鶴の恩返し その五
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百七弾です。
今回は『鶴の恩返し』で書かせていただきました。
鶴が恩返しに行った一人暮らしの男の家に、なぜ機織り機があるのか。
そこから話を広げてみました。
どうぞお楽しみください。
昔々、ある山に一人の炭焼き男が住んでいました。
ある時、山を歩いていると、一羽の鶴が猟師の仕掛けた罠に掛かっているのに出会いました。
可哀想に思った男は、鶴を罠から外し、逃してやりました。
鶴は何度も頭を下げると、空へ飛んで行きました。
しばらくした後、炭焼き小屋に一人の若い娘が訪ねてきました。
「道に迷ってしまいました。どうか一晩泊めて頂けませんでしょうか」
「えぇよ」
親切な男は、快く娘を泊めることにしました。
「ありがとうございます。ではお礼をしたいので機織り機を貸して頂けますでしょうか」
「何!? 機織り!?」
途端に男の目の色が変わりました。
まさかの反応に娘は驚きました。
「あ、あの、何か……?」
「おら機織りが好きでなぁ! よう反物を作るんじゃ! ほれ、これなんぞ自信作じゃ!」
「……!」
見せられた反物を見た娘は絶句しました。
凄まじく丁寧かつ繊細な仕事を感じられる出来栄え。
「ほれ、触ってみとくれ」
「……拝見、いたします……」
輝かんばかりの反物に物怖じしながらも、娘は反物を手に取りました。
きめ細やかな肌触り、美しく華麗な色使い。
その全てが娘の胸を打ちました。
「あの! 実は私、貴方様に助けてもらった鶴でございます!」
「な、何じゃと!?」
「御恩返しに機を織り、羽根を織り込んだ反物を差し上げようと思っておりました! しかし貴方様の作った反物はそれよりも遥か上……!」
「そ、そんな事ねぇだよ! おらのは天気の悪い時の手慰みみてぇなもんで……」
「いいえ! 貴方様の機織りは神技と呼んでも差し支えない程素晴らしいのです! どうか私にその技を教えてくださいませ!」
「……」
丁寧に頭を下げる娘に、男は照れくさそうに頭を掻きました。
「……おらの教えられる事なんか、大した事はねぇと思うんだども、それでよければ……」
「! ありがとうございます!」
こうして男と娘は二人で機織りをする事になりました。
娘は男の技を学び、さらに自らの鶴の羽根を少量加える事で上品さと華麗さを増した反物を作り上げました。
これまで独学に近い状態で技術を高めていた男は、そんな娘の工夫から新たな技を編み出し、反物の質は更に向上しました。
そうして作られた反物は飛ぶように売れ、そのお金で最新型の機織り機を二台買った男と娘は、毎日楽しく機織りを続けましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
自分の好きな事、得意な事を教えるのって楽しいですから、これも一つの恩返し(震え声)。
次回は『三匹のこぶた』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。