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北風のくれたテーブルかけ その一

月曜どころか火曜になってしまった日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百四十五弾です。

今回は『北風のくれたテーブルかけ』で書かせていただきました。

某猫型ロボットの道具として有名な、何でもご馳走が出てくるあれの元ネタです。

一応原作に寄せてはいますので、元ネタ解説はいらないと思います。


どうぞお楽しみください。

 昔々あるところに、ハンスという少年がいました。

 ハンスはお母さんと二人で暮らしていました。


「ハンス、小屋から小麦粉を持って来ておくれ」

「うん!」


 ハンスは元気よく応えると、小屋へと走って行きました。


「よーし、これだなー」


 ハンスが袋を持ち上げ、家に戻ろうとしたその時、


「あっ!」


 強い北風が吹いて、小麦粉は袋ごと飛ばされてしまいました。


「あぁ! 大事な小麦粉が!」


 小麦粉を吹き飛ばされた事に怒ったハンスは、袋を目印に北風を追いかけました。

 走って走って、とうとう北風に追いつきました。


「おい! 北風! 僕のうちの小麦粉を返せ!」


 その言葉に北風は答えました。


『ん? 小麦粉? よくわからないがそんなに大事な物なのか?』

「僕のうちは貧乏で、小麦粉もあまり買えないんだ! あれがないとパンが焼けなくて、僕もお母さんもお腹がぺこぺこだ!」

『そうか……。では小麦粉はないがこれをやろう』


 そう言うと北風は、一枚のテーブルかけを取り出しました。


『これはテーブルにかけて食べたいものを言えば、何でも好きなものを出せる。これで小麦粉の代わりにしてくれ』

「本当!? ありがとう!」


 テーブルかけを受け取ったハンスは大喜びで家に向かいました。

 その途中どうしても試してみたくなって、途中にあった宿屋に立ち寄りました。


「テーブルを貸してください!」

「テーブル……? まぁいいけど……」


 宿屋の女将さんは、首を捻りながらもテーブルを貸してくれました。

 そこにハンスがテーブルかけを広げて、


「美味しい鳥の丸焼き、出ろ!」


 そう言うと、テーブルかけの上に美味しそうね鳥の丸焼きが現れました。


「……!」

「わーい! 北風の言った通りだ!」


 驚く女将さんの目の前で、ハンスは鳥の丸焼きにかぶりつきました。

 食べ終わったところで、女将さんがハンスに声をかけました。


「あ、あんた、もう遅くなりそうだから、うちに泊まっていきな」

「え、でも僕お金ないよ」

「いいよ、ただで泊まっていきな」

「わー! ありがとう!」


 たくさん走って、ご馳走を食べたハンスは、部屋に通されるとすぐに眠ってしまいました。

 その隙に女将さんは大急ぎで市場に行き、似た柄のテーブルかけを買ってくると、ハンスのテーブルかけと取り替えてしまいました。

 そうとは知らないハンスは、翌朝女将さんが出してくれた朝ご飯を食べ、お礼を言って宿から家に向かいました。


「お母さん! 北風からすごいテーブルかけをもらったよ! ご馳走が何でも出てくるんだ!」

「あらまぁ本当?」

「よーし、鳥の丸焼き、出ろ!」


 しかし普通のテーブルかけからは何も現れません。


「おかしいなぁ。北風のやつ、だましたのかな」


 ハンスは再び北風の元に向かいました。


「おい北風! テーブルかけ、一回しかご馳走を出さなかったぞ! 小麦粉を返せ!」

『おかしいな……。そんなはずはないのだが……。だが小麦粉は返せないから、これをやろう』


 北風はそう言うと、一匹の羊をハンスに渡しました。


『こいつは金貨を出せと言えば口から金貨を出す羊だ。これを持って行くといい』

「ほ、本当? ……金貨を出せ!」


 すると羊の口から金貨がポロポロとこぼれました。


「すごいや! ありがとう!」


 ハンスはうきうきしながら家に向かいました。

