前世の悲願の推しカプを縁結びして、後始末を考えなかった結果
数ある素敵な作品から、このお話をお読み頂き有り難う御座います。
設定を適当に組んだので、部屋と気分を明るくして広いお心でお読みください。
今日はお出かけ。
貴族に生まれた私(10歳)は、婚約者との月に一度の顔合わせの為に馬車に揺られて……植物園的な公園的な所に行かされている。
行きたくなーいめんどーい。暑いからもっと寝てたーい。
て言うか家でいーじゃん会いに来いってのー。
私は……ボヤッと生きています、貴族の幼女。
変な記憶がチラチラ混ざり、余計に情緒不安定。
朧気からハッキリまで甦る記憶によると、どうやら違う世界の生を終え、此方に転生した……みたいだよ。多分ね。
……ただ、ポジショニングが分からない。
モブ?脇役?まさか主役?
うーん、何かこう、イベントが起これば覚醒するのかな。
「何故お前のような女がグレンジャー様に!!」
「まあ嫌らしい!図々しい平民が!」
「わ、私、グレン様にお礼を、ただお逢いしたかっただけで……!!」
「やっぱり帰ろうポメリー!!」
うん?何だかあっちが騒がしい?
私は声のする方へ目を向け……腫れた目が開き、曇った気分が何故かスカッと解消した!!
あの、キウイみたいな頭にゴールデンキウイみたいな目の色は……!!
乙女ゲーム『輝く逢瀬じゃ終われない!』のヒロインだ!!
ああ、何てこと!!
庭師が丹精込めてお世話をした美しい植物園的な公園?で……今、この私の目の前で……!前世で読んでいたゲームコミカライズ漫画のヒロインが、ベタな奴等にベタな感じで、苛められている!!
彼女は幼少期、メジャーヒーローである乳兄弟を庇って、頭に傷を負って手違いで丸刈りになってしまう!!
……テキスト読んでる時は流されて何にも思わなかった。けど、老いも若きもドレス着て闊歩してる中だと、実にあの髪型は目立つな。
しかも、傷はちょっぴりで軽かった筈。
直ぐ治るし髪もその内生えてくるんだけど、何故丸刈りにした。
切った奴、ウッカリミスではすまんのでは。
しかも、カツラとか帽子とかで隠さず堂々とこの場に表れて……男らしいにも程があるヒロインだわ。
幼少期スチルが無かったけど、他の攻略キャラとの出会いも幼少期だった筈。
……貴族や何やかんやなこの時代設定の中、グレンジャー閣下(推し攻略対象)とこの頭で初対面か。
中々剛の者よ。憧れはしない。
えーと、それで怪我からメジャーヒーローの過保護っぷりが加速するんだっけ。
だから他のキャラ狙いの時は乳兄弟を出し抜き、イベント管理に気を付けないと誰のルートにも入れないと言う……。
「平民は失せなさい!!」
「ちょっと、待ちなさいよ!!」
しまった思い返してるタイミングが悪い!!
思わず駆け出した私は……私は!!
えーと、確か、えーと。そう、この私は、何かにつけてネチネチと主人公を虐めるポジションの、意地悪伯爵令嬢アリージェタ・ナイジメール!!
……マジか。もっとさりげない身分のヒロインのお友達ポジションが良かった。しかも、ガツンとチートな悪役令嬢ですらない。お邪魔用意地悪キャラじゃないか!
将来の侍女仲間とかの立場を今から希望!!
って、いや!それどころじゃない!!
私の推しカップルが、目の前のモブに引き裂かれようとしている!!
いかん、許すまじ!!
私は後先考えず、スカートを翻しながら走り出した。
今、あの子はグレン様と言ったわ。
と言うことは、王妹を母にお持ちのグレンジャー閣下ルート(只今13歳)にどっぷり入りたいとお見受けする!!
私は今、10歳で、ヒロインもそう!!
今からなら、私も彼らの恋愛成就に手を貸せるかも!!
