三匹のこぶた その三
新年ですが通常営業。
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百八弾です。
煩悩の数と並びました。
今回は『三匹のこぶた』で書かせていただきました。
お正月バージョンです。
どうぞお楽しみください。
「一年の計は元旦にありィ!」
オオカミは自宅でそう叫びました。
その目には熱意の炎がめらめらと燃えているようでした。
「あのこぶた共め……。俺様を釜茹で未遂にしやがって……。お陰でまともに椅子には座れないわ、寝返りも打てないわ、トイレは和式オンリーになるわ……!」
そう、このオオカミは、以前三匹のこぶたを食べようとして、煙突から鍋に落ち、大火傷を負ったあのオオカミでした。
「今日こそあいつらをとっ捕まえて、美味しくいただいてやるぞ……!」
オオカミには勝算がありました。
今日は元旦。
ご近所では挨拶回りが頻繁に行われ、朝からお屠蘇などを飲んだりして、どこも若干気の緩む日。
その気持ちの隙を狙って、堅固なこぶた達の家へ侵入しようというのです。
「賢いとはいえ所詮はこぶた。『お年玉』という魔性の言葉には逆らえまい……! 中身を確認されると面倒だから、ちゃんと入れて、と……」
オオカミは意気揚々と出かけました。
程なく三匹のこぶたの住む家へとたどり着いたオオカミは、咳払いをして声の調子を整えると、扉を叩きます。
「明けましておめでとうございまーす。新年のご挨拶に伺いましたー」
「はーい」
すると扉が開きました。
中から末っ子のこぶたが顔を出します。
「明けましておめでとう……、お、オオカミ!?」
扉は勢いよく閉まりました。
しかしこの状況はオオカミにとって想定内でした。
「あのー、昨年は大変ご迷惑をおかけしましたー。新年を契機に心を入れ替えようと思って、まずはこぶたさん達にご挨拶にまいりましたー」
「……」
「三匹さんにお年玉なんかもお持ちしたんですけどー」
「……」
何やら中で相談する声がして、再び扉が少しだけ開きました。
「ほ、本当に食べたりしない?」
「はい! お正月に血生臭いのはいけませんからねー」
「……じゃあ、入っていいよ」
オオカミは内心でほくそ笑みました。
(ちょろい、ちょろすぎる! だがここで慌てると逃げられたり反撃されたりして大失敗になりそうな気がする……! ここはもう少し油断させて……)
中に通されたオオカミは、勧められるままに席に着きました。
目の前にはお餅やらおせちやらが並んでいます。
「へー! こりゃすごい! これ皆さんで用意したんですか?」
「うん、僕達引っ越して来たばっかりだから、おもてなしってどれくらい用意したらいいのかわからなくて……」
「でも用意したはいいけど、今度はお客さんが誰も来なかったらどうしようかと思って……」
「だからオオカミさんが来てくれて嬉しいんだ! だからいっぱい食べていって!」
「……じゃあ、いただきます……」
オオカミはこぶたを食べる気満々で来ていたので、お餅やおせちを出されても食欲は湧きません。
それでも油断させるためだからと、お餅を口にしました。
「お、柔らかくて美味しい……」
「良かった! あ、こっちの海苔巻いたのも食べてみて!」
「お餅と言ったらきなこでしょ!」
「いやいや、餡子の魅力に勝るものなしだよ!」
「あの、順番にいただきます……」
実家から出て初めてのお正月。
張り切っておもてなしの準備をしていた三匹のこぶたは、お客さんであるオオカミの存在にテンションマックスになっていました。
あれやこれやと勧められるうちに、オオカミはこぶたどころかたまごボーロも入らないくらいお腹いっぱいになりました。
「……ども、ご馳走様です……」
「お粗末様でした!」
「いっぱい食べてくれて嬉しかった!」
「また来てね!」
「……はい、あの、ありがとうございます……。じゃあこれ……」
お腹ぱんぱんでふうふう言いながら、オオカミはお年玉を渡しました。
こぶた達の目が輝きます。
「ありがとうオオカミさん!」
「とっても嬉しい!」
「素敵なお正月をありがとう!」
「あ、いえ、こちらこそ……」
こうしてオオカミはそのまま家に帰りました。
少し苦しくて、でも幸せなお腹を撫でながら、オオカミは一人笑いました。
「今度はお礼にケーキでも買って行くかな……」
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
前回の予告で何も考えず『三匹のこぶた』と予告して話書いていたら、「しまった元旦だ! 『十二支の話』にすりゃあ良かった!』とか思って大慌てで正月バージョンにしたりしてないです。
あの話、パロディにしにくいですしね。あはは。
ごめんなさい。
そんな訳で次回も『三匹のこぶた』でお送りします。
粗忽な作者ですが、本年もどうぞよろしくお願いいたします。