赤ずきん その四
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百六弾です。
昨日は突発での投稿、申し訳ありませんでした。
改めて『赤ずきん』で書かせていただきました。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、赤ずきんという女の子がいました。
赤ずきんはいつも赤い頭巾を被っていたので、そう呼ばれていたのです。
ある日赤ずきんは、森に住むおばあさんのお見舞いに行くために、森の小道を歩いていました。
そこにオオカミが現れました。
「おやおや、赤ずきんちゃん、どこに行くんだい?」
「この道をまっすぐ行ったところにあるおばあさんの家に、お見舞いに行くの」
オオカミは心の中で舌なめずりをしました。
おばあさんの家の中なら、狩人に見つかる事なく赤ずきんとおばあさんを食べられると考えたのです。
「お見舞いにはお花がいるんじゃないかな? そこの小道を少し行ったところに、花がいっぱい咲いているよ」
「そうね。オオカミさん、ありがとう!」
赤ずきんが花畑に行ったのを見送ったオオカミは、急いでおばあさんの家に向かいました。
扉を押すと、簡単に開きました。
「こりゃラッキー! レッツパーリーナーイ!」
何もかもが都合の良い状況に、オオカミは浮かれていました。
そのため、おばあさんが寝室にいない可能性を考えていなかったのです。
「あ、あれ!? おばあさんはどこだ!?」
その頃おばあさんは、水を飲みに台所へ行っていました。
そしてオオカミのはしゃぐ声を聞き、
(ぱ、パーリーピーポーがうちに入って来た……!? 何だかわからないけどこりゃ逃げないと……!)
と、勝手口からそっと逃げたのでした。
そうとは知らずに家のあちこちを探し回り、おばあさんを見つけられなかったオオカミは、
「……ま、まぁ良い。骨ばったおばあさんなんか食えなくても、赤ずきんを食べれればいい!」
自分にそう言い聞かせると、おばあさんの服をタンスから取り出して身につけ、ベッドへと潜り込みました。
「赤ずきんはおばあさんがいないと知ったら帰ってしまうだろうからな。我ながら完璧な作戦だぜ!」
しかし思いの外ふかふかな布団に、オオカミは次第に眠気を感じ始めました。
「……うぅ、まずいな……。もうすぐ、赤ずきんが、来るっていうのに……。駄目だぁ……。寝ちゃぁ……、だ、め……」
必死の抵抗も空しく、オオカミはぐっすりと眠ってしまいました。
その頃家を逃げ出したおばあさんは、赤ずきんの家に避難しようと森の道を歩いていました。
すると、花を摘み終わった赤ずきんとばったり出くわしました。
「おばあさん!? どうしたの!?」
「いや、うちにパーリーピーポーが押し入って来てね……!」
「ぱ、パーリーピーポー!?」
事態はよく飲み込めませんでしたが、家に不審者がいるという状況はわかったので、赤ずきんはおばあさんを一旦家に連れて帰り、狩人を呼びました。
狩人を伴って赤ずきんがおばあさんの家に行くと、家の中から大いびきが聞こえて来ました。
「誰か中で寝てるのかしら……?」
「家に押し入った上にそこで寝るとか、どういう神経だ……?」
狩人が慎重に家の中を進みます。
そしていびきの聞こえる寝室の扉をそっと開けました。
「な、何だこれは……!?」
「オオカミ、さん……?」
狩人と赤ずきんは息を呑みました。
そこにはおばあさんの寝巻きを着て、ナイトキャップまで被って、おばあさんのベッドで眠るオオカミの姿があったからです。
「ひ、人の家に押し入って、騒いだ挙句寝るってのは、酔っ払ってたならまぁ理解できる……。しかしこの格好は……!?」
その姿は、オオカミの作戦など知らない狩人には、女装癖をこじらせまくったど変態に見えました。
「な、何か辛い事があって、お母さんに甘えたい気持ちで、おばあさんの服に包まれたい、とか、そういう何かなんじゃないでしょうか……?」
一方赤ずきんは必死で状況を好意的に理解しようとします。
その言葉に狩人は、悲しげな表情を浮かべました。
「……そうかもな。森の厄介者と思い込んでいたが、子どもの頃に母親に甘えられない過去があったからなのかもしれない……」
自分の過去が悲劇的に妄想されているとも知らず、オオカミはぐうぐう眠っています。
「……優しく、してあげましょう……」
「……そうだな。村の皆にも伝えよう……」
赤ずきんと狩人は、そっと扉を閉めると、村に戻ってこの話を伝えました。
近年こんな衝撃的な話は滅多になかったため、話はあっという間に村中に知れ渡りました。
そして、
「……んん? はっ! しまった! すっかり寝ちまった! あ、赤ずきんは……!?」
目を覚ましたオオカミが慌てて寝室を出ると、
「あら、オオカミちゃん、起きたのかい?」
「よく眠れたかい?」
「今スープを作っているからねぇ」
「……は?」
村の高齢の女性陣が、食事の支度をしているのに出くわしました。
「オオカミちゃんはお母さんとはぐれて、寂しい思いをしたんだってねぇ」
「私達をお母さんと思っていいからねぇ」
「たっぷり甘えておくれ」
「え、いや、その……」
寝起きでこの奇怪な状況に、オオカミの頭は全くついていけませんでした。
「さぁこっちにお座り」
「毛を梳かしてあげようねぇ」
「温かいタオルで顔を拭いてあげよう」
「あ、ありがとう、ございます……?」
抵抗する事を考える事さえできず、されるがままのオオカミ。
丹念に身繕いをされ、スープを飲むと、また布団に戻されました。
「ここのおばあさんは、赤ずきんのお家でしばらく休むって事になったからねぇ」
「えっ」
「だからオオカミちゃんが満足するまで、ここにいていいんだよ」
「いやその」
「私達がちゃあんと面倒見るからねぇ」
「……!」
オオカミはさっき梳かしてもらった毛が総毛立つのを感じました。
(何だかよくわからないけど、このままだと俺の尊厳やプライドを粉々にされる事だけは確かだ!)
しかし下手に逃げると地の果てまで追いかけられそうな恐怖がオオカミにはありました。
なのでおばあさん達が部屋を出たのを確認すると、近くのメモ用紙に、
『ありがとうございます。
心が暖まりました。
実家の母に会いに行こうと思います。
このご恩は忘れません。
オオカミ』
それっぽい書き置きを残すと、おばあさんの寝巻きを脱ぎ捨て、窓から一目散に逃げ出しました。
その後、オオカミが村に戻って来る事はありませんでした。
村人達は、
「きっと反抗期で家を飛び出したか何かしたんだろうなぁ」
「おばあさん達に世話されて、母親の優しさってやつを思い出したのかもしれないな」
「良かった良かった」
などと笑い合いましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
書いていて何ですが、これはひどい。
オオカミが人を、特におばあさんを襲う事は二度とないでしょうね。
次回は『鶴の恩返し』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。