一寸法師 その二
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百十三弾です。
今回は『一寸法師』で書かせていただきました。
実に百話以上ぶりの『その二』となります。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、一寸法師という男の子がいました。
一寸法師はとても身体が小さく、背の高さは一寸(約三センチ)程しかありませんでした。
しかし身体は小さくても、夢は大きく、
「誰かを助ける人になりたい! そのために私は強くなる!」
そう言って、針の剣で日夜舞い散る木の葉やカマキリなどを相手に、修行に励みました。
また、自分より大きな本を床に置いてもらい、ページをめくって身体を鍛えながら、その内容を覚えていきました。
落ちる木の葉に三回突きを入れる『三段突き』を身に付け、家の本を全て読んだ一寸法師は、都へと行く決心をしました。
針の愛刀を腰に差し、お椀の船に箸の櫂で、川を下っていきました。
小さな一寸法師には、小川も大海のうねりのようです。
しかし一寸法師は挫けません。
必死に船を操り、無事都に着きました。
「よし! 私の鍛えた力を遺憾なく発揮してゆこう!」
早速一寸法師はあちこちのお屋敷に行ってみました。
しかしどこのお屋敷でも小さな一寸法師は相手にしてもらえません。
世間の風の冷たさに打ちひしがれていたところ、お寺参りの帰りだった貴族のお姫様が通りがかりました。
「まぁ、可愛らしいお方」
「可愛いなどとは失礼な。身体は小さくとも一人の男にありますぞ」
「そうでしたか。これは失礼をいたしました。お詫びと申しては憚りがありますが、我が家にお客としてお招きしてもよろしいでしょうか?」
「喜んで」
こうして一寸法師はお姫様の家に客として招かれました。
そこで一寸法師は大活躍。
小さい身体を活かしてお姫様の髪飾りや本をかじるネズミを退治したり、家人の盗みの罪を暴いたりして、すっかり信頼される存在になりました。
(この家の仕事は地味だけれども、人に必要とされる仕事というのも悪くないものだ……)
一寸法師がそんな事を思っていたある日の事。
お姫様のお寺参りに、一寸法師もついて行く事になりました。
「頼りにしておりますよ」
「お任せください」
天気も良く、のどかなお寺参り。
しかしその帰り道に、何と鬼が現れたのです。
鬼は雄叫びを上げて、大暴れしていました。
「うおおお!」
「鬼だー! 鬼が出たぞー!」
「は、はわわ……」
腰を抜かすお姫様。
散り散りに逃げる姫の護衛と都の人々。
一寸法師だけが勇敢に立ち塞がりました。
「姫に手出しはさせないぞ!」
「うがあああ!」
めちゃくちゃに暴れる鬼。
その様子に一寸法師は違和感を覚えました。
(私達が目に入っていないようだ……。まるで痛みから逃れるために暴れているような……?)
そこで一寸法師は身の軽さを活かして、振り下ろした鬼の腕を駆け上がり、その口へと飛び込みました。
喉を過ぎ、腹の中に入ると、あちこちに傷があるのがわかりました。
「これが暴れている理由かもしれない」
一寸法師は急いで自分の服を細く割くと、丁寧に縒り合わせ、針の剣を使って傷を縫い始めました。
その素早い動きは、鬼に傷以上の痛みを感じさせる事なく、丁寧に塞いでいきます。
四半刻(約三十分)と経たないうちに、全ての傷を縫った一寸法師は、鬼の口から飛び出しました。
「一寸法師! 無事でしたのね!」
「姫様! ご心配をおかけしました! ……それと、いただいた服を台無しにしてしまいました……」
「そんな事はよいのです! あぁ、無事でさえいてくれたならば……!」
「姫様……!」
感激のあまり一寸法師を抱き上げ、胸に抱くお姫様。
一寸法師は困ったような、嬉しいような、複雑な表情を浮かべます。
「お、俺の腹の痛みがなくなった……!?」
鬼はびっくりした顔で、姫様に頬ずりされる一寸法師を見つめます。
「……お前が治してくれたのか……?」
「はい。腹の中が傷だらけでしたので。何故あのような事に?」
「……鬼の仲間で酒盛りの時に度胸比べをしようという事になり、俺は栗をイガごと食べて、それで……」
「それでは腹を痛めるのも当然です。今後はよく労わってください」
その言葉に、鬼はがばっと膝をつき、頭を下げました。
「……お前さんは命の恩人だ! 何かお礼をさせてくれ!」
「ありがとう。その気持ちだけで……」
一寸法師が断ろうとしたその時です。
「鬼様! 一寸法師の身体を大きくする事はできますか!? そうすればお父様を説得して、結婚する事ができるはずです!」
「ひ、姫様!?」
「お安いご用だ! この『打ち出の小槌』を使えばな!」
「お、鬼!?」
戸惑う一寸法師をよそに、鬼が打ち出の小槌を振るうと、一寸法師はみるみる大きくなり、姫の身長より少し大きくなったところで止まりました。
服も立派なものを身につけており、どこからどう見ても立派な若武者でした。
「服と剣はサービスしてやったぞ」
「ありがとうございます!」
「しかしお前は侍より医者の方が向いているかもな」
「……!」
「ではさらばだ」
鬼はそう言うと、山へと帰っていきました。
「一寸法師!」
抱きついて来た姫を受け止め、ぎゅっと抱き返すと、一寸法師は言いました。
「姫様」
「はい!」
「私は皆を助ける医者になろうと思う」
「……ご立派です……!」
「大変な道のりだが、ついて来てくれるか?」
「あなたとならばどこまででも……!」
こうして一寸法師とお姫様は結婚し、都一のお医者さんとして幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
予告で『一寸法師』と書いた時には、
「私の手術を受けたいなら、鬼の宝をもらおうか」
「そ、そんな……!」
「嫌ならいいさ。ただ自分の身体ってぇのは、宝よりも大事なものだと思うがね」
「……払います! 私の宝『打ち出の小槌』をお渡しします!」
「いいだろう(ニヤリ)」
とか考えていたのに、どうしてこうなった……。
「作者が物語の行き先を自由にしようなんておこがましいとは思わんかね……」
はい! そうですね本◯先生!
次回は『ピノキオ』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。