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王様の耳はロバの耳 その二

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百四十三弾です。

今回は『王様の耳はロバの耳』で書かせていただきました。

何故王様の耳がロバの耳に変えられたのか、その辺りから拾って広げてみました。


どうぞお楽しみください。

 王様は悩んでいました。


「この耳の事を人に知られる訳には……!」


 一人鏡の前でそう呟いた王様は、そっと自分の耳を撫でました。

 そこにはふさふさと毛の生えたロバの耳。

 王様の耳がロバの耳になったのには、理由がありました。

 ある時田園の神様と音楽の神様が、それぞれの音楽を競った事がありました。

 その時、誰もが音楽の神様の竪琴が優れていると言ったにも関わらず、王様は田園の神様の笛の方が良いと言ったのです。

 その事に怒った音楽の神様が、


「そのような音楽のわからん耳なら、ロバの耳に変えてやる!」


 そう言って王様の耳をロバの耳に変えてしまったのでした。

 王様はこの事を、何としても隠さないとと思っていました。

 何故ならこの事が知られれば、音楽の神様は『気に入らない判定をした者を理不尽に罰する神様』という風評が立ちかねません。

 それは神様を大事に思う王様にとって、どうしても避けたい事でした。


「しかし髪は切らなければならない……」


 大分伸びて来た髪を、王様は撫でました。

 このまま髪を伸ばし続ければ帽子では隠し切れなくなり、それはそれで周りから不審に思われかねません。


「……仕方あるまい。口止めをしっかりできる床屋を呼ぶとするか……」




 翌日。

 お城に一人の床屋が呼ばれました。

 若い彼は妻も子もなく一人暮らしで、秘密を一番守れそうだと王様が判断したからです。

 しかしこれまでお城に行った事もない床屋は、緊張しながら王様の前に立ちました。

 震える床屋を可哀想に思いながら、王様は床屋を自室へと連れて行きました。


「この後、この部屋の中で見聞きしたものは、全て他人に話さないように。良いな?」

「は、はひ……!」


 床屋は震えながら頷きました。

 それを見た王様は、静かに帽子を取りました。


「お、王様、その耳は……!?」

「……黙って髪を切れ」

「……はい……」


 その言葉に押し殺したような辛さと悲しみを感じた床屋は、黙って王様の髪を切り、お城を後にしました。

 しかしその後も王様の耳の事が気になって仕方がありません。


「どうして王様はあんな顔を……」


 しかし他人に話してはいけないという約束が、床屋を苦しめます。

 そこで人のいない森の中へと向かい、穴を掘って叫びました。


「王様の耳はロバの耳ー! 王様の耳はロバの耳ー!」


 すっきりした床屋は、その穴を埋めて家へと帰りました。

 その様子を見ていた者がいました。

 音楽の神様と田園の神様です。


「……田園の神よ」

「何だね?」

「私に罰を与えてくれ。あしを生やし、床屋が穴に封じた言霊を喋り広げるようにしてくれ」

「しかしそれではあの王の心意気を無にする事になるまいか? お主が耳を戻してやるだけではいかんのか?」

「……愚かな神を庇った王、という評価を返すのが、せめてもの償いだと思うのだ……」

「……あやつがそんな事を望むかわからんが、まぁ気の済むようにせい」


 こうして王様の耳の話は、葦から国中へと広がりました。

 怒った王様は、床屋を呼び付けました。


「床屋よ……! あれ程他人に話してはならぬと言ったのに……!」

「も、申し訳ありません! ですが人には話していないのです! 森の穴に向かって叫んだはずなのですが、そこから生えた葦がその事を喋り始めて……!」

「何……?」


 そこへ音楽の神様と田園の神様がやって来ました。


「王よ。済まなかった。耳は元に戻す。私の感情に任せた行いを人に知られまいとしてくれて感謝する」

「え、か、神様……!?」

「王よ。こやつは自分の罪を罰せられるために、儂にこの床屋の言葉を葦に語らせるようにしたのだ。お主の苦労を無にしたようで悪いが、受け入れてやっておくれ」

「……そう、でしたか……」


 項垂れる王様に、音楽の神様は優しく告げます。


「そこの床屋がお前を思い、誰にも告げずに秘密を守っていた。しかし真剣な思いは胸に留めるには大き過ぎた。それを森で穴に叫んだのを見た時に、私は悟った」

「え、ぼ、僕……!?」


 驚く床屋に音楽の神様は頷きました。


「どれ程王が私を思ってくれていたのか、そして床屋が王をどれ程思っていたのかをな」

「神様……」

「故に私は謝罪をするに至った。感謝する」

「いえ、そんな、こちらこそ、ありがとう、ございます……?」

「……床屋よ。私からも礼を言う。ありがとう」

「王様まで……!」


 こうして耳が元に戻った王様は、床屋に褒美を与えました。

 床屋は今度は思う存分この話を広げ、王様の優しさと、間違いを認められる神様の素晴らしさについて大いに語ったのでした。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


原作をなぞりつつ新たな解釈を加える。

これぞパロディ!

多分パロディだと思う。

パロディなんじゃないかな。

ま、大目に見てくれ(震え声)。


次回は「ネコのすず」で書きたいと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 音楽の神様がやったことは『ロバは音楽の良しあしがわからない』という、ロバに対する誹謗中傷でしたね。 ロバの鳴き声はかすれて疲れたようなヒーホーという音ですけど、音楽がわからないとは限らない…
[一言] 実は、この王様・・・ この後、酒の神様やその侍従(師匠でもあった)賢者とのカラミでとんでもないことに! ちなみに、王様の名は「ミダス」と言います。
[一言] 関白宣言、再び(笑)。 パロディだと思います。
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