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鬼の子小綱 その三

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百二十九弾です。

今回も『鬼の子小綱』で書かせていただきました。

三作目は小綱とその中に潜む鬼の力にスポットを当ててみました。


どうぞお楽しみください。

 小綱は苦しんでいました。

 鬼の父と人間の母の間に生まれた、半鬼半人である事。

 身体に流れる父から受け継いだ、人間離れした力を持っている事。

 そしてその鬼の力が、


『よお、そろそろ俺様に身体を明け渡せ……。今みたいな中途半端な力じゃ、満足できねぇだろぉ……?』

「やめろ! おらはこんな力要らねぇ……!」

『そんな事言ったってよぉ……。一人で大人三人分の畑を耕した時、気持ち良かっただろぉ……?』

「うぐ……!」

『俺に身体を明け渡せば、その五倍の畑を耕してやれるぜぇ……?』

「やめろ……! やめろ!」

『鬼の全力だ……。欲しけりゃくれてやる……! 寄越せ! お前の全てをそこに置いていけ……!』

「嫌だ! そんな海に駆り立てられそうな事を言われたって……!」


 別の人格を持って小綱に『身体を寄越せ』と言い続けている事でした。


「この身体を渡したら、おぇは人を食うつもりだろう……! それだけはさせねぇ……!」

『この村の人間さえ食わなければ良いだろう? 縁もゆかりもない人間の命まで背負い込むつもりか? 随分とお偉い事だなぁ?』

「そ、そげな事は……」

『まぁいいさ。お前が俺の全力を必要とする時が必ず来るからなぁ』

「……!」


 そんなある夜。


『起きろ。何だかきな臭ぇ』

「えっ!? あ、ほ、本当だ!」


 鬼に起こされた小綱は何かが燃える匂いに跳ね起き、慌てて家の戸を開けました。

 すると真っ暗なはずの宵闇の一部が、赤々と照らされているではありませんか。


「な……! と、隣村が燃えとる……! た、助けに行かねば! おっ母! 隣村が火事だ! 皆を起こしてくれ!」

「こ、小綱、お前は……!?」

「おら、隣村の人達を助けて来る!」


 そう言うと小綱は風のようにかけだしました。

 小綱の中の鬼が愉快そうに声をかけます。


『いやー、こりゃ偉い事になったなぁ。お前が使える力の範囲で何ができるかなぁ?』

「……助けてみせる!」

『ま、頑張れや。……早めに呼べよ?』

「くっ……!」


 小綱も感じていました。

 遠くからでもわかる炎と熱気。

 鬼の力を借りなければ解決できないのではないか、と……。


(いや、駄目だ! 弱気になるでねぇ!)


 迷いを振り払おうとするように加速する小綱。

 しかしその目の前に広がった光景は、小綱を絶望させるのに十分でした。


「う……!」

『ほぉ、こりゃ派手だなぁ』


 村中を包み込む炎。

 泣き叫ぶ村人の声。


「くそっ!」


 我に返った小綱は手近にいる人を担ぎ上げては、炎の及んでいない川の反対側へと連れていきます。

 しかし炎の勢いは凄まじく、燃え盛る赤い壁がその行手を阻みました。


(おらは越えられても、助けた人は耐えられねぇ……! こうなっては……!」


 悩む小綱に、鬼が語りかけます。


『……力が、欲しいか……?』

「く……」

『力が欲しければ、くれてやる……!』

「……お前の力なら、この村の人全員を助けられるのか……?」

『くくっ、当たり前だ。お釣りが来るぜ』

「……でも助けたら、お前は村の人を食うんだろ……!?」


 必死に悩む小綱の言葉を、鬼は笑い飛ばしました。


『かっ! 俺だって人が焼けていく姿なんざ見たくねぇ! そこはお前と同じ気持ちだぜぇ?』

「お、お前……!」

『だからさっさと代わりな! はやくしろっ! 間にあわなくなってもしらんぞーっ!』

「……なら、た、頼む……!」


 小綱がそう答えた瞬間、鬼は豹変しました。


「くけけけけけ! おうよ! やっぱり人間は焼きより生だからなぁ! 食い放題だぁ!」

『なっ! お前……!』


 小綱が怒るも後の祭り。

 身体の支配権は完全に鬼に移りました。

 片方の額にだけ生えていた角は二本になり、小綱はどこから見ても鬼でした。


「さぁて、まずはこのうざってぇ火を……」


 鬼は川に口をつけると、凄まじい勢いで飲み始めます。

 川が干上がるような勢いで飲むと、その水を空へと放ちました。

 巨大な水球が空へと打ち上がります。


「はじけてまざれっ!」


 水球は鬼が拳を握るのに合わせて、空中で爆発しました。

 鬼の力を込めた水は周りから雲を寄せ集め、すぐに滝のような雨を降らせます。

 その凄まじい勢いに、炎はあっという間に鎮火しました。


「へっ! 小せえ火花だ」


 鎮火した村の中で、あまりに劇的な変化に呆然とする村人達。

 そこに爪を伸ばした鬼が迫ります。


『やっ やめろ鬼ーッ!』

「……」


 そんな小綱の叫びに、に……と笑う鬼。

 村人達の命運は尽きたかに思われました。

 しかしその時です。


「あ、貴方様が村を救ってくださったのですね!?」

「!?」


 若い娘が駆け寄って来るのを見て、鬼の身体が強張りました。

 長く黒い髪。

 大きな瞳。

 すすの汚れがむしろ際立たせる肌の白さ。

 そして。


「お、おい! そ、それをしまえ!」

「え……? きゃあ!」


 はだけた寝巻きからまろび出た大きな胸。

 鬼は慌てて後ろを向きます。


『お、おい、どうしただ!?』

「わ、わからん……! し、心臓が早鐘のようだ……! 息も苦しい……! くそ! この村の巫女か何かだな!?」

『……』


 それは違うと思った小綱でしたが、勿論口にはしません。


『おい、このままではお前、祓われてしまうんではねぇか?』

「はっ! そ、そうか! くそったれー!」

『今ならおらと変われば誤魔化せるはずだ』

「わ、わかった!」


 鬼は小綱の身体の奥へと引っ込み、小綱は身体の自由を取り戻しました。


「あ、あの、お見苦しい姿を見せまして……」

「いや、助かりましただ」

「えっ」

「あ! いや、変な意味でなくて……!」


 こうして隣村の村娘に協力を仰ぎ、巫女の振りをしてもらった小綱は、鬼の力をうまく使って二つの村を守るようになりましたとさ。


「さ、今日は川から水路を引くだよ!」

『けっ! 俺の力が欲しけりゃ人を二人くらい寄越せ! そうしたら……』

「巫女様ー。鬼が言う事を聞かねぇだ」

『やればいいんだろ! やれば!』


 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


書いたッ! 三部作完ッ!


リクエストをいただくと新たな境地が開かれて楽しいですね。

みんなのお便り、待ってるぜ!


次回はキリ番企画。

タイトルを伏せてお送りしますので、元ネタを想像しながらお楽しみください。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ? ガンダムでも、こういう二重人格のパイロットと「裏人格」➕パートナーというのがあったな…(笑)
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