雪女 その二
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百四弾です。
今回は『雪女』で書かせていただきました。
昔会った話をされたら、男の元を去らねばならない雪女。
逆にその話さえされなければ……?
そんな視点から書いてみました。
どうぞお楽しみください。
おらの嫁っこは、ちいっと変わっとる。
例えば飯食ってる時。
「いやー、このミョウガ汁、うめぇなぁ」
「お前さんにそう言ってもらえると嬉しい……」
頬染めて俯いて、えれぇめんこいんだども、
「そういやおら昔」
「ふん!」
「ふが!?」
昔の話をしようとすると、えれぇ勢いでおらの口を塞いでくるだ。
「な、何だべ!?」
「く、口の周りに汁がついとったから、拭いてあげようと思って……」
「そ、そうか……。ありがとな……」
「嬉しい……」
そうでねぇ時はやっぱりめんこい。
だども縁側で柿の木を眺めていた時も、
「随分柿も色付いてきただなぁ」
「ほんに綺麗やわぁ」
「そういやおら昔」
「ふん!」
「むぐ!?」
子どもん頃、柿を取ろうとして落ちた話をしようとしたら、やっぱり口を塞いできただ。
「な、何だべ!?」
「あ、あの、蚊がとまりそうになっていたから……」
「こんな季節に蚊だか……?」
「み、見間違いだったかも……。恥ずかしい……」
やっぱりめんこいんだども。
極め付けは雪の降った日だ。
庭で柿の木に藁を巻いていた時に雪がちらついて、
「お、冷えると思うたら雪が降」
「ふん!」
「もが!?」
そう言うたら口だけでなくて目まで塞いできおった。
「な、何じゃ!?」
「え、あの、は、初雪は目に入ると、身体に良くないと聞いて……」
「おらの身体を心配してくれたのか……?」
「そりゃあ、大事なおらの旦那様だもの……」
理屈はよくわかんねぇけども、おらの事を大事に思うてくれとるのはよくわかる。
だからおらはされるがまま、家の中へと引き摺られていっただ。
「ねぇ、お前さん、こんな寒い日は庭仕事なんかしねぇで、二人で布団であったまろうよぅ……」
「こんな早ぇ時間にだか? 第一寒い日も何も、おめぇとは毎晩同じ布団で寝とるでねぇか」
「い、今は特別にくっつきたい気分なんだよぅ……」
「わかったわかった」
やっぱりおらの嫁っこは、少し変だがめんこい。
そういや昔、雪の降る日に、雪女に会っただなぁ。
おらまだ子どもだったからよくわかんねぇで「きれいな姉っこじゃあ」って言うたんやったなぁ。
そしたら雪女が顔を真っ赤にして、「おらに会った事、誰にも言うたらいかんぞ!」言うて、雪ん中に消えていっただ。
嫁っこにその話をしてやりたいんだども、「誰にも言うたらいかん」と言われとるからなぁ。
そもそもおらが昔の話するのを好かんようやし、これからの話だけをしていくとするかの。
「お前さん、ご飯できただよ」
「お、今日は何じゃ?」
「ミョウガの天ぷらじゃ」
「おめぇ、ほんにミョウガが好きじゃの」
めでたしめでたしじゃ。
読了ありがとうございます。
絶対過去を話させないウーマン参上!
なお男には話す気はさらさらない模様。
ちなみにミョウガには物忘れをさせるという民間伝承があります。
何でそんなものばかり食べさせるんだろうなー。ふしぎだなー(棒)。
次回は『赤ずきん』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。