金太郎 その一
パロディ昔話第十四弾。今回は金太郎です。
金太郎は熊に相撲で勝った後、その剛力を認められ、京都で侍になり、大江山の酒呑童子という鬼を退治する、というのが本筋なのですが、知らない人が結構いるんですよね。
「熊に勝った金太郎は、立派な相撲取りになりました」
「ふ〜ん」
ボケが通じないこの辛さ!
そんな思いを詰め込んだ今回のお話、どうぞ枡席でご観戦ください。
昔々、足柄山という山に、金太郎という男の子が住んでいました。
金太郎はとても力持ちでしたが、心優しく、誰からも好かれる子でした。
金太郎は子どもの頃から相撲が好きでした。
なので高校でも相撲部に入部しました。
しかしそこには、
「オラァ! 可愛がりだコラァ!」
熊田という先輩が、暴力で支配する悪夢のような光景が広がっていました。
「やめてください先輩! 何故暴力なんか……!」
「うるせぃ! 相撲なんてもんは、身体がデカくて力が強けりゃ何やっても良いんだよ!」
「そんな事はありません! 心技体全てが揃うからこそ、神に捧げる神事となり得るのです!」
「聞いた風な説教なんかで俺が止まるかよ! 止めたきゃ……」
熊田は土俵を指し示します。
「……分かりました」
二人はまわしを締めて、土俵の上で向き合います。
「はっけよい……!」
両の拳が地につき、そして別れを告げます。
次に新たな土俵を踏むまで、決してまみえる事は無い、という誓い。
弾かれたように、金太郎は熊田に向かいます。
「オラァ!」
「!」
凄まじい音が響き渡りました。
熊田の張り手が、金太郎の顔を捉えたのです。
立ち合いで勢いよく飛び出した顔に突き刺さるその一撃は、常人なら失神してもおかしくない程の威力でした。
ですが。
「……先輩の相撲が、泣いてます……」
「アァ!?」
頬に平手を食い込ませたまま、金太郎は悲しく、優しい目を向けます。
「真っ直ぐなのに迷っている……。何が先輩の相撲を歪めてしまったのですか……?」
「なっ、し、知った風な口をきくなぁ!」
左の張り手をかわし、懐に飛び込む金太郎。
「受け止めますよ。先輩の怒りも、嘆きも……!」
「う、おっ! テメェ……!」
まわしを取る金太郎。
熊田も負けじとまわしを掴み、がっぷり四つの格好。
(なっ、こいつ、重い! まるで山でも相手にしてるみてぇだ! 動かせる気がしない……!)
熊田は金太郎の安定感に驚愕します。
そしてニヤリと笑います。
「お前、強ェな」
「先輩もその迷いさえ振り切れば、もっと強くなれますよ」
「言ってくれるぜ!」
熊田は右に左にと揺さぶりをかけながら、ジリジリと引いていきます。
動かないなら押させる。それも気付かれないように巧みに。
(土俵際……! ここだ!)
熊田は俵を足掛かりに一気に押します。
押し返して来たところで体をかわし、引き落としを狙います。
しかし。
(お、押せねェ……! まるで来るのが分かってたかのように、受け止められてる……!)
愕然とする熊田に、金太郎は愛おしむように一歩、二歩と足を進めます。
我知らず、熊田の足は土俵を割りました。
「す、すげぇぞあの一年!」
「熊田先輩に勝っちまった……!」
どよめく部員達。
そんな歓声を気にも止めず、熊田に手を差し伸べる金太郎。
「先輩の辛さ、良ければ聞かせてください」
「……ケッ、強さだけじゃなく器も横綱級かよ。勝ち目ねぇな俺……」
熊田は苦々しそうに、しかし少し嬉しそうに、熊田は金太郎の手を握りました。
「大江山高校の、鬼の酒呑……」
「あぁ。去年俺らは全国大会でてんで歯が立たなかった……。あいつに勝って全国優勝を果たすには、今まで以上に鍛えないと、そんな焦りがあってな……」
「そうでしたか……」
去年を知る部員達が、沈痛な面持ちを浮かべる。
「だがお前となら……!」
「ちょっと待ったー!」
明るい声が、二人の間に水を差します。
「アァ!? 何だテメェらは!」
「一年碓井っ!」
「同じく卜部っ!」
「……渡辺」
「な、何!? 中学相撲のキラ星達じゃねぇか……!」
驚く熊田と金太郎の手を、碓井が包み込むように握ります。
「僕らもその夢に乗らせてくださいよ!」
そこに卜部が手を重ねます。
「俺達で最強伝説、作っちゃおうぜぃ?」
更に渡辺が手を乗せます」
「鬼退治なら、任せろ……」
「……えぇ、よろしくお願いします」
「す、すげぇ! 本当に全国制覇も夢じゃねぇぞ!」
打倒大江山高校!
その誓いの元集まった金太郎と、碓井、卜部、渡辺の四人は、鬼と呼ばれる酒呑と戦いに向けて、しのぎを削り合います。
後に足柄山高校相撲部四天王と呼ばれる四人の、これは出会いの物語……。
読了ありがとうございます。
鬼退治が通じないなら、もう相撲バトルにするしか無いじゃない!
と勢いで書きました。
火◯丸相撲? 大好きです!
落語の「佐野山」とかも大好きです!
次回は桃太郎セカンドシーズンでおあいしましょう。