支部長との話し合い
そして俺と、何故か支部長アンド秘書との話し合いが始まった。
「とりあえず何を話せば、あなた方は納得していただけますか?」
俺は、さっさと終わりたいがために、ストレートに言う。
すると秘書さんが、こちらをはっきり見ながら用件を話す。
「今回ハルヤ様に来ていただいた理由は大きく二つあります。一つ目は他の騎士の方に伝えてもらった通り、ダンジョンで起きたイレギュラー魔物、通称赤オーガの討伐戦のことですね」
それなら冒険者ギルドの人に聞けばいいのでは?
そう考えつつ、次に支部長が口を開く
「そして、もう一つはお前の回復魔法使いとしての腕を見込んで我が支部にスカウトする事だな」
ちょっと待て。それはおかしくないか? なんで雑貨屋店員で商人の俺が国軍に入らないといけないんだ!?
その後、さらに支部長はダメ押しをしてきた。
「ちなみに、ダンジョンの方は冒険者ギルドから書類が入って来ているから、正直あんまり話すことがないからな」
あの、もう嫌になったので帰らせてください。
そう言いたいが、先に断っておかないとマズイのではっきりと言う事にした。
「つまりは俺を雇いたいからここに呼んだのですね。でも、自分はスカウトに応じる気は全くないです」
俺が言った、その言葉を聞いて固まる支部長と秘書。
その間にどうやって帰ろうと思っていると、少しして再起動した二人は何故だと聞いてきた。
「お金のことは気にするな、高額な給金が出るぞ。それにやってもらう事は、怪我をした騎士達の治療で前に立つことはほとんどないぞ」
「契約内容はまだ言っていませんでしたね。こちらが契約書になります。何か不備がありましたら即刻修正しますのでお伝えください」
確かに契約内容は見ても、罠とかはなさそうだが、俺は雑貨屋をしている店員なので、国軍でずっと働く気はない。
なんとか思考を回し、上手く伝える事を頑張る。
「あの、なんで俺を起用しようと思ったんですか。自分はほとんど戦闘力がない一般人にプラスして回復魔法が使えるだけですよ。後雑貨屋店員なので国軍で働く気はないです」
「その貴重な回復魔法が使えて、さらに雑貨屋をしているから仕入れも出来るから、今の国軍に使えると思ったからだ」
支部長がそう言い、横にいる秘書も頷いている。
だったら、この街の神官や治療院の人を雇えばいいし、仕入れの方は商業ギルドの人を雇えばいいのでは?
その事を伝えると、秘書さんが
「エルナ少尉から話を聞きましたが、ナイフを刺して出来た傷をすぐに直すほどの、治癒力を持つ回復魔法使いはそう簡単に見つからないですよ」
という衝撃発言をしてきた。
俺はその事を聞いて、そんなわけがないと思いつつ話す。
「いやいや、確かに回復魔法使いは貴重なのは知っていますが、見つからないことは事は無いと思うのですが……」
そう言ったら、二人が否定をしてきた。
その話を聞いて、今度は俺が固まる番みたいだ……。
そして、スカウトを断り続けていたら遂に昼時になった。
だが、俺vs支部長アンド秘書の戦いは、まだ平行線のままである。
「ではこういうのはどうでしょうか。一ヶ月の手取りが二十五万パル(一パル=一円)で保険や国営の年金はこちらが払いますし、休みも週休二日で有給は半年に十五日ごと支給します。これでどうですか?」
とんだホワイトに見えるが、実際は治療したり他の激務を手伝わないといけないことを、俺は話を聞いているため、どんな雇用条件でも断っている。
というか俺は平和に雑貨屋店の店員で、ほのぼの暮らしたいと言っているのに、この人たちは全く聞く耳を持たない。
それどころか、挙げ句の果てには
「それが嫌なら支部長権限でお前の条件に合わせてやる」
とまで言ってきた。(後ついにお前と言ってきた)
「いや、あのだから自分は雑貨屋店員で暮らしたいんですよ。やるとしたらバイトで、夕方くらいに時間を開けてこっちにきて、騎士様達の治療するくらいならまだ譲歩出来ますが、常勤で働くのは嫌です。後戦場に連れて行かれたくもないです」
その俺の発言を聞いて支部長と秘書は、顔を見合わせて『なる程、その手があったか』と言ってきた。
そして俺は思った。
もしかしてとんでもないこと言ったのでは?
