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たつのこたろう その一

遅くなりましたが日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百十六弾です。

今回は『たつのこたろう』で書かせていただきました。

竜の子といえばあれかな、って思って書いてみました。


どうぞお楽しみください。

 昔々、ある山奥の村に、太郎という男の子がいました。

 太郎には両親がおらず、おばあさんと二人暮らしでした。

 しかし太郎はそんな事を気にする素振りも見せず、とても元気で人を思いやれる優しい子でした。

 そんな太郎でしたが、村の中では太郎に関する秘密がありました。


「太郎は竜と人間の間に生まれた子どもだ」


 しかし竜はこの村にとって守り神でもありました。

 山の中にある大きな湖を護り、村に絶えない水をもたらす竜。

 なので少しの不気味さを感じながらも、嫌がらせをしたり村を追い出すような事はしませんでした。

 しかし同じ年くらいの子ども達に、そこまでの気遣いはできません。

 大人から「仲間外れにしてはいけない」などと言われて仲間には入れるものの、どことなくよそよそしい態度になっていました。

 そしてある時、川での泳ぎ競争をした時の事。

 太郎は泳ぎが得意で、子ども達の中で一番になりました。

 すると悔しがった子どもの一人が、


「おらは負けてねぇ! おめぇは竜の子だから、そんなに泳ぎが上手いんだ! 人間じゃねぇんだから、おらは負けてねぇ!」


 と言ってしまいました。


「……そっか」


 その言葉に、太郎は悲しそうな顔をして家に帰っていきました。

 家に帰った太郎は、おばあさんにその話をしました。


「……そうか。聞いてしもうたか」

「……やっぱりそうなのか……? 俺、確かに泳ぐのは上手ぇし、力も強ぇ。周りの子とは何か違うとは思うとったが……」

「おめぇのおっかあが山の湖におる。一度会ってくるとえぇ」

「わかった」


 翌朝、太郎は山を登って湖へ向かいました。

 湖のほとりに着いた太郎は大きな声で、


「おっ母ー! 俺だー! 太郎が来ただー!」


 と叫びました。

 すると湖がにわかに泡立ち、中から竜が現れました。

 その姿に驚いたものの、その優しい瞳を見た太郎は、にっこり笑いました。


「おっ母なんだな……!」

「太郎……! 大きくなって……!」

「おっ母!」


 岸に寄せた竜の大きな顔に、太郎は嬉しそうに飛びつきました。

 その顔を竜は尾で優しく撫でました。

 こうして太郎は時折山に登っては、母である竜と会うようになりました。




 そうして数年経ったある夏。

 村を日照りが襲ったのでした。

 竜が守る湖のおかげで飲み水は何とかありましたが、田畑に回す水が足りませんでした。

 困り果てた村人達は、太郎の元へ相談に行きました。


「なぁ太郎、おっさんに頼んでもう少し水を村に流してもらえんだろうか?」

「このままでは田んぼや畑が枯れてしまうだ……」


 その必死の頼みに太郎は山へ行き、お母さんに相談しました。

 お母さんは少し考えた後、こう言いました。


「この湖の壁の一部に穴を開けたら、村に流れる水も増えて、田畑も潤いを取り戻すでしょう」

「おっ母、じゃあ……!」

「ただ私が何度も頭を叩きつけなくては、湖の壁に穴を開ける事はできません。おそらく穴が開く前に私の目は潰れる事でしょう」

「そんな!」


 お母さんの覚悟に、太郎は目を見開きました。


「だから太郎。私の首の後ろに乗って、壊すべき壁への狙いをつけるのです。そうすれば村は救われます」

「そんな事できねぇ! おっ母の目を潰すなんて!」

「でもこうしなければ、村は……」

「俺がやる!」

「な、何を!?」


 今度はお母さんが驚く番でした。


「感じるんだ……! 俺の中にある竜の力を……! これを使えばきっと村を救えるだ!」


 そういうと、手のひらを縦に重ねました。

 それはまるで、竜の口のようでした。


「俺の身体を包むこの闘気を手に集めて、圧縮して放てば……!」


 その中に光が集まるのを見て、お母さんが叫びます。


「いけない! そんな必殺技を放ったら、お前は村の人から怖がられて仲間外れにされてしまうよ!」

「……人間がたまにそういうひどい事をするのなんて……、百も承知だ。……でもいいんだ! それでも俺は皆が、村の人達が好きだっ!」

「太郎……!」

「……もし本当におっ母の言う通りなら……。村の人すべてがそれを望むのなら……。俺はっ……!」


 太郎は寂しそうに胸を張りました。


「……湖に穴を開けて……! この村を去る……!」

「太郎……!」


 その言葉に、お母さんも覚悟を決めました。


「……わかりました。その時は私も共に行きましょう……! お義母さんも一緒に……!」

「うん……!」


 太郎の構えた手に強い光が宿ります。


「いけー!」


 太郎の手から放たれた光に、湖の壁に穴を開けました。

 そこから流れ出した水が、村の田畑へと流れ込みます。

 こうして村は救われました。

 その後、太郎はその力に対する恐れよりも、


「太郎さん! あの技すごいわね!」

「なぁ、もう一回見せてくれよ!」

「わ、わかったよ。一回だけな。……おおお!」

「きゃー! 格好良い!」

「すげーな! 流石竜の息子だぜ!」


 必殺技の格好良さで村人から受け入れられましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


か◯は◯波ではありません。

しかし額に何か紋章が浮き上がったりしたかもしれませんね。


次回は『三匹のこぶた』で書きたいと思っています。

よろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 村人達を想う太郎の優しさと心の強さも、太郎の力を恐れず、凄いと言える村人達も素敵ですね。 これからはときどきお母さんも村に顔を出して、ご近所付き合いが出来るくらいになるといいですね! お…
[一言] おお! 和製竜人だっ!
[良い点] 必殺技は男のロマンですね。 [一言] 太郎くんがもっと成長すると、地面の中の水脈を知覚できるようになるかも。 そこで真下に向かって必殺技を撃てば井戸が掘れたりして……
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