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しょじょじのたぬきばやし その一

日付は変わってしまいましたが日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第百一弾です。

今回は『しょじょじのたぬきばやし』で書かせていただきました。

タヌキは可愛い。古事記にもそう書かれている(嘘)。


どうぞお楽しみください。

 昔々、上総かずさの国に、證誠寺というお寺がありました。

 このお寺は村の人から「しょじょじ」と呼ばれて親しまれていましたが、ある時からその近くに悪戯好きなタヌキの群れが住み着いた事から、事態が一変しました。

 夜な夜な色々なものに化けたり、一晩中腹太鼓の大合奏をしたりして、和尚さんや小僧さんを驚かすのです。

 これで元いたお寺の人達は他の所へ移ってしまい、新しく来た人もすぐにお寺を去ってしまうのでした。


「困ったのう」

「誰かタヌキを退治してくれるような、高名なお坊様が来てくれんかなあ」

「こんな田舎の荒れ寺に、そんなすごい人が来てくれるんかのう」


 村の人達は頭を悩ませていました。

 そんな折、旅のお坊さんがやって来ました。

 袈裟けさはぼろぼろで、お世辞にも立派なお坊さんには見えませんでしたが、優しく笑う暖かい雰囲気のお坊さんでした。


「済みません。この近くに寺はありますか? なければどなたかの家に一晩の宿をお願いしたいのですが……」

「て、寺はあるだども、タヌキが化かしに来るから、おらの家に泊まると良いだ」

「ほう! そのような面白い寺があるのですな。是非ともそこに泊まりたい!」

「……物好きなお坊様だで……」


 わくわくした顔をするお坊さんに、村人は呆れ半分、期待半分で證誠寺へと案内しました。


「ほう! 趣のある良い寺ですな!」

「おらの家はこの下の道を右に進むとあるだで、何かあったらすぐ逃げて来てくだせえ」

「お心遣い、感謝いたします」


 お坊さんは本堂に入ると、簡単に掃除をして、ご本尊にお経をあげると、村の人が運んで来た夕食を食べて、同じく運ばれた布団に横になりました。

 そんな様子を森から見ていたタヌキ達。

 新しい脅かし相手の登場に、皆わくわくしていました。


「久しぶりの獲物だ」

「どうやって脅かしてやろうか」


 相談の結果、まずは脅かし経験の少ない子ダヌキが、定番の一つ目小僧で行く事にしました。

 そして草木も眠る丑三つ時。

 一つ目小僧に化けた子ダヌキが、お決まりのドロドロ音と共にお坊さんの元に近付きます。


「……和尚さん、和尚さん……」

「んむ……? 誰かな……? 拙僧はまだここの住職ではないから、和尚さんではないのだが……」


 お坊さんが目をこすりながら起き上がると、


「ばぁっ!」


 目の前に一つ目小僧の姿がありました。

 しかしお坊さんはにこにこ笑います。


「おお、可愛い小僧さんだ。一つ目だとさぞや色々なものが見えるのでしょうね。昔から『一目瞭然』と言いますから」

「え? あ、はぁ……」

「甘いものはお好きかな? 前に泊まった寺でもらったお饅頭、良ければお食べなさい」

「あ、ありがとう……?」


 子ダヌキはキツネにつままれたような気持ちで、仲間の元へと戻りました。


「どうだった!?」

「お饅頭もらった」

「何!? ……なかなか手強い奴のようだな。よし! ここは経験豊富な年増で!」

「誰が年増だい!」

「つっこみながらの立候補とは流石だなお絹! 行ってこい!」


 続いてベテランのお絹が、美人のろくろ首に化けてお坊さんの元に向かいました。


「……和尚様、和尚様……」

「んむ……? 今度は女性にょしょうの声……。おお! これは美しい!」

「……えぇ、どうぞ、顔を、よく、ご覧になってえええぇぇぇ……!」


 お絹は首を伸ばして脅かそうとしますが、お坊さんは涼しい顔。


