金の斧 銀の斧 その三
日曜にできなかった元気なご挨拶。
パロディ昔話第百三十四弾です。
今回は『金の斧 銀の斧』で書かせていただきました。
前回の予告が『木こりの泉』になっていましたが、大人は嘘つきではないのです……。ただ間違いをするだけなのです……。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、正直者の木こりがおりました。
木こりは毎日森に入って木を切っては、街に売って僅かなお金を稼いでいました。
ある日木こりは、泉の側で木を切っていました。
その日は暑く、木こりは汗を拭きながら仕事を続けていました。
その時です。
「あっ!」
汗で手が滑り、木こりの斧は泉に落ちてしまいました。
「あぁ……、おらの斧が……!」
絶望する木こりの前で泉が光り、美しい女の人が姿を現しました。
「え、あ……!?」
「私はこの泉の精霊です。あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
正直者の木こりは、正直に答えました。
「い、いや、おらが落としたのは、普通の鉄の斧だ」
それを聞いた泉の精霊は、にっこりと微笑みました。
「あなたは正直者ですね。ではこの金の斧と銀の斧も差し上げましょう」
「あ、ありがとうございます!」
こうして正直者の木こりは自分の斧に加え、金の斧と銀の斧とを手に入れました。
それを隣に住む意地の悪い男が聞きつけました。
「お前、どういう流れでその金の斧と銀の斧を手に入れたんだ?」
「かくかくしかじか」
「まるまるうまうま、か。成程、理解したぜ」
意地悪男はにやりと笑いました。
その翌日。
「わー、手が滑って斧が泉にー(棒読み)」
そう言って、意地悪男は泉に斧を放り投げました。
すると泉が輝き、泉の精霊が姿を現しました。
「あなたが落としたのはこの金の斧ですか? それとも銀の斧ですか?」
「おいおい、ちょっと待ってくれ。何で普通の斧が候補にないんだ?」
「えっ!? そ、それは、その、正直な人はちゃんと『普通の斧』って言うと思って……」
その言葉に意地悪男は笑みを浮かべます。
「へー? もし落とした人が金や銀を選んだらどうするつもりだったんですかー?」
「そ、その場合はお返しできないので、その……」
「おやおやー!? 選択肢を与えないのに、ミスったら没収ですかー!? うわー! 先に言ってればともかく、それは詐欺ですわー!」
「さ、詐欺……!?」
戸惑う泉の精霊に、意地悪男は更に言い募りました。
「だって選択肢を示しておいて、答えはその中にないとか、えげつなくないですかー!?」
「そ、そんなつもりは……!」
「あれですよねー!? スフィンクスの謎かけみたいに、『間違えた奴には死を!』的なあれですよねー?」
「ち、違います! そんな意図は……!」
「じゃあ何で選択肢に『普通の斧』を入れなかったんですかー?」
「そ、それは……!」
「何ですかー? 正直者が大好きな精霊様なら、ちゃんと本当の事を言えますよねー?」
「うぅ……!」
意地悪男に詰められた泉の精霊は、突如ブチ切れました。
「そうですよ! 私は正直でも何でもない、人を試す性格の悪い精霊ですよ!」
「えっ」
「残り僅かな力で幸福を与えるなら、正直な人がいいなと思って試しました! だってもう何度も幸福を授ける力が残ってないんだもの!」
「いや、その……」
「昔はこの泉の水を飲みに狩人や木こりが来ましたけど、今は誰も寄りつかないこの泉……! 斧が落ちて来た時に『ワンチャンある!?』って思って何が悪いの!?」
「あ、いや、その……」
「何もしないで信仰が途絶えて存在そのものが消えるかと思った時に、落ちて来た斧! それに希望をかけたのの何が悪いのよぉ!」
「え、あ、その、何かごめん……」
泣き崩れる泉の精霊に、意地悪男はかける言葉がなかなか見つかりません。
必死で探しまくった結果、意地悪男はこう叫びました。
「じゃ、じゃあこの泉の水に、健康効果があるって町のみんなに言うよ……!」
「えっ?」
「も、勿論取りすぎたらまずいだろうから、独り占めしたり売ったりしたらバチが当たる的な話もして、適度に人が集まるようにするから……!」
「……ほんと?」
「本当本当! ちゃんと呼ぶから、その、泣かないでほしい……」
「……うん……」
こうして泉は意地悪男の口車、もとい宣伝が功を奏し、多くの人が訪れるようになりました。
お陰で泉の精霊は消える事なく幸せに暮らしましたとさ。
そうそう、意地悪男はその後、泉に指輪を落としたそうですよ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
意地悪男も女の涙には勝てませんでしたとさ。
次回は『ネズミのすもう』で書こうと思います。
今度はちゃんと日曜に投稿しますので、よろしくお願いいたします。