白雪姫 その三
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百二弾です。
今回は『白雪姫』で書かせていただきました。
流れは原作準拠です。
流れは……(震え声)。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、白雪姫というとてもきれいなお姫様がいました。
白雪姫は王様とお妃様の優しさに包まれて、幸せに暮らしていました。
しかしある時、お母さんであるお妃様が病気で亡くなってしまいました。
お父さんである王様は新しいお妃様を迎える事になりました。
ですがその新しいお妃様は魔女だったのです。
お妃様となった魔女は、毎日のように魔法の鏡に尋ねます。
「鏡や鏡、この世で一番美しいのはだぁれ?」
『それは白雪姫でございます』
「それはわかっているわよ! 早く映像を出しなさい!」
『はーい』
魔法の鏡は白雪姫の姿を映し出しました。
お妃様は満足そうに頷きます。
「あぁ、癒されるわ……。白雪姫を生で見たいとお妃に立候補したけれど、普段は若干距離を感じるから、この自然な笑顔は映像でしか見られない……」
『もっと白雪姫に優しく接したら良いのでは?』
「無理! 遠くから眺めるだけでも顔と喉が強張るの! 親子になれたのだから、一緒にお茶したり、食事したり、お、おふ、お風呂とか……!」
『お妃様、顔がやばいです』
「……んんっ! とにかく! 毎日白雪姫の映像を眺めて慣れなければ! 今日のベストショットを出しなさい!」
『はい、こちらです』
魔法の鏡は、動物達に囲まれて微笑む白雪姫を映し出しました。
「はいキターーー! 天使! 動物達に好かれるだけでも最高なのに、この微笑み! 魔法で紙に転写して額に入れて飾らないと!」
『お妃様の寝室、もう飾る場所がないでしょう』
「うふふ、抜かりはないわ! 倉庫を改装して新たに白雪姫部屋を作ったのよ!」
『白雪姫部屋というパワーワード』
「これで昂る肖像画は白雪姫部屋に、安らぐ肖像画は寝室にと、テーマごとに使い分けられるのよ!」
『そんな部屋、姫様に見られたら幻滅じゃすみませんよ?』
「大丈夫! オートロックにしてるから! おーっほっほっほ!」
お妃様は高らかに笑いました。
しかしそんなフラグを立てたせいで、ある日お妃様はお茶を飲みながら白雪姫の姿を愛でようと、うっかり白雪姫部屋の扉を閉め忘れて部屋を出てしまいました。
そこに折悪く白雪姫が通りがかりました。
「……? お義母様? 倉庫なんかで何を……?」
不思議に思った白雪姫は、その部屋を覗いてしまったのです。
「! こ、これは、私……!?」
壁という壁に加え、天井までびっしり埋められた自分の肖像画。
描かれた覚えのない肖像画の数々に、白雪姫は恐怖しました。
『しばらく森の小人さんの所に行ってきます』
書き置きを残して、白雪姫は城を出てしまいました。
魔法の鏡からその報告を聞いたお妃様は、真っ青になりました。
「ここここれって、ししし白雪姫に知られたってこここ事よねえええ……」
『はい。ドン引きでした』
「どうしましょう!? 私別に白雪姫をどうこうするつもりはないのよ!? ただ側にいて愛でられれば良いだけで……!」
『お風呂がどうとか言ってませんでしたっけ?』
「ゆ、夢を見る事は自由なはずよ! それに無理矢理するんじゃなくて、白雪姫が望んでそうなるのが尊いというか……!」
『姫様逃げて正解じゃないですか』
「ち、違うの! 本当にそんな邪な気持ちじゃないの! 何なら手出しできないように全身拘束されてても良いくらいなの!」
『うわぁ。特殊性癖』
「違うのにー!」
何とか誤解を解こうと、お妃様は白雪姫の好物のリンゴを持って、森の小人の家に向かいました。
しかし正面切って向かい合うと絶対喋れないからと、魔女時代に使っていただぼだぼのローブを着て、フードを目深に被ります。
森の中から遠巻きに小人の家の様子を見て、小人達が仕事に出たのを確認し、お妃様は家に近づき、扉を叩きました。
「はい、どなた?」
「……あの、えっと、こ、これを……」
「まぁ、美味しそうなリンゴ! これをくださるの?」
「……は、ひゃい……」
「ありがとう! リンゴ大好きなの!」
「……おっふ……」
お妃様は名乗る事もできず、ただ震える手でリンゴを差し出します。