 その途中、ただで泊まらせてくれた宿屋にお礼に行く事にしました。


「女将さーん」

「! な、何だい坊や!? な、何か用かい!?」

「あのね、前にただで泊めてくれたからそのお礼! はい!」

「き、金貨……!?」


 ハンスが差し出した金貨に、女将さんは目を丸くしました。


「こ、こんな大金をどこで……!?」

「あのね、北風にもらったこの羊は、『金貨を出せ』って言うと口から金貨を出すんだ」

「……そうかい。そりゃあ良かった。折角だからうちでお祝いをしていかないかい……?」

「え! ありがとう! 嬉しいな!」

「……ふふふ」


 こうしてハンスはまた宿屋に泊まる事になりました。

 ハンスが寝ると、女将さんは似たような羊を市場で買って来て、ハンスの羊と取り替えてしまいました。

 そうとは知らないハンスは、羊を家に連れて帰りました。


「お母さん! これすごいんだよ! 口から金貨を出す羊なんだ!」

「あらまぁ本当?」

「さぁ金貨を出せ!」

「……めぇ〜」

「……あれ? 金貨を出せって!」


 何度声をかけても、羊はめーめー鳴くだけです。

 ハンスはまた怒りました。


「むー! 北風め! やっぱりだましていたんだな!」


 そう言うとハンスは、羊を抱えてまた北風の元に戻りました。


「おい! 北風! この羊も一回しか金貨を出さなかったぞ! 小麦粉返せ!」

『えぇ……? 何で……? 何か私の事をだましてない? 偽物持って来てごねてるとか……』

「本当に一回出したっきり使えなくなったんだ!」

『じゃあ彼を呼ぶか……』


 北風は眼鏡の少年を取り出しました。


「え? 誰これ?」

『悪い奴をこらしめる坊やだ』

「え? 悪い奴をこらしめる棒じゃなくて!? 確か原作では」

「あれれ〜? お兄さん、原作って何の事〜?」

「あ、いや、何でもないです……」


 ハンスが言葉を失ったところで、少年がその顔を覗き込みました。


「あれれ〜? お兄さ〜ん。この羊、北風さんの羊と毛並みが違わない〜?」

「え、そう!? 羊の毛並みなんかわからないからなぁ……」

「ふーん……」


 少年の眼鏡がきらりと光りました。


「北風さん、この人本当に知らないみたいだよ〜? 羊を取り替えてごねようとしているなら、誤魔化そうとして前の羊との共通点を話すだろうからね〜」

『成程なぁ』

「じゃあどこかですり替えられたのかな……。そうするとあの宿屋の女将さん、もしかして……」

「心当たりあるなら、ボクが一緒に行くよ〜」

「え?」

「北風さんの贈り物、猫ババするような悪い奴は、お仕置きがいるよね〜……」

「う、うん。よろしく……」


 にやりと笑う少年に、ハンスは思わず頷きました。




 その後、宿屋の女将さんは少年の、


「あれれ〜? おっかしいな〜? 全然食べ物を仕入れていないのに、ちゃんとご飯が出るなんて〜。……まるで何もない所から食べ物を出す魔法みたいだね……」


 から始まった詰問に全てを白状し、お城の兵士に自首しました。

 こうしてハンスはテーブルかけと羊を取り戻し、お母さんと幸せに暮らしました。

 ちなみに少年は、


「ボクは他の謎を解きに行くからまったね〜」


 と北風と共に去っていきましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


原作では、『悪い奴をこらしめる棒』をもらい、それさえ盗もうとした女将さんを叩きのめして宝を取り戻しました。

まぁそれはそれで良いざまぁなのですが、折角なので精神的に追い詰める方でやってみました。

あの名探偵少年が可愛い感じから真相に切り込んでいくスタイルは、犯人側からしたら半ばホラーだと思います。


次回は『聞き耳ずきん』で書きたいと思います。

次回はちゃんと日曜にお届けしますので、よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元ネタに関しては、私はまったく知らないと思います。
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