オオカミと七ひきの子ヤギ その四
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百四十二弾です。
今回は『オオカミと七ひきの子ヤギ』で書かせていただきました。
新たなアプローチです。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、お母さんヤギと七匹の子ヤギが住んでいました。
ある日お母さんヤギは、町に買い物に出かける事になりました。
「お母さんが帰って来るまで、扉の鍵を開けては駄目よ?」
『はーい!』
子ヤギ達は元気にお返事しました。
お母さんヤギが出かけた後、子ヤギ達はお家の中で思いっきり遊びました。
段々と気持ちが盛り上がり、普段お母さんヤギがいる時にはできない、お家の中でのボール遊びをしていたところ、
「あっ!」
がしゃーんと大きな音を立てて、花瓶が割れてしまいました。
「どうしよう……」
「おかあさんにおこられる……」
「やっちゃいけないっていわれてたのに……」
「おにいちゃんがやろうっていうから……」
「ぼくがわるいっていうのかよ! みんなでやったんだろ!」
「うわーん! どうしようー!」
「だれかたすけて……!」
その時、家の扉が叩かれました。
「おーい、何か大きな音がしたけど大丈夫かい?」
それは通りがかりのオオカミでした。
お母さんヤギに怒られる事で頭がいっぱいだった子ヤギ達は、お母さんヤギとの約束も忘れて扉を開けてしまいました。
「お、おぉ!? 子ヤギばっかりじゃないか。お母さんはどうした?」
「あ、あのね? おるすばんしてたの」
「それでボールあそびしてたら、かびんがわれちゃったの」
「おかあさんにおこられる……」
「どうしよう……?」
「素直に謝ったらどうかな? そうしたらお母さんも許してくれると思うよ」
「でも……」
「やくそくまもれなかったし……」
「おやつなしになっちゃうかも……」
「……そうか。じゃあおじさんが手伝ってあげよう」
そういうとオオカミは、子ヤギ達に作戦を説明しました。
「ただいまー。あら? みんなどこ?」
「お、おかあさーん」
末っ子の子ヤギが、掛け時計の中から飛び出しました。
「あのね、オオカミさんがきて、おにいちゃんたちをたべちゃったの」
「えっ?」
「で、いまねてるの。おかあさん、たすけて」
「……」
棒読みな末っ子の言葉と割れた花瓶を見て、お母さんヤギは全てを察しました。
寝室に行くと、オオカミが大きなお腹でいびきをかいていました。
その大きな膨らみの中で、ごそごそと何かが動いています。
小さく子ヤギ達の声も聞こえます。
「あらあら大変。早く助けないと」
「おかあさん、ハサミもってきた」
「ありがとう。じゃあすぐ助けましょう」
末っ子ヤギから受け取ったハサミで膨らみの端をちょんと切ると、ぴりぴりと裂けて中から子ヤギ達が出てきました。
「おかあさん、ありがとう」
「こわかったよー」
「たべられちゃうかとおもった」
「ばか、たべられてたんだよ」
「ありがとうおかあさん」
「ありがとう」
するとオオカミが跳ね起きて叫びました。
「しまった! お腹を切られて子ヤギ達が出てしまった! ここはひとまず退却だー!」
お腹の皮がわりの布を抱えると、オオカミは子ヤギ達の家を飛び出して行きました。
そしてすぐ、家に戻ってきました。
「というわけで」
『サプラーイズ!』
「まぁ」
オオカミと七匹の子ヤギ達のポーズを決めた決め台詞に、お母さんヤギは驚いた顔をしました。
「おかあさんびっくりした?」
「えぇ、びっくりしたわ」
「ほんとうにたべられちゃったとおもったでしょう」
「えぇ、そうね」
「ぼくたち、わらわないようにがんばってたよ!」
「あら、そうだったの」
「オオカミさんのおなかのうえ、あったかかったよ」
「そうなのね」
「でもびっくりさせるじゅんびしてたら、かびんこわしちゃったの」
「ごめんなさい」
「いいのよ。お母さん、みんなが無事でほっとしたわ」
「おかあさん!」
『おかあさーん!』
子ヤギ達に飛びつかれて、お母さんヤギは優しく頭を撫でました。
そしてオオカミに頭を下げます。
「オオカミさんもありがとうございます。うちの子達がお世話をおかけしました」
「いえいえ、驚かせてしまってすみませんでした」
「よろしければこの後お食事をご用意させてください」
「え、でも……」
『おじさん、いっしょにたべよー!』
「……じゃあお言葉に甘えて……」
そして夕食の時間。
「何かを壊しちゃった時は、サプライズしないでちゃんと謝りなさい? 正直に言ったら、ちょっとしか怒らないから」
『えっ』
お母さんの言葉に固まる子ヤギ達を、オオカミは優しい目で見つめるのでした。
読了ありがとうございます。
やさしいせかい。
オオカミにも癒しはありまぁす!
次回は「王様の耳はロバの耳」で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。