭に被りました。

 すると、


『聞こえますか……。聞こえますかおじいさん……』

「な、何じゃ!? 誰じゃ!?」

『私です……。目の前にいるキツネでございます……』

「え、な、何じゃと……!? まさか直接脳内に……!?」


 驚くおじいさんに、親ギツネは首を横に振ります。


『いえ、これは私の力ではなく、そのずきんの力です』

「こ、これが……?」

『はい。動物の言っている事がわかるようになる、特別なずきんなのです』

「そんなすごいものを……!」

『これを使えばおじいさんは動物を通じて色々な事を知れます。そうすれば富、名声、力……』

「薪取りの時に退屈せんですむのう」

『この世の全てを……って、え!?』


 親ギツネがその細い目をまん丸にして驚いていると、おじいさんはにこにこと笑っていました。


「山で薪を取る時に、鳥の声やら獣の声やらが聞こえてきてな、あれが何を言うとるかわかったら楽しいと思うとったから、ほんにありがとうなぁ」

『あ、はい……』


 驚きながらも親ギツネは小さく笑いました。


(……そうだ、自分の利益を最初に考える人なら、私にあのご馳走を譲るわけがないのだ……。ならばずきんはおじいさんの好きなように使ってもらえばいい……)


 親ギツネも嬉しい気持ちで、おじいさんにもう一度頭を下げました。


『ではおじいさん、本当にありがとうございました』

「こちらこそありがとうなぁ」


 こうしておじいさんと親ギツネは笑顔で別れました。

 しかし親ギツネは気付いていませんでした。

 おじいさんが底抜けのお人好しである事を……。




『おじいさん、今度は何を助けて何を貰ったんですか……?』

「カラスに教えてもらって木に引っかかっておった天狗を助けて、この羽団扇はねうちわを……」

『病気治し放題のお宝じゃないですか! 前は長者さんの家の屋根裏に閉じ込められていた白蛇から若返りの薬を貰って!』

「いやー、ばあさんが別嬪になって驚いたのう。儂もこんなに髪がふさふさに!」

『その後は空から落ちた雷様の子どもを助けて、千里を走る雲の靴をもらって……!』

「お陰で困ってる人のところにすぐ行けるようになったなぁ」

『今度は天狗の羽団扇……! まさか私のずきんでこんな事になるなんて……!』


 おじいさんの穏やかな生活を変えてしまったと、歯を食いしばる親ギツネ。

 しかしおじいさんだった若者はにっこり笑います。


「なぁに、元々薪を集めていたのだって、人のためにしておった事じゃ。便利な道具を貰っても、儂のする事は変わらんよ」

『……! あなたという人は……!』


 こうして困っている人の元に現れては奇跡を起こすおじいさんだった若者は、人々から絶大な信頼を得ました。

 なおその傍にはキツネがいつもいたので、後の世にキツネの神様として祀られましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


助ける→お礼に宝を貰う→その力で新たに誰かを助ける→お礼に新たな宝を手に入れる→また誰かを救う→恩返しに……。


無限ループって怖くね?

この若者おじいさんの場合は大丈夫そうですけど。


次回はずきん繋がりで『赤ずきん』で書こうと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局、無欲無双な人がこういうブツを手に入れると、こうなるのね。
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