そう、ヒロインの横でボケッとしてるメジャーヒーローのルートに引き込まれる前に!
全ては、推しカップルの為に!!
私はモブ(実はこの苛めてるガキは私の従姉妹だったんだけど)の彼女たちからヒロインを救出することに成功して、ダッシュの件は後でしこたま両親に怒られた。
だが私はメゲない。今度こそ、今度こそ!!
今、ハッキリ思い出した前世の悲願、叶えて見せる!!
早速明日からメジャーヒーロー宅に突撃して、フラグをなぎ倒し折りまくりの日々だあっ!!
「ポメリー、彼は君とは身分が違うんだ!諦めろ!!」
「いやっ、離して!!ルコール様には関係ないですっ!」
「様なんてやめてくれよ!俺と君は乳兄妹だろう!?」
お前がそれ言う!?お前だって貴族だろ!平民のポメッラとは身分が違うだろって私が500回突っ込んだ事を忘れるな!!
健忘症!?
「目を覚ますんだ!!大体あんな野蛮な方、か弱い君に相応しくないよ!!」
「まあすみませーん通してくださーいまーせ!前が見えなーいおっと危なーい!」
私はヒロインに襲いかからんとする悪しきメジャーヒーローに、渾身の体当たりをかました。
名付けて、喩え主役級でも恋路を邪魔するもの許さん棒読みアタック!!
「ぐあっ!!」
もう、やーーーっと離れたよ!!
全く、余計なことすんな!!
ドラマCDやコラボ小説コミカライズでも無視され、不遇を託ったマイナーカップルが成立しようとしてんのに、周りの無理解が彼らを襲っている!!
ゲームが始まる16歳で、期は熟したと言うのに!!
この私が愛したマイナーカップルが、私の目の前で!!グレンジャー閣下×ポメッラが成立しようとしているのに!!
遮る者も邪魔する者も、マジ許さん滅すべし!!
「何をする!!離せアリージェタ!!」
ちっ、流石主役級ヒーロー、ルコール・クラック。渾身の体当たりでよろけたただけとは!!
足を踏むか、荷物を足の甲に落としてやるべきだったわ!
「あら、道を占拠して私の幼馴染みに迫る暴漢が煩いわね」
「暴漢だと!?」
「か弱いレディの腕を掴んで目を吊り上げて怒鳴ってる男は総じて暴漢だわ!」
「アリー!私の大好きな救世主!!大好き!!」
私に対する変なお礼は良いから早く行って!!地味に百合疑惑も出て困ってるから!!
「さあ、お行きなさいポメッラ!!早くしないと閣下が出立なさってしまうわ!!」
「有り難うアリー!!私、私……」
ああもう、グレンジャー閣下を慕って目を潤ませるヒロイン、マジ尊い!
でもいいから早く行って!!早くしないとヒロイン力でも間に合わないかもってハラハラする!!振り向くな!!足を動かせ寧ろ飛べ!!……は無理か!
「駄目だポメリー!!俺は君がむごっ!!」
どさくさで告白しようとするな!!私の黄金の右手が間に合って良かった!!
毎回毎回、幼少期から隙有らば告白しようとしおって!!
他のキャライベント潰しヒーローの癖に、変なフラグを今更立ててたまるか!!
「御免なさいムリ!」
「未だ何も言ってない!!」
「何かあるとドヤ顔でしゃしゃり出てくる所と、頼んでもないのに押し付けがましい所が本当にムリ!ムリです!!」
ポメッラの良い所は、遠慮のない物言いと煌めく笑顔。そして敢えて空気読まないところだと思う。
私が増長させたのは秘密。侍女としては致命的だからとっとと辺境伯に任命されたグレンジャー閣下に囲って貰うが良いわ!
「直すから!!聞いてくれ!!」
「直らない!!聞かない!!」
て言うか嫌がられて、スルーされて、更に具体的に断られてるだろ!!諦めろ!!
て言うか、コイツは良いから早く行って!!追いかけろ!!ガチで間に合わない!!
