ハーメルンの笛吹き その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百三十三弾です。
今回は『ハーメルンの笛吹き』で書かせていただきました。
原作は笛でネズミを操って退治した男が、報酬を渋られて怒り、子ども達を連れ去ってしまうと言うお話です。
実話を元にして作られた話とも言われ、グリム童話の中でも不気味な雰囲気を漂わせています。
それが私にかかるとどうなるか……。
どうぞお楽しみください。
昔々、ハーメルンという街では、ネズミが大量に現れて困っていました。
ネズミ達はそこら中を走り回り、穀物を食い荒らし、建物や家具をかじり、それはもう手をつけられない騒ぎでした。
ほとほと困っていた街の人の前に、笛を持つ男が現れました。
男は堂々とした様子でこう言いました。
「私がこのネズミ達を退治しましょう」
「おぉ!」
「それは助かる!」
「何てありがたいの!」
その言葉に街の人達は大喜びしました。
しかし続く男の言葉に絶句しました。
「ネズミ退治の費用として三千万!」
「何ぃ!?」
「ふ、ふざけるな!」
「こちらが困っているからと足元を見て……! 何て人……!」
街の人達は憤慨しましたが、今のままでは日常生活もまともに送れません。
「……仕方ない。頼むとする。しかし金は成功報酬だ! 持ち逃げされたら困るからな!」
「いいでしょう」
男はニヤリと笑うと、笛を取り出しました。
笛の音色が街に響くと、そこここからネズミが飛び出して来ました。
男が笛を吹きながら歩くと、ネズミ達もそれに続きます。
「おぉ……」
「街中のネズミが集まったようだ……」
「あ! あの人川に!」
男が川に入ると、ネズミ達も続いて入り、そのまま溺れてしまいました。
街の人達は大喜び。
しかし男が戻って来ると、途端に態度を変えました。
「笛だけでネズミを操るなんて……」
「本当はあいつが呼び寄せたんじゃないか……?」
「気味が悪いわ……」
しかし男は気にした様子もなく、手を差し出しました。
「では約束の報酬を」
「ま、待ってくれ! ネズミ達に色々と荒らされて、この街には今余裕がないのだ!」
「だが払うと言いましたよね?」
「そ、それはそうだが、いくら何でも高すぎやしないかね!?」
「しかしあなた方は払うと言った」
「そ、それはそうだが……。 あっ! 証文がないじゃないか! 口約束だけだ!」
「……何ですって?」
男の表情が変わった事に、街の人達は気付きません。
「いやー、三千だったかね? 今すぐお支払いしましょう」
「ふざけるな! 私は三千万で引き受けたのだ!」
「ですが証文がありませんからねぇ。本来払う必要はないのだが、お礼はしなくてはいけませんからなぁ」
「……いらん!」
差し出されたお金に背を向けると、男は低い声で言いました。
「……自分達の生活より紙切れの証文の方を大事にするお方揃いのようだ」
すると男は再び笛を吹き始めました。
すると街中から子どもが踊りながら集まって来ました。
「な、何をする……!」
「こ、こら! ついて行くんじゃない!」
「坊や! 坊や!」
大人達が捕まえようとしても踊りの動きで振り払ってしまい、子ども達は止まりません。
男は笛を吹きながら子ども達を連れ、大きな洞窟へと入って行きました。
へとへとで動けない大人達の前で、洞窟から出て来た男は入口を岩で塞いでしまいました。
「……お、お前……! 何という事を……!」
「あなた方が素直に報酬を支払っていれば、こんな事にはならなかったのですがね」
「子どもを返してくれ!」
「では子ども一人につき一千万で譲りましょう」
「な、何て酷い……! へ、兵隊さんを呼びますよ!」
「嫌なら結構。だが私なら子どもの値段は百億つけたって安いもんだがね」
「……!」
その言葉に大人達が崩れ落ちます。
全員が涙ながらに訴えました。
「私達が悪かった! だが子どもに罪はない! 罰するなら私達を……!」
「頼む! 子どもは私達の宝なのだ! だからどうか……!」
「お金ならお支払いいたしますから……!」
「ほう」
男は再びニヤリと口を歪めます。
「子ども一人につき三千万いただくが、あなた方に払えますかね?」
とんでもない要求でした。
しかしためらう大人は一人もいませんでした。
『一生かかってもどんな事をしても払います! きっと払いますとも!』
「それを聞きたかった」
男はそう言うと岩をどけ、子ども達を解放しました。
そして街の人達が集められるだけ集めたお金だけを受け取り、どこかへと去っていったのでした。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
笛吹き男
西洋人である以外 素性も
名まえもわからない
だがその天才的な笛の腕は
神業とさえいわれている
このなぞの笛吹き男は 今日も
どこかで笛を持ち
奇跡を生んでいるはずである
外科医ではない、いいね?
次回は『木こりの泉』で書きたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。