瓜子姫 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百三十六弾です。
今回は『瓜子姫』で書かせていただきました。
原作では川から流れて来た瓜から生まれた瓜子姫が、その美しさからお殿様に見そめられるも天邪鬼にさらわれ、窮地を鳥に救われて幸せになるお話。
……何か似た話があったような?
そこら辺と織り交ぜてみました。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日おばあさんが川で大きな瓜を拾いました。
「まぁ、これは大きい瓜じゃなぁ。おじいさんと一緒に食べるとするかのう」
おばあさんはその大きな瓜を持って帰りました。
「お、何じゃばあさん、その大きな瓜は」
「川から流れて来たんじゃよ。さ、今切り分けるでな」
その瓜を切ろうとしたその時、瓜は自然に割れて中から可愛らしい女の子が出てきました。
「こりゃ可愛い女の子じゃ!」
「きっと神様が、子どものいないわしらに授けてくださったんじゃ……」
おじいさんとおばあさんは喜んで、女の子に『瓜子姫』と名付けて大事に育てました。
瓜子姫はすくすくと大きくなり、それはそれは美しい娘に成長しました。
その美しさの噂はお城にも届き、お殿様がお嫁さんにしたいと言ってきました。
「何と名誉な事じゃ……!」
「しかもわしらまでお城で暮らせるだなんて……!」
「それもこれも、私を大事に育ててくださったおじいさんとおばあさんのお陰です……! ありがとうございます……!」
こうして瓜子姫はお殿様からもらった美しい衣装を身にまとい、お城からの迎えが来るのを待っておりました。
それに目をつけたのが天邪鬼という意地悪な鬼でした。
天邪鬼は瓜子姫の美しさや、お殿様のお嫁さんになる事が妬ましくてなりません。
「何とかしてあいつの幸せを奪ってやりたい……! そうだ!」
天邪鬼はおじいさんとおばあさんが出かけたのを見計らって、瓜子姫の家にやってきました。
天邪鬼が戸を叩くと、瓜子姫は機織りの手を止めて返事をしました。
「あら、どなた?」
「瓜子姫さん瓜子姫さん。美しいと評判の瓜子姫さん。そのお姿をちょっとだけでも見たいから、ここを開けておくれ?」
「ごめんなさい。おじいさんかおばあさんが帰ってくるまで、誰が来ても開けてはいけないと言われているの」
「そんな事言わないで、指が入る隙間だけでならいいだろう?」
「……それだけなら」
瓜子姫は少しだけ戸を開けました。
「あぁ、これじゃちっとも見えやしない。もう少し、手が入るくらいだけ開けておくれ」
「……それだけなら」
瓜子姫はもう少しだけ戸を開けました。
「あぁ見えた見えた。しかしお前さんの美しさをもっとはっきり見たいんだ。もう少し、顔が入るくらい開けておくれ」
「……それだけなら」
瓜子姫は更にもう少しだけ戸を開けました。
すると、
「ひゃっはー! ここまで開けばこっちのものよ!」
天邪鬼は戸の隙間から家に飛び込んできました。
「その綺麗な服を剥ぎ取って、私がお殿様のお嫁さんになっぶべらっ!?」
瓜子姫に襲いかかろうとした天邪鬼は、土間に叩きつけられました。
天邪鬼の腕を瓜子姫が取ってぶん投げたからです。
そのまま腕を捻り上げ、土間に押さえつけます。
「え、ちょ、何、強……!?」
「うふふ、あなたがおじいさんの言っていた天邪鬼さんかしら? 武器もなく私を襲おうなんて、少し考えが甘かったようですわね」
「え、待って何か話が違う! 何でそんなに強いの瓜子姫!?」
「うふふ、川を流れる桃から生まれた桃太郎さんが鬼を退治したお話、ご存知ですわよね?」
「な、まさか……!」
「同じように川から拾われた瓜から生まれた私に、そういう力がないと思う方が不自然ではないかしら?」
「そ、そんな……!」
押さえ込まれた天邪鬼は、悔しそうにうめきます。
しかしすぐに意地の悪い笑みを浮かべました。
「そんな力がある事を知ったら、お殿様との結婚は駄目になるな! 言いふらしてやる! めちゃくちゃにしてやるぞ!」
「あら、それは困りましたわ」
全く困った様子もなく、瓜子姫は微笑みます。
「ならあなたをこのまま帰す訳にはいかなくなってしまいましたわ」
「え、ちょ……!」
「私とおじいさんとおばあさんの幸せのためですもの。少し心は痛みますけど、尊い犠牲になってくださいませ」
「ひっ……!」
恐ろしい言葉に天邪鬼は暴れようとしますが、がっちり押さえ込まれた身体はびくとも動きません。
「や、やめろー! 嘘だ! 冗談だ! そんな事はしない! だから許してくれ!」
「そんな事を言って、安全な場所に逃げたら噂をまくつもりでしょう? 騙されませんよ」
「そ、そんな事はしない! だから……!」
「うふふ、大丈夫です。痛くしませんから」
「ぎゃあー!」
天邪鬼は恐ろしさのあまり、泡を吹いて気絶しました。
その様子を見た瓜子姫は、にっこりと微笑みます。
「まぁお殿様は、この力も込みでお嫁に、と仰ってくださっているので全然平気なのですけれど、これだけ脅かせば余計な事はしないでしょう」
瓜子姫はぽいっと天邪鬼を放り出すと、また機織りの続きを始めました。
しばらくして息を吹き返した天邪鬼は山へと逃げ帰り、二度と瓜子姫の前に姿を現しませんでした。
その後嫁入りした瓜子姫は、隣国が攻め込んで来た際に一人で敵軍を蹴散らして、『彼の国に瓜子姫あり』との雷名を轟かせました。
その後攻め込む無謀な国はなく、長く国の平和を守ったという事です。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
一体いつからーーーー
瓜子姫がお淑やかだと錯覚していた?
植物生まれは日本昔話ではチートだからね。仕方ないね。
もう二パターンの瓜子姫が思いついていますので、次回、次々回もよろしくお願いいたします。