タヌキですが恩返し先の空気が大変です
日曜の元気なご挨拶。
とうとう来ましたパロディ昔話第百弾です。
今回はこれまでの総集編的な意味で、昔話の普遍的テーマ『恩返し』を主軸に、四コマ漫画風に書かせていただきました。
どうぞお楽しみください。
【恩返しは突然に】
ボクは化けタヌキ。
子ダヌキの時に助けてもらった人間に恩返しするために、人間の街にやって来た。
ただ、今までは長老の許可も出なかったし、あの人間の居場所もわからなかったのに、急に何もかも大丈夫になったのが不思議だけど……。
まぁいいや! 恩返し恩返し!
【ここがあの人間のハウスね!】
ここだ! あの人間の家!
匂いも間違いない! 早速行こう!
……あれ? 何で戸が開かないんだ?
ふぬー! くぬー!
……はぁ、はぁ……。
はっ!? これが噂に聞く鍵!?
※タヌキの山の近くの村では基本施錠しません
【こんな事もあろうかと】
ふふふ、しかし何にでも化けられるボクの力!
そして勉強を重ねた人間の生活!
手を変化させて……!
[タヌキは指先を針金に変化させた!]
えっと、ここの上を押しながら回すんだよね……?
これをこうして……!
……難しい……!
※ピッキングは犯罪です タヌキは人間の法に縛られませんが、人間は真似しないようにしましょう
【激闘十五分】
……! 開いた! さぁいよいよ恩返しだ!
何に化けて恩返ししようかなー!
昔話みたいに茶釜になるかな?
それとも落語みたいにお金に化けてみようかな?
「こんにちは! お邪魔します! 恩返しに来ましたー!」
「えっ」
……え。
目の前には綺麗なお姉さん達に囲まれたあの人間……。
そうか……。
ボクの恩返しって時代遅れだったんだぁ……。
「……ごべんなざい。美少女が良がっだでずが……?」
「お、おい待てタヌキ! 誤解だし気を遣い過ぎだし泣くな!」
【優しい君のままで】
涙目で震えるボクに近寄ると、人間は頭を撫でてくれた。
あったかいなぁ。懐かしいなぁ。
悲しい涙が引っ込んじゃった。
「お前、昔温玉山で会ったタヌキだろ? 久しぶりだな」
お、覚えててくれたんだ……!
嬉しい!
「はい! 恩返しに来ました!」
「!」
「!」
「!」
わ! 後ろのお姉さん達の目が光る!
「やっぱり……」
?
人間が溜息を吐いた。
やっぱりってどういう事だろう……?
【そんなゲームじゃあるまいし】
「俺は困ってる生き物を見るとつい助けちゃうんだけど……」
うんうん。
その優しさでボクも助けてくれたんだよね。
「そしたらマスクデータだった『人徳(対人外)』がカンストしててさ……」
「は?」
急に何を言ってるんだろう。
おまじない?
「スキル『恩返し全面解放』が発動したんだよ」
「ごめんなさい。何言ってるのかわからない」
「言ってて何だけど俺もだ」
【恩返しのカタチ】
「とにかくこのスキルがあると、これまでに俺が助けた奴らが恩返しに来れるようになるんだ」
「……あ! それで長老から許可が出たり、ここの場所がわかるようになったんだ!」
「そうみたいだな。しかも俺に恩返しに来る奴らは、他の人間からも普通の存在として受け入れられるらしい」
そっかぁ。
じゃあその『すきる』ってのに感謝だなぁ。
「そうしたら前に助けた鶴とか蛇とか蛤とかが一斉に恩返しに来てさぁ……」
あー、それでお姉さんがいっぱいなんだ。
「やっぱりボクも美少女に化けた方が……?」
「違う! 違うんだ! いらん気を回さないでくれ!」
【現代と恩返しはどう考えても相性が悪い!】
鶴
「機織りします」
「機織り機ないし」
「ならばこの身の全てを捧げるしか……」
蛇
「妾の目を売れば食うに困らん金になるぞ」
「いらないいらない重い重い」
「ならばこの身の全てを捧げるしか……」
蛤
「味噌汁でも飲んで……、ゆっくり話でもしようや……」
「だが断る」
「ならばこの身の全てを捧げるしか……」
「そんなこんなでこうなった」
「蛤さんのくだり、おかしくなかったですか?」
※『蛤女房』『アバ茶』で検索してはいけません
【純愛したいし 命は惜しし】
「でも俺は別にハーレムとかいらないんだよ! 純愛ものが好き!」
「はい! タヌキ的にも番は一頭ずつが良いと思いま……!」
凍り付く空気!
まるで空から鷹が狙っている時のような、命の危険……!
「……機織りで恩返しができない以上、私は立ち去る気はありませんが……?」
「想い人の元から容易く手を引けば蛇の名折れ。妾は些か手向かいをするぞ……?」
「まぁ。ではこの街、無くなってしまいますね……?」
目が笑ってない……!
「はははハーレムは今の流行りだしな! おおお男の夢だようん!」
「一夫多妻バンザイ! 子孫繁栄バンザイ!」
【身売り(物理)】
「……そんな訳で、嫁になって恩返しとかは困るんだよ。何か別の方法ない?」
「勿論です! タヌキの化け方は変幻自在ですからね!」
「おぉ、頼もしい」
これまでに修行した成果をアピールするチャンス!
