雑貨屋の一日
この話は赤オーガと戦う前の、ハルヤの雑貨屋のよくある一日だ。
俺は入り口の扉を開けて、開店中の札をかけた後、今日もお客様が来たらいいなと思う。
そして、商品の陳列をしていると、ご高齢のお婆ちゃんが来店される。
「おはよう、ハルヤ君。今日は石鹸とタオルを一セット買いに来たのじゃが大丈夫かの?」
「大丈夫ですよエストさん。それよりも少し高い所にあるので、自分が取りましょうか?」
「それは助かるわ。それじゃあ、お願いね」
俺は、石鹸〔一個五十パル〕とタオル〔一つ百五十パル〕を一セットを棚から取って渡す。
「ありがとう。それじゃあセットのお金の二百パルね」
そう言って、エストさんは財布から百パル銅貨を二枚取り出したので、俺は会計をする。
「はい、ちょうどです、ありがとうございます」
「ハルヤ君はキッチリ働いていいのう。私の孫の婿になってはくれんか?」
「いやいや、自分は雑貨屋の経営でいっぱいなので、流石に無理ですよ」
「それは残念じゃな。ワシがハルヤ君の歳で結婚していなかったら、絶対狙ったのう」
エストさんは、ウチの爺さんが元気だった頃からの常連さんなので、大体いつもこの話をしている。
まぁ、俺は結婚とかは、まだ考えていないけどな。
そう思いながら、エストさんを見送って少しすると今度は二人の女性が来店される。
一人目はエフリさんでご結婚をされている方で、旦那さんは商業ギルドで働いているので、仕入れに行く時に顔を合わせることがある。
もう一人はエフリさんの娘さんで、パトリちゃんで今年十二歳になったと言っていたなと思い出す。
「いらっしゃいませ、今日は何を探しておられますか?」
「ハルヤお兄ちゃんです!」
なる程、俺か……。って俺!?
「えっと、自分はここにいますが?」
「そうじゃなくて、ハルヤお兄ちゃんが欲しいです!」
何故そうなった?
俺は頭を働かせて考えていると
「こらこら、ハルヤ君は売り物では無いわよ」
エフリさんがそう話すが
「えぇ〜! ハルヤお兄ちゃんが欲しいよ。それで、お婿さんになって貰って、私がお嫁さん」
流石に歳が離れていると思っていたら
「確かに、将来的には良さそうね。ハルヤ君は回復魔法も使えるから、腰とか痛くなってもすぐに治してくれそうね」
なんか、話がどんどんマズイ方向に行っているような気がするので
「あの、自分以外に何かお買い求めの商品はあるのですか?」
「そうよ。実は、火の魔石を切らしてね。何個か買って行ってもいいかしら?」(火の魔石とは、魔道コンロの燃料になる火属性の魔石の事です)
「火の魔石ですね。とりあえず、一個八百パルになりますね」
「それなら、三個貰ってもいいかしら?」
「大丈夫ですよ。なので、すぐに準備しますね」
俺は魔石ボックスから、火の魔石を三個取り出して、専用の袋や入れて渡す。
「ありがとうね」
パトリさんは二千四百パルを支払って、外に出ようとするが
「ヤダヤタ、ハルヤお兄ちゃんと一緒に居たい。私はお嫁さんになるのー」
と言って駄々をこねていたので
「パトリ、そんな事をしているとレイナちゃんかソルちゃんに、ハルヤ君を取られてしまうわよ」
いや、確かにたまに面倒な事になっているが、取られる事は無いと思うぞ。
まぁ、女性には色々あるのかと思っていると
「それはヤダ。ハルヤお兄ちゃんはイケメンだから近くに女性が多い!」
「確かにそうね、ハルヤ君はかなりモテるから人気なのよ」
俺はそんなに人気では無いと思うが……。
それに、大型雑貨屋の問題児の方がかなり凄いぞ。
まぁ、それは置いておいて
「なら、私が頑張ればハルヤお兄ちゃんは貰えるの?」
「それは、パトリ次第かな」
エフリさんがそう言ってパトリちゃんを励ましている。
「なら、私が頑張れば良いんだね!」
「そうね。なら、今日も一日頑張ろうね。ハルヤ君、ありがとうね」
「ハルヤお兄ちゃん、私がんばるから!」