「ふんぬぬぬぬ!此処は良いから早く行って!!」
「離せアリージェタ!!離れない!!くっ!何故離れない!?お前、令嬢の癖に何でこんなに強いんだよ!痛い痛い痛い!!」
はっ!家がお金持ちだから習い事はたんまりしたのよ!関節技を中心に暴漢対策にな!お役立ちぃ!
でも、ちょっと腕がプルプル震えて限界来てるから早く!!
「まあ、今日もアリージェタ嬢はルコール公子と情熱的ですわね!!」
「微笑ましいですわ。素敵なご報告も秒読みね」
実は私の身にも更に変な風評被害が立ってるけど、ヒロインの幸せには変えられない!余所は余所、うちはうち!鬼は外!
そんなことより推しカップル成立が見たい!!
ああもう、こやつが無様にも邪魔しなければくっつく瞬間が見れたのに!!
「止めるんだポメッラ!皆の迷惑を考えたことあるのか!?ポメッラーーーー!!」
「御免なさいルコール!!」
取り敢えず早く行ってってのおおおお!!
ヒロインは今日も呑気だな!!まさか今更ルコールルートに飲み込まれて無いだろうな!?
「……」
ジタバタしていたものの、関節技の多用によりやっと大人しくなった。あーもう、練習してたとはいえ、男を羽交い締めにするって大変!
「はあ、やっと行ったわ。全く、ポメッラったらグズなんだから!」
あ、申し訳程度の意地悪っぷりを発露してしまったわ。思いがけず意地悪キャラが滲み出てしまうな。
はー、疲れた!でもまたルコールが煩いかな。ダレてらんないや。
ん?
此処で食って掛かって来ないな?
「……どうしたの?」
「何故だ!!お前、お前……お前の婚約者は、グレンジャー様なのに!!」
あーそうなのです。
実は私の推し、グレンジャー閣下。私の婚約者なんだわな。
と言うか指摘されるまで忘れてたな。
何を隠そう、あの序盤の外出ってば、閣下との会合だったんだわ。
「仲良かったのに!!」
「そお?私、あの方を恋や愛で見たことないもの」
萌えては居るけど、あくまでポメッラとのセットでないと受け付けない。
月イチの顔合わせは……筋トレの話で盛り上がった。
あれは伴侶のノリではいけない。何せ私が伴侶では解釈違いなの。
「乱暴なお前と目茶苦茶お似合いだったのに!!閣下だって満更でも無さそうだったのに!!身分だって!!」
「だから身分ならルコールの方が前途多難よ!って何百回言わせるの」
これ以上暴力を振りかざしたら、近隣から通報されそうだし、一言以上多いコメントは我慢してやるとして……。
乳兄弟=家来。
貴族社会では越えにくい壁なんだよなあ。
ポメッラに執着して惚れているルコールは、其処を頑なに認めようとはしない。
貴族に有りがちなダブルスタンダードって奴ね。
まあ、ポメッラがルコールに本気なら、ふたりで乗り越えられるのだけど。
「俺は、君が幸せになって欲しかったのに……」
「私はポメッラが愛する人と結ばれて幸せになれば、幸せよ」
その為に6年間、お前の家に通ってフラグを折り倒してきたんだから。とは言えないな。
通う私も私だけど、迎え入れるお前もお前だわ。
「……君は本当に解ってない」
そっとルコールは私の手を取った。
何なの急に。女の手が恋しいの?
「女だてらに武張ったことを習ったのも、閣下に並び立つ為だろう?」
「趣味ですわ」
ヒロインを苛める立場なもんだから、ちょいハイスペックになれたみたい。
でもまあ、関節技の素質がないのか、今が最盛期って感じ。悲しい。
「閣下に棄てられたら、君は貰い手が無いと噂されているのに……」
「仕方ないわね。それも人生よ」
「ポメッラに棄てられた俺にも、他の誰も寄ってこない……」
それは自業自得なのではなーい?見た目も悪くないけどポメリーポメリー煩いから、同世代は誰も寄ってこないし。
そう言えば、ルコールって自分のルート以外は誰とくっついてるのかな?
