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シンデレラ その三

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百二十一弾です。

今回は『シンデレラ』で書かせていただきました。

だいぶぶっ飛んでます。


どうぞお楽しみください。

 昔々あるところにシンデレラという、それはそれは美しい娘がいました。

 優しい両親に育てられ、幸せに過ごしていましたが、ある時お母さんが亡くなってしまい、新しいお母さんと、二人のお姉さんを迎える事になりました。

 その後お父さんも病気で亡くなってしまい、シンデレラは四人で暮らす事になりました。

 すると三人はシンデレラに言いました。


「この家の事はあなたが一番わかっているのよね?」

「ならお掃除や洗濯は全部シンデレラにお任せしますわ」

「お料理に後片付けもお願いね」

「はい! 頑張ります!」


 シンデレラは張り切って家事に取り組みました。

 お父さんとお母さんがいた時にはさせてもらえなかったお料理ができるのが、嬉しくてたまらなかったのです。


「お待たせしました! 晩御飯ができました!」

「……シンデレラ……。これは何かしら……?」

「スープです!」

「……そぉ……」


 三人の前には蛍光ピンクの液体が、お皿の上でぱちぱち音を立てていました。


(何をどう調理したらこうなるの!? 色もそうだけど何でずっと表面が弾けてるの!?)

(お母様! これ大丈夫ですの!? シンデレラは私達を疎んで毒を盛ったのでは!?)

(落ち着きなさい二人とも! まずはシンデレラが飲むかどうかを確認するのです!)


 そんな三人のひそひそ話など全く気づかず、


「いただきます」


 シンデレラはスープを飲みました。


「うん! 美味しい! あ、でももうちょっと甘みがあっても良かったかな?」

「……じゃ、じゃあ私達もいただきますわ」

「いただきます……」

「……うぅ、神様……」


 その様子を見た三人は覚悟を決めて、スープを口に入れました。


「!」


 鮮烈かつ後引く甘さ。

 舌の上で弾ける刺激的な感覚。

 口の中に広がる磯の香り。

 反射的にえずこうとする喉。

 しかし淑女のプライドが、かろうじて吐き出すのを堪えました。

 必死に飲み込んだ新しいお母さんが、青ざめながらシンデレラに聞きました。


「……シンデレラ……。これは、何のスープかしら……?」

「牛乳と人参とじゃが芋ともにょりあまんばのスープです!」

「最後のもにょりあまんばっていうのは何!? 異世界の食材!?」

「次はトマトとレタスとめきむきぽきるきのサラダで、メインは鶏肉と玉ねぎとぺけぽーらぬーるのソテーです!」

「知っている単語の間に挟まれる謎の言葉が怖すぎる! 響きのが抜けてるのが更に恐怖を煽る!」

「いっぱい食べてくださいね! じゃないと私が全部食べちゃいますからね! なーんて!」

「……えぇ……」


 シンデレラの満面の笑みと、謎料理を当たり前のように食べている姿に、新しいお母さんもお姉さん達も何も言えません。

 その後必死に説得した結果、家事は分担制となりましたが、それでも週に一、二回はシンデレラの手料理を食べる事になってしまいました。

 そんなある日の事、お城で舞踏会が行われる事になりました。

 王子様のお嫁さんを探すらしいとの噂に、三人は目の色を変えました。


「王子様と、いいえ、誰でもいいから結婚して家を出れば、あの料理から解放されますわ! 私はこの機会を逃しません!」

「ずるいですわお姉様! 私も何とかして結婚相手を見つけます!」

「舞踏会なら夕食も出るはずよ! 一食逃げられるだけでも御の字だわ! さぁ二人とも行きましょう!」


 三人はシンデレラを置いて、舞踏会に行ってしまいました。

 スカイブルーの汁が入った鍋を抱えたシンデレラは、自信作を食べてもらえずがっかりしました。


「そうだわ! お城に差し入れに行きましょう!」


 カボチャ屋さんの馬車に乗ったシンデレラは、一人でお城にやってきました。


「む? 何だそなたは? 今日の舞踏会の参加者か?」

「いえ、料理の差し入れに参りました!」

「ほう、どんなものだ?」

「これです!」

「うっ!?」


 空よりも青いその鍋の中身に、門番の兵士は息を呑みました。


「こ、これは食べ物、なのか……?」

「はい! 自信作です! あ、一口どうぞ!」

「う、うむ……」


 勧められるまま一口口にした兵士は、


「うぐっ!?」


 唐突に昔の事を思い出しました。

 それは幼かった日の事。

 海で遊んでいた時に大きな波にバランスを崩して溺れかけたあの日。

 口の中を蹂躙する塩辛さ。

 鼻を貫く鋭い痛み。

 生と死の狭間にいる事を自覚した絶望感。

 命の脆さ、儚さ、そして尊さ。

 兵士は涙を流して膝をつきました。


「……どうぞお通りください」

「ありがとうございます!」


 自分だけ苦しむのは理不尽だと感じた兵士によって、シンデレラとその料理は城に入ってしまいました。

 一方舞踏会の会場では、王子様が退屈を持て余していました。


(はぁ……。何か面白い事はないだろうか……)


