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瓜子姫 その三

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百三十八弾です。

今回も『瓜子姫』で書かせていただきました。


『天邪鬼と瓜子姫は姉妹説』から書いてみました。

どうぞお楽しみください。

「捕らえたぞ!」

「縄をもて! 縛り上げろ!

「く……」


 抑え込まれ、縛られた私は抵抗をやめた。

 私を見下ろす侍達。

 怯えた顔の瓜子姫。

 その横には、しっかりと肩を支える若いお殿様。


「瓜子姫をかどわかして木に吊るし、その間に殿の奥方に成り代わろうとは、何とおぞましい……!」

「殿! この者に同情の余地などありませぬ! 直ちに首を刎ねましょう!」

「……そうだな」


 お殿様の言葉に、侍達の殺気が高まる。

 ……あぁ、馬鹿な奴ら。

 こうなる事が私の計画通りとも知らないで。


「……お姉、様……?」

「!?」


 な、何故!?

 物心つくかつかないかの折に、瓜に入れて流したお前が、何故覚えている!?


「……これがお前の姉だというのか? 瓜子姫……」

「……はい、幼い頃、『幸せにおなり』と瓜に封じて、山から送り出してくれた覚えが……」

「……!」


 まさか覚えていたなんて……!

 我々天邪鬼の一族は、他者を騙し、うまく奪う者ほど優れているとされる。

 騙される方が悪い。

 奪われるのが悪い。

 それが山での常識だった。

 でも妹が生まれて、私の常識は崩れ去った。

 あんなに可愛い妹に、全てを与える事があっても奪う事なんてできない。

 そして妹がこの山に染まっていく事が耐えられない。

 そう決めた私は、山の掟に逆らって妹を瓜に封じ、川に流した。

 山の事など何も知らず、私の事も忘れて、幸せに生きていてほしかったのに……!


「……瓜子姫の姉が、何故……?」

「……羨ましかったからさ。他に理由なんかあるかい」


 私は悪態をつく事にした。

 そうすれば誰かが、怒りに駆られて私を斬るだろう。


「元々美しく生まれたこいつが憎かった! だから山から追い出した! 『幸せにおなり』なんてただの嫌味さ! のたれ死ねば良いと思っていたんだよ!」

「貴様……!」

「そうしたら気の良い夫婦に拾われて、美しく育って、お殿様の奥方に迎えられる!? ふざけんじゃないよ! だからあたしは奪ってやろうとおもったのさ!」

「おのれぇ!」


 ここまで言えば、誰も私に同情などしないだろう。

 私が死んだと聞けば、山の連中も妹を諦めるはずだ。

 何せ奪うのは大好きでも、奪われるのは大嫌いだからな。

 これで本当に、この子は山のしがらみから解き放たれる……。


「待ってください!」

「瓜子姫!?」

「姫様! おどきください!」


 な、何故この子は私を庇うの!?

 こんな最低の一族から縁を切れ、幸せを掴む好機なのに!


「……瓜子姫、何故其奴を庇う? 身内とは名ばかりの悪鬼も同然の其奴を……」

「……姉が何故こんな事をしたのかまではわかりません……。でも姉の目は、私を山から送り出してくれた時と同じ、優しい目ですから……」

「!」


 ……そんな事を言っては駄目……!

 私は生きていれば山に戻るしかない……!

 掟が自害を許さないから……!

 そうすれば奴らは私から情報を奪い、狡猾な罠を張って妹を奪いに来る……!

 それだけは……!


「……だが逃しては、また瓜子姫を狙うやも知れぬ」

「ですが……!」

「では兄上。この女、俺が貰っても良いか?」


 だ、誰!?

 身なりからして身分の高い方のようだけど……!?

 口ぶりからして、お殿様の弟君か……?


「この女を嫉妬も湧かないくらい可愛がってやれば、瓜子姫には手を出すまい?」

「……お前がそう言うなら構わんが、物好きな……」

「俺はこういう情念の深い女が好みだ。さて、どう可愛がってやろうか、楽しみだな」


 え、わ、私、この男に何をされるのだ……!?

 いっそ殺してくれ……!

 震える私の耳に、口が近付く……!


「妹の為に命をなげうとうとする姿勢、嫌いではないが見逃せぬな」

「!」


 見抜かれていた……!?

 いや、そんな、こんな僅かなやり取りで見抜かれるはずが……!


「大方その山とやらから瓜子姫を連れ戻せのめいがあり、逆らえぬから死してあらがおうと言ったところか」

「な、何故それを!?」

「やはりそうか。それなら我が元から手放さなければ、結果は同じであろう? 安心せい。お主は誰にも渡さん」

「!」


 な、何を言うのだこの男は……!?

 それではまるで婚姻の……!


「おや、赤くなったな。善い善い。可愛がり甲斐がありそうだ」

「くっ……!」


 悔しいけれど斬られなくなってしまった以上、妹を守るにはこの手しかないのも確か……。

 この男の意図は読めないけれど、今は従っておこう……。


「其方、名は?」

「……我ら天邪鬼の一族に個別の名はない。好きに呼べ」

「ならば天邪鬼から一文字取って、天女あまめと呼ぶとしよう」

「……あまめ……」


 私に名前が……。

 あまめ、あまめ……。

 何とも言えない響きだ……。


「字は『天女てんにょ』と同じだ」

「て、てんにょ!?」

「名前負けせぬよう、存分に着飾らせてやろう」

「……!? ……!?」


 な、何を言っているのだこの男は……!

 天女と言えば美しい女を指す言葉……!

 い、いや違う!

 天邪鬼から文字を取ったと言ったではないか!

 天邪鬼の女、で天女あまめなのだ!

 くそ、こいつと話すと調子が狂う!


「さて、縄を解くか。……いや、のがさぬよう、このまま抱き抱えていくとしよう」

「やっ、やめろ! おろせ!」

「ははは暴れるな。しかし軽いなお主。もう少し肥ねば、子を産む時に難儀するぞ?」

「子……!?」


 高鳴り始めた動悸は、先行きへの不安か、それとも……?

読了ありがとうございます。


弟君は「おもしれー女」枠だったのに、普通にイケメンになりました。

あまめだからね。仕方ないね。


書いたッ! 三部作完!


次回は『ライオンとネズミ』で書こうと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「思っていることと反対のことを言う」と言う天邪鬼そのものなところ。
[一言] まさかの天邪鬼のどんでん返し! こうくるとは!
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