適当に結婚したのかな、公爵家だし。お金は大体を覆い隠すもんな。
「責任を取ってくれ」
「は?」
何言ってんの?責任?
「俺は、ポメッラと閣下を出来るだけ色んな手段で離そうとしたのに、君が台無しにしたんだろう?」
「両想いの仲を裂こうとしたのはルコールでしょう!?」
「俺の恋心を壊して再構築したのは、君だ」
再構築?
無理矢理力技でフラグを壊したのは否定しないけど……どういうこと?
何か製作した覚えはまるでない。
「君はポメッラだけの俺の世界を破った、彗星だ」
「悪口には報復するけど、何なのそれは」
確かに彗星のごとく現れてポメッラとの仲をぶち壊していったけど。
「邪魔ばかりする君が憎らしく、だがいつの間にか楽しく、会話が煌めいていたことに気付いた」
「二股は唾棄すべき悪癖だわ」
「今、仄かなポメッラへの愛は砕けて壊れた。君が完全に壊したんだ」
いやまあそうですけど。
無駄に近いな。
いつの間にか何だか、壁際まで追い詰められてけど何故!?
ま、まさか復讐!?
ちょ、どうしよう。関節技決め過ぎた!?何気にこの頃よく避けられるし、まさか、まさか……力関係が逆転している!?
「愛で傷付いた心は、違う愛で満たすべきだと俺は考える」
「そ、そう。閉ざされた世界でなく、他に目を向ければもっと良いと思うわ」
「俺は妻とは隠し事のない関係が望ましいと思うんだ」
そりゃ、何だかんだで10歳からの付き合いだものね。
お互い、恥も思い出もたんまり見せてきたけど……それは全てはポメッラの為であって……。おおお?
「君も俺も後がないんだ。責任を取って貰おう」
「大丈夫よ。こう、留学とか遊学とか……」
私の肩に置かれた手は、いつの間にか大きく……力強い。
嫌な予感が過る。
腕ごと抱き込まれて、私は自分の勘が当たったことに舌打ちしそうになった。
「まさか、今までわざと私にやられたフリを」
「少々痛むけど、気になる女性にしがみつかれるのも一興かと思ってね」
そう、コイツはメジャーなヒーローだけ有って……暴漢3人からヒロインを守れる程度には、強い。グレンジャー閣下はポメッラを抱えて崖ダイブ出来るからもっと強い。
私も習ってるとは言え、乱闘や喧嘩は無理。だって私の特技は超近距離。そんなの出来ないし、多対一は負けるから、逃げるしかない。
そして、こうやって抱き込まれても……The Endだ。
「仲良くしよう。君と俺なら何の障害も要らないからね」
「い、いやいやいやいや!会う度怒号を飛ばす女の何が良いの!?さっきは野蛮な暴力も振るったわ!!」
言葉にすると結構ヤバイね、私の行いは。
よくクラック公爵家から、叱責とか村八分令とか送りつけられなかったもんだわ。懐マジ広々ゆったり!
「子供の頃からの親しいじゃれあいさ」
「それはそれで腹が立つ」
「その素直さが好ましいよアリージェタ。ポメッラに向けていた熱を俺にも向けてくれないかな。途中から一周回って羨ましくなったんだ」
何てことなの。
ポメッラに向けていた視線が、私に向いているなんて。
こんな想定はしてなかった。
家に押し掛け、ポメッラとの仲を邪魔ばかりして、嫌われているとばかり思っていたのに。
こいつは、しつこくて……ひたすらにウザく、愛情深いというのに!!私がフラグを折りすぎて、変な風に曲げちゃった!?
ポメッラは逃がすことが出来た。推しカップルが誕生した。
じゃあ、残されたコイツは誰が面倒見るの。
私かよ!!
……どうしよう。
推しカップルを縁結びしたかっただけなのに。
自分含め、後始末の事を全く考えていなかった。
読んでくださって有り難う御座います。
心よりの感謝を捧げます。