「これは僥倖ぎょうこう! 戒律で女性にょしょうと酒を飲む事は許されませんが、ろくろ首と飲んではならんという文言もんごんはありませんからな」

「は?」

「このふくべに隠したさ……、般若湯を是非一緒に飲んでいただきたい」

「え?」

「ささ、一献」

「い、いただきます……?」


 お絹は勧められるままにお酒を飲みました。

 何となく流れでお坊さんにもお酒を注ぎました。

 差しつ差されつ飲むうちにお酒が回り、お絹はほろ酔いで仲間の元に戻りました。


「どうだった!?」

「お酒が美味しかったわぁん。はー、あたし今日はもう寝るわぁん」

「ぐぬぬ……! こうなったら腹太鼓だ! 和尚を寝かせるな!」


 仲間達に号令をかけて、タヌキ達は腹太鼓を鳴らします。


(酒を飲んだ後にこれは辛かろう……! 和尚敗れたり……!)


 群れのかしらがそう思ったその時。


「拙僧もやりますぞ!」

「!?」


 袈裟をはだけさせ、腹を丸出しにしたお坊さんが本堂から飛び出してきました。

 これにはタヌキ達も驚きました。


「ほいっ、ほいっ、それっ、それっ!」


 お坊さんが腹を叩きますが、タヌキ達程良い音は出ません。

 最初呆気に取られていたタヌキ達も落ち着きを取り戻します。


「な、何だ、大した事ないぜ?」

「そ、そうだな。やっぱり腹太鼓でタヌキに敵う奴はいないんだ!」


 しかし頭はお坊さんの腹太鼓から目が離せません。


(この拍子……! 裏拍をふんだんに取り入れているのに全く崩れない……! そして時折入る三連打ちが、単調になりがちな太鼓の曲に彩りを与える……!)


 驚く頭の前で、お坊さんの腹太鼓は更に盛り上がっていきます。


(何と! 太ももを叩く事で演奏に膨らみを持たせるだと!? しかも腹太鼓を小刻みに打った後で太ももを高らかに打つこの流れ……! 胸が熱くなる……!)


 知らず知らずのうちに、タヌキ達の腹太鼓がお坊さんの刻むテンポに合わさって来ました。

 さながらそれは、演奏に合わせて手を打つライブ会場。

 お寺の庭を一体となったグルーヴが包み込みます。


「ほいほいほほいのほいっと」


 演奏が終わりました。

 感激した頭が、最大限の賞賛を意味する腹太鼓の連打をしました。

 他のタヌキ達は驚きましたが、そこはタヌキ。

 腹太鼓の素晴らしさに関しては、偽る事ができません。

 一匹、また一匹と絶賛の腹太鼓が増えて、最後は村にまで響くような大合奏になりました。




「御見逸れしました!」


 タヌキのかしらは、演奏を終えたお坊さんにあたまを下げました。


「どうかその絶技、我々にも伝授してもらえないでしょうか!?」

「ふふふ、小僧時分に寺の太鼓や木魚で遊んでいたのが、こんなところで役に立つとは。良いでしょう! 共に楽しく奏でましょう!」

「はい!」


 こうしてお坊さんはこのお寺の住職となり、タヌキ達と仲良く暮らしましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


腹太鼓の達人。

でも打つ様子はド◯ムマニアの超演奏。

スネアの十六分音符からスネアに繋ぐ流れとか大好きです。


次回は『白雪姫』で書こうと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子ダヌキが、タヌキなのに狐につままれた、というところでふふっとなってしまいました。 子ダヌキ可愛いですね。 100話のたぬきちゃんも可愛かったですし、本当にたぬきは可愛いです。 [一言] …
[良い点] 成程、本作の御坊さんにはボディーパーカッションの心得があるのですか。 御詠歌や仏教讃歌といった仏教音楽に心得のある御坊さんも沢山いらっしゃいますので、ボディーパーカッションの心得がある御坊…
[良い点] 微笑ましくて、面白かったです! 腹太鼓のくだりはなんとも笑えましたね。
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