アイリス視点1
奴隷商で暗い生活をしていた元伯爵令嬢のアタシ、アイリス・キャクタスに転機が訪れたのはあの灰髪の優男に出会ったからである。
そして、主人となった青年、ハルヤの世間知らずにアタシ達奴隷は驚きの連続だった。
「なんだあのご主人様は、奴隷のオレ達に宿屋の部屋と温かい食事を用意してくれたぞ!」
「本当なら物置で硬いパンを食べていますよね」
「はい、私も先輩奴隷にそう聞きましたよ」
周り奴隷達は主人・ハルヤの奴隷扱いに話し合っていたが、アタシの関心は別にあった。
「……奴隷の扱い方はまだ置いておくとして、お前らはあの回復魔法をどう思った?」
アタシは自分の片目を完全に回復させた回復魔法の話を他の奴らに振る。
「あの問題児のアイリスが口を開いたと思ったら回復魔法の話か」
「アタシが話をしたらいけないのか?」
「いや、お前にも余裕が出来たんだなと思っただけだ」
ハルヤに買われた奴隷の青年、ウェルが笑っていた。
「まぁ、話を戻して……オレ達の待遇は百歩譲ってお人好しで話がつくが、あの回復魔法はおかしすぎる」
「そんなのは見て分かりますよ。それにあのレベルの回復魔法が何発も使えるのが普通はありえないですよ」
「だよな!」
アタシは魔族のガキの言葉に頷き、言葉が荒くなった。
「あの世間知らずで、高度な回復魔法が連発出来るアイツが国に囲われてない事が不思議に見える」
「はい、正直何処かの王族と言われても違和感がないですね」
「しかも無自覚に近いとなると厄介だな」
何処かの世間知らずなのは確定しているが、アタシが知っている貴族とは違うタイプだ。(ここに本人がいたら雑貨屋の店員だと答えるので逆に混乱する事にもなる)
その事を知らないハルヤはある意味幸せである。
(アイツは自分の力をしっかり理解していないからタチが悪いな)
アイリスはその事で考えていると魔族のガキ、コーンがある事を口にした。
「あの回復魔法を使える魔力量があるから、最上位バンパイアをお嫁さんにしているのですね」
「コーンもあの……って今なんて言った?」
コーンの言葉にウェルとリズナの目が点になった。
「え……気づかなかったのですか? ご主人様の奥様は最上位バンパイアですよ」
「いやいや!? コーンさん、貴方は何処でそれが分かったのですか?」
「逆に言いますが、バンパイアなのに晴天の中で笑っている事がおかしくないですか?」
「……確かにそうだな」
アタシ達はハルヤの血を飲もうとした奥様の事を見たからバンパイアなのはほぼ確定だ。
「その時点で上位のバンパイアになるのですね。ただ、その時点では最上位とは言えませんよね」
「まぁ、そうなりますよね。ただ、ここはぼくの直感になりますが、奥様は真相の血を引いた最上位バンパイアなのはほぼ確定です」
「だから! その根拠を説明しろ!!」
「は、はい!」
アタシは苛立って大きな声で言ってしまったのでコーンはビビっていた。
「そ、その根拠ですが奥様の髪の毛が紫色でしたよね」
「紫……まさか」
「えぇ、ぼくが知っている限り紫色の髪の毛をしているのはバンパイアの王族だけです」
「知りたくもない情報が増えたな」
この時点でハルヤと奥様と信こんでいるルーミアに対してアタシ達は頭を抱えていた。
「もしかして、とんでもない人達にアタシ達は買われたんじゃないか?」
この時点で幼女のフラウを完全に無視していたアタシ達は、更に唖然とする情報が増えるのであった。