天女の羽衣 その二
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百二十四弾です。
今回は『天女の羽衣』で書かせていただきました。
原作では水浴びに来ていた天女の羽衣を隠した男が天女と夫婦になるも、羽衣が見つかってしまい天に帰る悲恋のお話。
さて、私テイストにするとどうなるか。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、一人の狩人がいました。
狩人はある時森の泉に、天女が舞い降りてくるのを見ました。
「な、何と美しい……!」
狩人はその美しさに心を奪われました。
すると天女が羽衣を近くの枝にかけ、水浴びを始めました。
狩人は思いました。
(あの羽衣がなければ天には帰れないと聞く……。あれを隠してしまえば、天女をおらの嫁に……!)
天女のあまりの美しさに我を忘れた狩人は、その羽衣をこっそり盗み、家の納屋に隠しました。
急いで泉に戻ると、天女が打ちひしがれた様子で泣いていました。
「私の羽衣……。どこに行ってしまったの……? あれがないと帰れない……」
涙する姿に罪悪感を覚えながらも、狩人は素知らぬ顔で近づきました。
「どうした娘さん。そんなところで泣いて……」
「あ、あの、水浴びをしていましたら、大事な着物がなくなってしまって……」
「あー、風に飛ばされたのかもしれんな。とにかくそのまま水の中にいたら風邪を引く。おらの家まで来るとえぇ」
「ご親切にありがとうございます……!」
更に深まる罪悪感を押し殺しながら、狩人は自分の着物を着せてやり、家へと連れ帰りました。
「火のそばで暖まるとえぇ。今茶も淹れるからな」
「何から何までありがとうございます……」
「おらは狩人で、山の中をあちこち歩く。どこかでお前さんの着物を見つけたら、拾って持ってくるべ」
「何てご親切な……! 重ね重ねありがとうございます……」
「う、うむ……」
こうして狩人と天女は共に暮らす事になりました。
天女は物覚えが早く、家の仕事をあっという間に覚えると、男が狩りをしている間、家の事をして待つようになりました。
狩人は家に帰って温かい食事や清潔な着物がある生活に喜びつつも、羽衣を隠し、それを黙っている事への後ろめたさがどんどん高まっていました。
そして一年が経ちました。
「お前様」
「何じゃ?」
「私がここに来て、もう一年……。身寄りのない私を家に住まわせてくれて、大事にしてくれて、本当にありがとう……」
「お、おらの方こそ、飯に洗濯に家の事やってもらえて助かっとる。お前さえ良ければこれからもずっと家におってくれ」
「嬉しい……」
涙目で飛びつく天女に、狩人はおずおずとその背中に手を回して、優しく抱きしめました。
「……そうしたら一つ、お願いしていいですか?」
「あ、あぁ、何でも言ってくれ」
「私の着物、見つけても見なかった事にしてくださいませ」
「な……!?」
驚き身を離す狩人に、天女は必死の表情で訴えます。
「……お前様には黙っていましたが、私は天に住まう天女なのです。あの時無くしたのは羽衣……。それが見つかれば天に帰らねばならぬ身……」
「……!」
「でも私はお前様の元を離れたくないの! 人ならぬ身が気味悪いと思うかもしれませぬが、どうかずっと側に……!」
その必死の言葉に、狩人の罪悪感が決壊しました。
「すまん!」
「え、あ、謝るって、や、やっぱり、私が天女だから……?」
「ち、違う! おらお前が天女なの知ってた! 一年前のあの日、お前のあまりに綺麗な姿につい魔が差して、羽衣を隠してしまっただ!」
「えっ」
「この一年、騙しとって悪かった! 殴るでも蹴るでも何でもしてくれぇ!」
「……」
狩人の涙ながらの告白に、天女はじっと黙っていました。
「……お前様」
「は、はい……」
「……羽衣はどこに?」
「な、納屋の奥だ……」
「案内してくださいませ」
「……はい……」
魂が抜けたようになった狩人は、言われるままに天女を羽衣の元に案内しました。
「成程、こんなところに……」
「すまん! 何度謝っても許されねぇのはわかる! 償いなら何でもする! だから……!」
「なら外で焚き火を起こしてくださいな」
「……わ、わかった」
焚き火で何をするのか、狩人にはわかりません。
自分が焼かれるかもしれないという恐怖と、それくらいされても仕方がないという諦めの狭間で、狩人は震えながら火をつけました。
「良い塩梅ですね」
「……こ、これをどうするだ?」
「こうします」
震える狩人に笑みを向けると、天女は手に持った羽衣を焚き火の中に投げ込みました。
「えっ!? お、お前、何を……!?」
「これでもう私は天には帰れません。だから、一生側に置いてください……」
「!」
天女の覚悟に、狩人は涙が溢れるのを止める事ができませんでした。
「おらの方こそ……! よろじぐ、だのむ……!」
「はい……!」
固く固く抱き合った二人は、声を上げて泣きました。
こうして二人は夫婦となり、子宝にも恵まれ、いつまでも仲良く暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
ど直球甘々になってしまいました。
最初は策を講じて狩人を手玉に取った上に羽衣を燃やし、「ずぅっと一緒ですからねぇ」というヤンデレにするはずだったのに、どうしてこうなるのか、これがわからない。
次回は『ひきょうなコウモリ』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。