白雪姫は嬉しそうにリンゴを受け取り、しゃくっと音を立てて頬張りました。
しかし運悪く、リンゴのかけらが喉に詰まってしまいました。
「……う、苦し……」
「白雪姫!? 大丈夫白雪姫!?」
「……お、義、母、様……?」
「待ってて! 今すぐ助けを呼んでくるから!」
「……は、ぃ……」
「誰かー! 私の大事な義娘が喉にリンゴを詰まらせたの! 誰か助けてー! 誰かー!」
お妃様が血相を変えて、辺りを叫び回ります。
するとそこに、上級救命資格を持った王子様が通りがかりました。
「窒息か! すぐに案内してくれ!」
「はい!」
王子様はお妃様と共に白雪姫の元に駆け寄りました。
既に白雪姫の意識はありません。
「まずは異物除去だ! お母さん、娘さんを抱き起こして!」
「はい!」
「失礼します!」
王子様はお妃様が抱き起こした白雪姫の後ろに回り、ハイムリック法で白雪姫のお腹を強く圧迫します。
「こほっ」
すると白雪姫の口から、詰まっていたリンゴが飛び出しました。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「いや待って……。呼吸が止まっている!」
「えっ!?」
「人工呼吸を行います!」
王子様は白雪姫を再び寝かせて鼻をつまむと、口に口を被せ、息を吹き込みました。
二度吹き込んだ後、白雪姫の胸に両手を重ねて、心臓マッサージを行います。
三十回圧迫をした後、再び人工呼吸に入りました。
お妃様は気が気ではありません。
「白雪姫……! 白雪姫……!」
「お母さん、娘さんの耳元で呼んであげてください。意識が戻るかも知れません」
「わかりました! 白雪姫! 目を覚まして! お願い! 死なないで!」
王子様の懸命な心配蘇生と、お妃様の必死の祈りが天に通じたのでしょう。
「……えほっ! げほっ! げほっ! ……あ、あれ? 私……」
白雪姫が目を覚ましました。
感激のあまり、お妃様が白雪姫に飛び付きます。
「白雪姫ー! ごめんなさい! 私が持って来たリンゴのせいで……!」
「お、お義母様……!? どうしてここに……!?」
「白雪姫の事が大好きで、でも好きすぎて普通に話ができないから、倉庫に絵を飾って眺めていたの! それを見られて怖がられたから、誤解を解きたくて……!」
「そうだったんですね……。いつも怖い顔をしているから、私の事が嫌いなのかと……」
「そんな事ないの! でもちゃんと話せないせいでこんな事になって……! 本当にごめんなさい!」
「……良いんです。今こうしてお義母様の気持ちが知れて、私嬉しいです!」
「白雪姫……!」
「それにリンゴが喉に詰まったのは、私が慌てて食べたせいですもの。お義母様のせいではありませんわ!」
「白雪姫ー!」
抱き合う二人を微笑んで見ていた王子様は、そっとその場を立ち去ろうとしました。
「あ、あの!」
それに気付いたお妃様が呼び止めます。
「義娘の命を救っていただいて、ありがとうございます! あの、お礼を……」
「お二人の素晴らしい親子愛を見せていただきました。これに勝る謝礼はありませんよ」
「!」
その微笑みと優しい言葉に、白雪姫の胸がとくんと跳ねます。
そしてみるみる赤くなっていく白雪姫の顔に、お妃様は瞬時に全てを理解しました。
「あの、私はこの国の王妃! そしてこの子は王の娘、白雪姫にございます! 貴方様は……?」
「私は隣国の王子です」
「王子様……!」
「後日必ずお礼に伺います! 本当にありがとうございます!」
深々と頭を下げるお妃様。
その頭の中は、白雪姫の幸せのために、この王子様をどうやって惚れさせようか、そのために猛烈な勢いで回転し始めるのでした。
この半年後。
お妃様の適切なアドバイスに沿った白雪姫のアプローチで王子様も恋に落ち、二人は結婚する事になりました。
お妃様は白雪姫のウェディングドレス姿に三回ほど昇天しかけましたが何とか踏み止まり、披露宴の手紙で幸せな涙を滝のように流すのでした。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
魔女が新しいお妃様になって、白雪姫が城を出て小人達の世話になって、リンゴで倒れて、王子様のキスで目を覚まして、結婚。
原作準拠だなっ!
……シテ、……許シテ……。
次回は『桃太郎』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。