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復讐屋十三 その二

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百四十弾です。

今回はキリ番なので、元話のタイトルは伏せて書かせていただきました。

まぁ昔話の復讐譚なんて、そんなに多くはなく、あれと、これと、それと……。


とにかく、どうぞお楽しみください。

 復讐屋『十三(じゅうぞう)』。

 それが本名かどうかもわからない。

 ただ一つ確かな事がある。

 彼は必ず依頼者の求める復讐を果たす……。




「儲け話だって?」

「ああ……」


 きぬたは男の言葉に、怪訝そうな表情を浮かべた。


「この荷物を運ぶだけで大金がもらえるって訳か」

「ああ……」

「話がうますぎやしないか? こんな大して重くもない荷物を運ぶだけなんて……。何か裏があるんじゃないのか?」

(……)


 砧の言葉に、男はその荷物を持って無言で立ち去ろうとする。

 その様子に砧は慌てた。


「ま、待ってくれ! や、やらないとは言ってないだろう!? ただ事情ぐらいは聞きたいと思ってさ、へへ……」

(……)


 引き止める砧に、男は無言で荷物を下ろす。

 そして重々しく口を開いた。


「……火打鳥、という鳥がいる」

「ひ、ひうちどり……?」

くちばしに火打石を咥え、火を起こして狩りをする鳥だ……。その鳥が今年は増えているために、こういった燃え草が高騰しているという訳だ……」

「な、成程……」


 納得した砧は荷物を背負う。

 男はもう一つの荷物を背負ってその後ろについた。


「あ、あんたが案内してくれるんじゃないのか……?」

「……俺は他人が後ろに立つのが嫌いだ……。曲がるところは指示する……」

「わ、わかったよ……」


 まるで拳銃でも突きつけられているような恐怖で、砧は言われるままに進む。

 すると石と石を打ち合わせるような音が、砧の背後から聞こえてきた。


「お、おい、何だか妙な音がするが……!?」

「……火打鳥に気付かれたようだ。走れ。火をつけられるぞ」

「ひ、ひい〜〜〜!」


 砧は必死に走る。

 しかし背中からメラメラという音と共に、凄まじい熱さを感じ始めた。


「ぎゃあ〜〜〜! も、燃えてる〜〜〜!」

「急げ。火打鳥に食われるぞ」

「わああ〜〜〜!」


 背中を焼かれながら砧は走る。


「もう大丈夫だ」

「ひ、ひいい〜〜〜!」


 走り抜いた先で男に火を消してもらったものの、砧は背中に大きな火傷を負った。

 その数日後。


「うう〜〜〜! 痛え! 痛え!」


 砧は背中の火傷の痛みにうめいていた。

 そこにやって来る男。


「随分酷くやられたな」

「お、お前があんな話を持って来なければ……!」

「危険については話した……。その上でやると選択したのはお前だ……」

「うう……」


 砧には返す言葉もない。

 そこに男は大きなつぼを荷物から出した。


「な、何だそれは……!?」

「火傷に効くと噂のたで味噌を持って来た……」

「そ、それを塗れば治るのか……!?」

「ああ……。ただカプサイシンによる消毒作用が傷に染みる……。それでも良いか……?」

「な、治るならそれでも良い……! 早く……!」

「わかった……」


 蓼はとても刺激の強い植物。

 それを練り込んだ味噌は、砧に凄まじい痛みを与えた。


「ぎゃあああ〜〜〜! い、痛い! 痛いい〜〜〜!」

「治療の一環だ。辛いなら止めるが」

「うう……! や、やってくれ……! い、痛え……!」


 激痛に耐えながら砧は治療を受け入れる。

 しばらくして砧の背中の火傷は大きな傷を残しながらも快方に向かっていた。

 そこに男がやって来て、砧を魚釣りへと誘う。


「魚の蛋白質は身体の治療に役立つ……。釣りに行こう……」

「……ほ、本当に釣りに行くのか……?」

(……)


 男の無言の圧力に、砧は屈した。


「わ、わかった……。行くよ……」


 砧は男と湖へと向かう。

 そこには木と泥の二隻の船が置いてあった。


「ど、どっちの船に乗るんだ……!?」

「……俺ならばこの泥で作った船を選ぶ……。少しずつ崩れるこの船の泥を、魚は餌と勘違いして集まるからな……」

「な、ならそれを俺に譲ってくれ!」

(……)


 男は無言で木の船に乗る。

 砧は喜び勇んで泥の船に乗った。


「さて、これで大漁だ……!」


 しかし船は湖の水にどんどんと溶け、砧は湖の真ん中に投げ出される。


「ぶあっ! たすっ、助けてくれ! 俺は泳げないんだ!」

「……その事については調べがついている。だからここに誘い込んだ」

「な、何っ!?」

「信じた相手に裏切られる気分はどうだ?」

「!!」


 その時砧の脳裏に、ある光景が浮かんだ。

 自分に情けをかけてくれた人を裏切り、嘲笑あざわらった記憶。


「お、お前、まさか……!」

「お前が心から改心するなら命を取る必要はないと、依頼人から言われている。だが改心の兆しが見えないなら……」

「た、助けてくれ! あぶっ! 改心する! ぶはっ! か、改心するから……!」

(……)


 船の上から無言で見つめる男に、砧は心底恐怖した。


「わ、わかった! ぶはっ! お、俺が騙した全ての人に謝罪する! げほっ! 必要なら補償もする! だから……!」

(……)


 男は無言で砧にかいを差し出す。

 それに掴まって、砧は命からがら男の木の船に辿り着いた。


「……俺は依頼主にも標的にも二度は会わない。会う時は相手を始末する時だからだ。もしお前が約束を違えた時は……」

「ひい〜〜〜! あ、謝る! ちゃんと謝るから……!」

(……)


 男は無言のまま、船をゆっくりと岸に向かわせる。

 足が浅瀬についた砧は、一目散に岸へと駆け上がった。


「約束を忘れるな。果たされない時には、俺は手段を選ばない……」

「ひ、ひいい〜〜〜!」


 背に受けた言葉が効いたのか、後日砧はこれまでに迷惑をかけた相手に謝罪をして回る事となる。

 その中の一人である依頼者は、涙を流して十三に感謝したという……。

読了ありがとうございます。


終始あの眉毛スナイパー風の男に「……◯◯だピョン」と言わせようと思って、ぎりぎり踏みとどまりました。

元話がばれてしまいますからね。

……火打鳥の時点でバレバレですかそうですか。


次回は『一寸法師』で書こうと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや~ 「火打ち鳥」でわかりました。 ここでウサギ役を十三さんがやるとは!
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