 珍しいもの好きな王子様は、世界中から料理、音楽、美術を集めては楽しんでいました。

 しかし段々と刺激に慣れてしまっていた王子様は、次第に退屈を持て余すようになっていたのです。


(今日の舞踏会の音楽も料理も知っているものばかりだ……。あぁ、どこかに刺激的なものはないだろうか……)


 そんな事を考えていた王子様の耳に、どよめきが聞こえてきました。


「何だ? 何かあったのか?」


 少しワクワクしながら王子様がどよめきの方に行くと、鍋を脇に置いたシンデレラが、周りの人に料理を勧めているのに出会いました。


「美味しいですよ! さぁどうぞ!」

「い、いや、そんな得体の知れないものは……」

「遠慮しないでください! さぁ!」

「だ、誰か助けて……」


 貴族男性のすがるような目に誰もが目を逸らす中、王子様が一歩前に出ました。


「珍しいものがあるようだね。少しいただけるだろうか」

「い、いけません殿下!」

「見た事のない色をしてるんですよ!? 口にしたら何が起きるか……」

「それは楽しみだ。お嬢さん、一口もらおう」

「はい! 召し上がれ!」


 周りが止めるのも聞かず、王子は青い青い汁を口にしました。


「だぶらばっ!?」

「で、殿下ー!」


 その場で四回転半を決めた後倒れた王子様に駆け寄る人々。

 その騒ぎで、舞踏会の料理を楽しんでいたシンデレラの新しいお母さんとお姉さん達も、シンデレラの存在に気がつきました。


「シンデレラ! あなたここで何を……!」

「お義母かあ様! お義姉ねえ様! お料理が上手くできたので、差し入れに来ました!」

「……差し、入れ……?」

「シンデレラ……。あなたの手料理を……?」

「お、お母様……! 王子様が打ち上げられた魚みたいな跳ね方をされてます……!」

「……撤収! 撤収よ!」


 三人はシンデレラを連れて大急ぎで城から逃げ出しました。

 シンデレラにとっては突然の行動に、戸惑いを隠せません。


「お、お義母様! あの、鍋が……!」

「捨て置きなさい! むしろ好都合だわ! とにかく一刻も早くこの場から離れるのよ!」

「お母様……、証拠品になってしまうのでは……?」

「だからって今回収に行ったらそれこそ自白と同義でしょう!? 王子の記憶が飛んでる事を願うのです!」

「神様……!」


 しかし願いも虚しく、目を覚ました王子様はシンデレラの事をきっちり覚えていました。

 そして王子様の記憶と鍋を手がかりに、シンデレラの家にやってきました。

 新しいお母さんとお姉さん達は死を覚悟しました。

 しかし王子様は、シンデレラを罰しに来たのではありませんでした。


「君の料理は素晴らしい! これまでに経験した事のない、最高の刺激だった! 僕のお嫁さんになってくれ!」

「……喜んで!」


 こうしてシンデレラは王子様と結婚して、王子様のために色々な料理を作りました。

 シンデレラは料理が作れて幸せ。

 王子様は毎日刺激的で幸せ。

 そしてシンデレラの新しいお母さんと二人のお姉さんは、シンデレラの料理を食べなくてもよくなり、とても幸せになりましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


原因はシンデレラの腕か、食材か、それが問題だ。


次回は『花咲かじいさん』で書こうと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まともな食材の間に入り込んでくる、謎食材のネーミングが面白かったです! 退屈な日常にスパイスを与えてくれるとシンデレラの料理を好んでくれる王子様で良かったですね。 打ち上げられた魚みたい…
[良い点] たとえ義理の家族には受け入れて貰えない味覚センスであっても、広い世の中には必ず受け入れてくれる人はいるんですね。 その人が自分らしい人生を謳歌できるかどうかは、相性のいい人との出会いが重要…
[一言] え? 王子様、大丈夫!? 謎の料理を作る新妻って・・・
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