副ギルド長の謝罪
俺達は、流石に書類だらけの副ギルド長の部屋で話す事は出来ず、他の客室に移動する事になる。
そして、席に座り案内してくれたギルド職員が、お茶を入れてくれた後、話し合いが始まる。
「まずは、我がギルド長が多大なご迷惑をおかしました。ドアの修理代と、誘拐の慰謝料、冒険者の治療代は我がギルドが負担します。本当に申し訳ございません」
クルフトさんは、俺の方に深々頭を下げてきた。
「とりあえず、頭を上げてください。誘拐に関してはたまに幼馴染に無理矢理連れて行かれる事があって、衛兵にはお世話になった事が何回もあるのでそこまで気にしてないですよ。ただ慰謝料+治療代はもらいますよ。あと、ドアもたまに壊されていますし頑丈なドアを買っていただければいいですよ」
「ありがとうございます。あの脳筋ゴリマッチョ(ギルド長)には謹慎してもらう事になるのはギルドでも決定しているので大丈夫ですよ」
クルフトさんが、頭を上げてそう言って来たので俺は、やはりと思った。
「でも、今回ゴブリン大量発生の問題があるけど、ギルド長を謹慎させても大丈夫なの?」
エルがそうクルフトさんに聞く。
「それは、今回のゴブリン大量発生の件が終わってから謹慎させるので、そこは気にしなくて大丈夫ですよ。後、ソーラント辺境伯様に、この事を伝えて援軍がこちらに派遣されるように連絡をする事になると聞いています」
俺は、その事を聞いて頭を抱えたくなる。
いや、大丈夫だ。
アイツは今、王都の学園にいるはずだ。
もし、援軍でソーラント辺境伯領から騎士達が来ても大丈夫だろうと思う。
そんな俺の状況を見て、左横に座っているソルがこちらを見てくる。
「大丈夫よ。もしあの方が来ても、わたし達がハルヤを守るから。あと、叔父さんには反省してもらわないと困るわ」
「本当に頼むぞ。アイツが来ると、さらにややこしくなるからな。前に俺がソーラント辺境伯領に行った時にどれだけ振り回されたか」
暴力とかは全くなかったけど、色々連れまわされて、しんどかった思い出が沢山あるので、そう言ってしまう。
「えっと、ハルヤ君にまだそんな相手がいるんだね」
とエルが不思議そうに聞いてくる。
「まだ話は聞いてくれる分はいいけど、行動力があるからしんどいんだ」
俺は、右横に座っているエルにそう言う。
「なる程。まあ、何かあった時はボクも力になるから安心してくれるかい?」
「それは助かる。その時は頼らせてもらうぞ」
俺は、その言葉を聞いて何とか復活する。
「すまないが、話を戻しても大丈夫かい?」
クルフトさんが遠慮がちに聞いてきたので『大丈夫ですよ』と答えておく。
「わかった。それでは今回の慰謝料ですが、八百万パルで大丈夫ですか? もちろん、ドアのお金と冒険者の治療費は別に払います」
思っていたより、高いなと思った。
「なる程、その値段で大丈夫ですよ。というより少し高くないですか?」
俺が、そう言うとクルフトさんが
「今回は、あの脳筋ゴリマッチョ(ギルド長)が強引に攫って、しかもいきなり回復魔法をかけろという、半分脅しのような事までしているので妥当な額です」
確かに、いつも幼馴染達に振り回されてきたから、その辺がズレているかもしれないな。
「ハルヤさんからしたら、衛兵に突き出したいかもしれませんが、あの脳筋ゴリマッチョ(ギルド長)は部下からは信頼されているので面倒なんです。ちなみに、ぼくはあまり信頼してないです」
クルフトさんがぶっちゃけた。
そして、この後にドアの事とか治療費の事とかを話し、そこそこの時間が過ぎて話し合いが終わった。
話し合いが終わりロビーに行くと、レイナはまだ女性冒険者と話していたので、どうしようか悩んでいるとメルさんの鑑定が終わったらしく、こちらに近づいてきた。
「こんにちは、ハルヤくん、ソル、エルさん。レイナはあの通り女性冒険者と話しているからまだかかりそうね。そういえば副ギルド長はどうだったかしら。凄い苦労人見たいな感じだったでしょ。私がこのギルドに来た時からそうだったわ」
