ピノキオ その一
日を跨いでしまいましたが、日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百十四弾です。
今回は『ピノキオ』で書かせていただきました。
原作のエグさに若干ビビりました……。
どうぞお楽しみください。
昔々、ある町に、ゼペットというおもちゃ職人のおじいさんがいました。
ゼペットさんはある日、知り合いから不思議なものがあると呼び出されました。
それは喋る丸太だというのです。
「おいおい、いくら何でも丸太が喋るわけが……」
『丸太が喋っちゃ悪いか! このトンチキじじい!』
「こりゃ驚いた……!」
その不思議な丸太を、ゼペットさんは家に持ち帰りました。
その間も丸太は色々な悪態をつきます。
ゼペットさんはその口の悪さにうんざりしました。
しかし意思のある丸太を割ったり燃やしたりしてしまうのも気が引けました。
「……もしかして、自分で動かないのがストレスで口が悪くなっているのかな?」
そこでゼペットさんは、丸太を人形にする事にしました。
「お前を動けるように人形にしようと思うんだが、どうかな?」
『ふん! お前の腕で何ができるか知らないが、変な姿にしたら承知しないからな!』
「わかったわかった」
ゼペットさんは丹精込めて、丸太から男の子の人形を作りました。
動けるようになった丸太はピノキオと名付けられました。
「ふん! まぁまぁってとこだな!」
「そうかい。喜んでくれて良かった」
「別に喜んでねーし!」
動けるようになったピノキオでしたが、ゼペットさんの言う事は聞こうとせず、自分のしたい事ばかりしていました。
ほとほと困り果てたゼペットさんは、星の綺麗な夜にお祈りをしました。
「どうかピノキオが、悪さをやめて人に好かれるようになりますように……」
その願いを聞きとげた女神様が、ピノキオの前に現れました。
「な、何だお前!」
「私は星の女神。ゼペットさんからあなたが人に好かれるようにとの願いを聞いてやってきました」
「余計な事をするな! このブス女神が!」
「……これはお仕置きが必要ですね……」
女神様はピノキオに、手に持った杖を振りました。
光がピノキオを包みます。
「な、何をした!」
「あなたに『嘘をつくと鼻が伸びる』という魔法をかけました」
「な、何だと!?」
「ちなみに私の姿をどう思いますか?」
「ブスだ! 世界一のブスだ!」
早速鼻が伸びました。
「まぁ」
「な、何だこの鼻! も、戻れよ……!」
「うふふ、戻してあげましょう。では嘘をついたりしないで真っ当に生きるのですよ」
女神様は勝ち誇った笑みを浮かべると、姿を消しました。
困ったのはピノキオです。
「くそ、嘘をついたら鼻が伸びるとか、もはや呪いだろ……。どうしたら……」
ピノキオはゼペットさんと話をしたら、実は感謝している事がバレバレになるのが恥ずかしくなり、こっそり家を飛び出しました。
行くあてもなく歩いていると、キツネとネコに会いました。
「やぁ、可愛い人形君。どちらへ行くんだい?」
「僕らも旅人にゃ。何なら一緒に行くにゃ」
「……」
ピノキオは二匹を少し怖いな、と思いました。
人の良さそうな笑顔を浮かべていても、どこかゼペットさんとは違うと感じていたからです。
「不安かい? 悪いようにはしないよ」
「それともビビってるのかにゃ? 男なのに情けないにゃ」
「べ、別にビビってない!」
その途端に鼻が伸びて、キツネの顎を撃ち抜きました。
「へぶらっ!」
「あぁ! ごめん! 当てるつもりはなかったんだ!」
気絶したキツネに慌ててピノキオが言うと、鼻は元に戻りました。
ネコがすごい剣幕で詰め寄ります。
「な、何て事するにゃ! 僕らが人や動物を騙して売り飛ばす奴隷商人だと見破ったのかにゃ!?」
「え!? そ、そうだ! お前らの悪行なんかお見通しだ!」
またピノキオの鼻が伸びて、ネコの眉間にぶち当たりました。
「ぎにゃ!」
ネコも気絶しました。
慌てたピノキオは家に戻り、ゼペットさんに全てを話しました。
ゼペットさんの話を聞いた村人達が調べると、確かにタチの悪い奴隷商人だという事がわかりました。
「よくやったなピノキオ! お手柄だぞ!」
「……別に褒められたって嬉しくねーし……」
途端に鼻が伸びました。
照れて横を向いたので、ゼペットさんには当たらずにすみました。
「っだー! この鼻、何とかなんねーのかよ!」
「なぁピノキオや。その力で今回のように人を困らせる者を退治してはどうだ?」
「……へっ。それでこの鼻が何とかなるならやってやるぜ!」
ピノキオが言うと、鼻は元に戻りました。
こうしてピノキオは、伸びる鼻で悪党を退治する旅に出ました。
いつか女神様の魔法が解けるその日まで……。
読了ありがとうございます。
原作では最初、嘘をつくと鼻が伸びる設定はなかったそうです。
しかし子ども向けにしてはエグいバッドエンドに抗議が殺到して、ハッピーエンドに切り替わった際に追加された要素だそうです。
なのにピノキオといえば『嘘で鼻が伸びる』となっているのは、デ◯ズニーの影響力なのでしょう。
もしくは一回しか言っていないのに代表的な台詞になった「ア◯ロ、行きまーす!」みたいなものかもしれません。
次回ももう一度『ピノキオ』で書きたいと思います。
よろしくお願いいたします。