「黄金の茶釜やお札に化けて、借金を返したり!」
「身を売るってレベルじゃねーぞ」
「サイコロに化けて大儲けしてもらったり!」
「消防車のサイレンアレルギーでバレるやつだろそれ」
「違いますよ! 天神様に化けてバレるんです!」
「どっちにしろバレるんじゃねーか。いい加減にしろ」
※落語『狸賽』を参照
【……こいつ、直接脳内に……!】
『……タヌキさん、聞こえますかタヌキさん……』
ん? 何だろう。
鶴さんの声が頭に響く……?
『葉久さんは婚姻していないからと、私達と交わろうとしない固いお方……』
この人、スエヒサさんって言うんだ……。
『……故に妾達は結託する事に決めたのだ。四六時中献身的にかつ蠱惑的に接して、葉久の目覚めを待とうと……』
でもスエヒサさん起きてるよ蛇さん。
『……あなたも協力してくれない? 戦いは数です。『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる』の諺もあります。きっとあなたの恩返しも上手く行きますよ……』
そうかなぁ。
何だか上手くいかない気がしてしょうがないんだけど……。
【進撃の恩返し】
あ、玄関が開く音がした。
誰か来たのかな?
「な、何で玄関が開いたんだ!? 鍵閉めてたのに!」
「あ、ボクが指先を針金に変化させて開けたから」
「虫とかに化けて入ってきたんじゃねーの!? しまった! 油断した!」
何を慌ててるんだろ?
わ、何か足音が……!
「どうも! 前に羽衣を一緒に探してもらった天女です! 嫁になりに来ました!」
「……以前雪山でお会いした雪女です……。その節は大変お世話になり、不束者ですがよろしくお願いいたします……」
「ウサギです! お礼に来たよ! 私を食・べ・て♪ って食事じゃなくて性的な意味でね! なんつって! よろしく!」
「私達、地蔵峠フォーエバー6!」
「私達六人で!」
「あなたの生活ばっちりサポート!」
「お米でも肉でも魚でも!」
「毎日お届けしちゃうよ!」
「あなたの欲しいものはなーに?」
わ、いっぱいの女の子……。
「うわぁ……」
スエヒサさん、固まっちゃった……。
何だか大変な事になっちゃったぞ……。
【私に良い考えがある】
『……タヌキさん、聞こえますかタヌキさん……』
あ、また鶴さんの声……。
『今後も沢山の恩返しが葉久さんの元に来るでしょう』
うん、そうだよね。
『このままではその対応に追われて、タヌキさんの事を忘れてしまうかもしれません……』
そ、それはやだ!
でも確かにそうなりそう……。
『そこであなたに秘策を授けます』
秘策……?
『そう、あなたにしかできない、最強の切り札を……』
【みみ! しっぽ! ふさふさーっ!】
「えいっ!」
ぽんという音と共に、ボクは鶴さんの言った通りの姿に変化した。
「え、お前……」
頭に耳を残して、尻尾もそのまま。
ちっちゃい身体に毛もふさふさなままの人間の女の子。
化け方を失敗した時みたいだけど、これで良いのかな?
「……おっふ……」
何か目を逸らされたんですけど!?
やっぱりちゃんとした人間の方が良かったんじゃないかな!?
【いともたやすく行われるえげつない好意】
『それで良いぞタヌキ』
蛇さん、ホント!?
『うむ、人間には毛の生えた動物と人間の中間のような姿を好む者が多いのじゃ。妾達ではそれは叶わぬのでのぅ』
そうなんだ。
じゃあ今目を逸らしたのは……。
『きっとタヌキさんが可愛くて照れてるのですわ! さぁ! 存分に抱きついて撫で撫でしてもらいなさい!』
わかりました蛤さん!
タヌキ、いっきまーす!
「タヌキお前もかあああぁぁぁ!」
【ハーレムは続くよどこまでも】
こうしてボクはスエヒサさんの家に住む事になった。
沢山の恩返し仲間も一緒に住んでます。
お家は恩返しで集まったお金ですっごい大きい家を買ったから、まだまだ増えても大丈夫。
お庭も大きいし、お日様ぽかぽか。
うーん、最高!
あ、スエヒサさん。
「さぁ今日こそ夫婦の契りを交わしましょう!」
「妾は時間をかけてゆっくり愛を交わすからな? 初めてでも安心じゃぞ?」
「さぁ、私の全てを飲み干して……!」
「やめろおおおぉぉぉ!」
追いかけっこかな?
ボクも一緒に遊ぶー!
「うわあああぁぁぁ! 誰か助けてえええぇぇぇ!」
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
前回の感想で『分福茶釜』のリクエストをいただき、元々考えていた『恩返しハーレム』が形になりました。
なろう要素も取り込んでパワーアップ!
四コマ漫画風にしたのは天啓なので、悪いのは多分神様です。
ちなみに恩返しをされる男・義部葉久は、恩返しの英訳giving backのもじりで作りました。
羨ましいと思うか、哀れと思うか、それは人それぞれです……。
百話という一つの区切りに到達しましたが、まだまだ続けてまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。