確かに、ソルの叔父さんの脳筋ギルド長が書類整理ができるとは思えないからな。
そのツケが副ギルド長に回っているんだな。
「それは、ともかくボク達は用事が済んだからそろそろ帰ろうよ。そろそろ夕暮れ時だから夜ご飯何処か食べに行こうよ」
「そうね。あと、あのバカ(レイナ)は今日は家に入れないようにしないといけないわ」
「その辺は置いといて、確かにかなりの時間話していたから疲れたな。昼ご飯の時みたいにあんなにお金を払いたくないから、今日は他の食べ放題店に行くぞ」
俺は昼の事を思い出しちゃんとお金が入っているかサイフの中を確認した。(もちろん、そこそこの額が入っていたので大丈夫です)
「少しいいかしら。私も、もう少ししたら今日は上がれるから一緒に食べに行ってもいいかしら。ちなみに今回は私が奢るから大丈夫よ」
「大丈夫ですか? ソルもエルもかなりの量を食べますよ」
そう伝えると『大丈夫よ』と言われたので万が一の時に考えて俺も払えるようにしておく。
少しして、メルさんが仕事が終わりギルド職員の服から私服に着替えて四人で何処か食べに行こうとした時、レイナの方も話が終わったみたいなのでこちらに来た。
「悪いな、私はさっきの女冒険者と楽しく会話していて。実はギルド長が朝からいなくてどうしようと思っていた時に、暇だった依頼表見ていたらたまたま声をかけられてそのまま話し込んでしまった」
俺は、コイツ全く反省していないなと思ってしまう。
そう考えていると、エルとソルが少し本気でレイナを睨みつけた。
そして、先にソルが口を開いた。
「貴女、今日の朝あれだけ自信満々に出て行ったのに何しているのかしら。確かに冒険者の交流は大切なのはわかるわ。でも、やる事をやらずただ喋っているのはどうだと思うのはわたしだけかしら?」
次にエルが
「そうだよ。ボク達が働いている時にレイナは話しているだけって不公平だと思うのだけど」
「待て待て、今回は大切な話もしていたからな」
とレイナが反論してくる。
「なる程、なら空いてるイスに座ってその話を聞いてもいいわよね」
ソルが、空いている席を見つけてそう言う。
そして、俺達は席に座りレイナの言い分を聞くことになった。
「実は、さっきの女性冒険者達はBランクの腕利きで私が知らない事を色々聞いていたんだ」(冒険者のランクはGからSSSランクの十段階あって、ランクが高いほど基本強い。でも、稀にランク詐欺の人がいるため完全にとは言い切れない)
「なる程、わたしとレイナはDランクだから先輩の話は大切ね。それなら仕方ないわね」
とソルが頷く。
「ボクもそれなら大丈夫だと思う。でも何を話していたんだい?」
エルも納得しつつ、何を話していたか聞いている。
「それは、今回のゴブリン大量発生はゴブリンキングが現れた可能性が高いと聞いていたんだ。後は、他にも色々聞いていたがこれが一番かな」
レイナのその言葉にソルとメルさんが、イスから立ち上がって驚く。
ちなみに俺とエルは、なんだそいつはと思いながら頭を傾けた。
とりあえず、わからないから聞いてみた。
「ゴブリンキングってなんだ。一応名前からしてそいつがゴブリンの王というのがわかるけどそれがどうかしたんだ」
その問いにメルさんが答えた。
「ゴブリンキングは、ゴブリンの王と同時に司令官の役割を持った魔物なのよ。危険度でいうと個の強さはAランクに相当するわ。でも厄介なのはそこじゃないのよ。キングがいると周りのゴブリンを使って、物量戦術や指示を出せるから強さが一段階は上がるからかなり厄介なのよ」
「なる程、でも逆にキングを倒したら総崩れになると思うしボク達が有利になるの?」
「普通はそうなるのだけど、大体キングの下にはゴブリンジェネラルが数体いるからその可能性は低いわね」
結構面倒な魔物だなと思った。
それからも、ゴブリンの話し合いが続いた。