「何かよくわからないですが、頑張ってくださいね」
俺はとりあえず、そう返すしか方法がなかった。
そして、それからお客様が何人か来て、昼ごはんの時間になったので、休憩中の札をかける。
「さて、今日は大羽食堂に行くか」
俺は馴染みの食堂に向かう。
それから二十分後、大羽食堂に到着したので中に入ると、見慣れた店員がこちらに近づいて来る。
「ハルヤ君、今日は一人なのね。たまにはレイナかソルと来てあげたら?」
「リム、アイツらとここに来ると、大量に食べられてその支払いを俺に払わせる事が多いから、一人で来るのが良いんだよ」
俺は幼馴染のレイナとソルを思い出してそう話す。
「確かに、ハルヤ君や冒険者ギルドのギルド長が奢らされている所を何回も見ているから大変だねと思うわね」
「アイツらは俺にどれだけ〈借り〉を作れば気が済むんだ……」
正直、頭を抱えたくなっていると
「それは置いておいて、カウンターが空いたから案内するわね」
リムにカウンター席を案内して貰って、いつも頼んでいるハンバーグセット〔八百パル〕を頼む。
そして、お冷を飲みながら待っていると、ハンバーグセットが来たので食べてみると
「やはり、肉がしっかりしていて美味しいな。それにご飯と一緒に食べるのがいい」
俺は、ハンバーグセットを夢中になって食べる。
それから少しして、食べ終わったのでお金を払って外に出る。
「さて、午後からも頑張りますか!」
俺は雑貨屋に帰って、札を開店中に変えてゆっくりしているが、中々お客様が来ない。
「やはり、副業の回復魔法使いの方をたまにやろうかな? 流石な生活が厳しくなりそうだ」
このままだと、生活費がギリギリだな。
そう考えていると
「ハルヤ、いるか? 少し手伝ってくれ」
この声は
「オスト、また何かあったのか?」
オストは俺と同い年で、たまに遊んでいた仲だ。
今でもたまに会うことがあるが
「すまないな、ハルヤ。今回も爺さんがギックリ腰になってな。回復魔法をかけてくれるか?」
「あのな、それなら治療所に行ってこれば良く無いか?」
「それは、治療所は値段がかなり高いからあんまり行く事が出来ないんだよ。それに比べてハルヤの回復魔法は値段はそこそこするが、効果はバッチリだから良いんだよ」
まぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいが
「それなら、レイナとソルに俺の代わりに飯を奢ってやってくれ。流石に今月はキツイからな」
「ハルヤ、お前はオレを破産させる気か!」
確かに、そうなるよな。
俺は、前にオストの奢りで四人で食べに行った時に、会計が凄い事になったのは今でも覚えているからな。
まぁ、それはさておき。
「とりあえず、リアンさんの腰の治療で良いんだよな?」
「そうだ。すまないが、一回店を閉めて来てくれないか?」
「了解した」
俺は、扉を閉めて外出中の札を掛けて、オストの家に向かう。
そして、家の近くなので、オストのお爺さんのリアンさんに会うと
「すまんのうハルヤ君。とりあえず、頼んでいいかの?」
「はい、大丈夫ですよ」
俺は回復魔法第三階を発動して、リアンさんの腰を治す。
「おぉー! やはりハルヤ君の回復魔法は効くのう」
そう言って、立ち上がって動いている。
「ハルヤ、お前の回復魔法はいつ見ても凄いな」
「まぁ、それは置いておいて、俺は帰るな」
俺は代金を貰って店に帰った後、お客様が結構来たので対応していたら、閉店の時間になったので、今日は店を閉める事にする。
そして、今日の夜ご飯をどうしようか考えていると、呼び鈴が鳴る。
俺は、やっぱりかと思いながら扉を開けると、予想通りの二人がいた。
「ハルヤ、夜ご飯食べに行きましょう」
「今日は大物を倒したから私達の奢りだ!」
「お前らが俺に奢るのは珍しいな。まぁ、たまには高いものを食べさせて貰おうか!」
俺はそう言って、幼馴染と一緒に夜ご飯を食べに行く。