そして、その方向で話が進んでいき、たまにでもいいので、国軍の支部にきてもらって治療する事になってしまう。
日にちは使いの騎士を、その日に出して呼びに来られる事になった。
俺はやっぱり面倒な事になったなと思い、頭を抱える。
そして、話し合いがなんとか終わり、国軍の支部を出た時にはお昼を過ぎていた。
見送りに来たエルナ少尉は俺に敬礼した後、話しかけてきた。
「今日の話し合いお疲れ様でした。この話し合いで私達は、安心して訓練に励むことができます」
と言い頭を下げてきた。
俺は「まだ完全には受け入れてないけどな」と言い、せめてもの抵抗をする。
だがエルナ少尉は「ですが私達の為に治療に来てくれる事は本当ですね」と顔が笑顔になっていく。
その笑顔を見ると、俺は本当なんで譲歩してしまったんだろだろうなと思う。
そして、俺はある事を思い出し文句を言う。
「そういえば、朝早くにガンガンとドアを叩いていたな、あれで近所迷惑と言われて苦情がきたらどうするつもりだったんだ?」
「それは、私にもわかりません」
おい、人の迷惑も考えろよ。
「いやいや、苦情がきてお客様が減ったらどうするつもりだっんだマジで!」
本当こいつシバきたい。
「まあ、特に苦情とかなかったから大丈夫だと思いますが」
おい、なら俺と目を合わせろ目線が横にいっているぞ。
そう二人で話していると、見張りの騎士に
「すみませんが、ここでは話すのをやめていただいてもよろしいですか」
と言われた。
俺とエルナ少尉はその騎士に謝った後、俺は自分の店に帰る事にした。
「それではまた、あんまり面倒なことが起きない事を祈っているからな」
「もちろん、でも何か起きた時はもしかしたら頼りに行くので、その時はよろしくお願いします」
エルナ少尉は、俺にもう一度敬礼してきた。
なので、俺は今度こそ家に帰る為に歩みを進めた。
そして、国軍支部から家に帰る途中に、昼ごはんを食べてない事を思い出し、たまに行く食堂を目指す事にする。
今日は何食べようかと悩みながら歩いていると、ボロボロで今にも倒れそうな少女とすれ違った後、俺の方に振り向いて倒れてきた。
俺はそれを見て
「おい、大丈夫か!」
と言いボロボロの少女に駆け寄った。
そして倒れながらこちらを見てきた後、俺の腕を掴んで来て
「あの、すみません。食べられる物と飲み物を恵んでいただけないでしょうか。ここ数日、まともに食事していないのでお願いします」
と懇願してきた。
俺は周りを見て、肉挟みパンが五百パルで売っていたので、財布の中からお金を出し二つ買ってきて一個渡したあと、水も買ってきて置いておく。
そして近くのベンチに座り、肉挟みパンを両手に持ちバクバクがっついている少女を見ながら、俺も自分の肉挟みパンを食べながら何者だこいつと思う。
そして、少女は自分の肉挟みパンを軽く完食して、さらにお代わりを三回ほど繰り返した。
俺は、安くてガッツリ食える大衆食堂の方が良かったかもしれないと思いながら、少女の正体を聞く事にした。
「そんでお前は何者なんだ」
「ボクの名前はエルティアナ。みんなからはエルと呼ばれているよ」
そう言いながら水を飲んでいる。
見た目は黒髪のポニーテイルで、顔がかなり整っていて美少女と言えるだろう。その少女がボロボロの格好をして腰には高そうな剣をぶら下げている。
なんかちぐはぐだなと思ったので質問してみると
「なんで腹を空かしてボロボロで街を歩いていたんだ?」
その問いにエルが答える。
「よくぞ聞いてくれた、実はボクは色々な所を旅して修行しているんだけど、路銀がなくなってどうしようも無くなって倒れたそうになった時、君が視界に入ってきてご飯を奢ってもらおうと思ったんだよ」
「お前な、もし奢ってもらえなかったらどうしていたんだよ」
「その時は仕方がないから、裏路地にでも行って残飯を漁ろうと思っていたよ」
とストレートに言ってくる。
俺は、何だこいつと思った。
そして、この出会いが俺の運命を大きく狂わす事になろうとは、誰も気づかなかった。
誤字脱字報告ありがとうございます。