ネコのすず その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百四十四弾です。
今回は『ネコのすず』で書かせていただきました。
原作では、ネコの脅威を避けるために首に鈴をつけようと相談するも、じゃあそれを誰がするんだという話になって立ち消えになる、というお話。
まぁ今回そこは何とかなったのですが……。
どうぞお楽しみください。
昔々ある家に、ネズミ達が暮らしていました。
ネズミ達には悩みがありました。
「あのネコがいると、思ったように食べ物が取れない……」
「どんなに裏をかこうとしても、先回りされる……」
「あー! 台所のチーズとか食べたい!」
「どうすればあのネコを出し抜けるのだろう……」
ネズミ達は額を突き合わせて相談を重ねました。
そしてある日、名案が浮かびました。
「ネコの首にすずをつけよう!」
「おお! そうすればどこにいるのか丸わかりだ!」
「すずが鳴ったら逃げればいいんだからな! 楽勝だ!」
皆その名案に興奮しました。
しかし落ち着くと一つの問題に気が付きました。
「……誰がそのすずを、あの隙のないネコの首に付けるんだ……?」
「……あ……」
「む、無理だ……」
しかしあるネズミが得意げに鼻を鳴らします。
「俺っちに任せておけ! 余裕でネコにすずをつけてやるぜ!」
そう言うとネズミは、SNSで『ネコとすずの組み合わせ最強説』を流しました。
ネコの飼い主はそれを見て、ネコにすずをつけました。
「わぁ! ネットで見た通り可愛いわ!」
「にゃあん」
ネズミ達は大喜びしました。
「これで台所は、僕らのバイキング会場だ!」
「やばいなー。太っちゃうなー」
「食べ放題、そういうのもあるのか!」
「ヒャッハー! 飯だー!」
喜び勇んで台所に忍び込みます。
耳を澄ませてもすずの音は聞こえません。
「よーし、ここからは自由行動! 食い荒ら」
「……動くな」
「!」
ネズミ達は凍り付きました。
「ぱ、はかな……! すずの音はしなかった……!」
「……『すずが必ず鳴る』、と思い込まない方がいい……」
「な、何……!?」
ネコの言葉にネズミ達は戦慄しました。
「そ、そうか! すずは中の球が周りの金属に当たって音を立てる!」
「つ、つまり中の球が触れないようにそっと動けば……!」
「ば、馬鹿な……! そんな神業ができるはずが……!」
(……)
ネコはネズミ達の前ですたすたと歩いて見せました。
すずはちりんとも鳴りません。
「うっ……!」
「……!」
強張るネズミ達に、ネコは静かに言いました。
「……俺の仕事の邪魔はするな」
「え、し、仕事……!?」
「仕事は僕達の侵入を防ぐ事じゃ……!?」
(……)
ネコの鋭い眼光に、ネズミ達はたじろぎました。
「わ、わかった……。台所に侵入するのはやめる……」
(……)
「こ、この家を荒らさない! 食べ物は森の木の実などで賄う! こ、これでいいか……!?」
(……)
ネズミの長の言葉に、ネコは無言で去って行きました。
ネコの姿が見えなくなって硬直から解き放たれたネズミ達は、大慌てで巣穴へと駆け戻りました。
「あぁ怖かった……」
「何だよあの目の鋭さ……。昔話にいていいキャラじゃないよ……」
「約束を破ったら命はないって感じがやばすぎる……」
「でもあいつの仕事って一体何なんだろう……?」
冷や汗を拭いながら、ネズミ達は首を傾げるのでした。
「あぁん! 今日も可愛いわぁ!」
「にゃあん」
「あぁ、ネコのお腹からしか得られない栄養があるぅ! すーはーすーはー!」
「うにゃん」
こうしてネコは今日も仕事を果たすのでした。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
ネコ……。一体何ルゴなんだ……。
次回は『北風のくれたテーブルかけ』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。