ドアの破壊と誘拐
俺とソルが店の中でゆっくり寝ていると、店の入り口の扉が破壊された音がこちらに聞こえて来たので、焦って飛び起きた。
そして、ドタドタしながらこっちに近づいてくる音がするので、ソルは近くに置いておいた剣を持って俺の前に立つ。(そしてまた破壊されたと思った)
俺は、ソルの援護が出来るように魔法をスタンバイした。
「何者か知らないけど、いつのまにか直されていた扉を破壊する奴がいるとは……。今度は、頑丈な鋼鉄のドアを買おうかな。」
そしてリビングのドアを開けられたので、俺とソルは相手を見ると、お尻をさすりながら来たレイナだった。
俺はホッとしたと同時に、ソルがレイナに近づき思いっきり腹パンをして吹っ飛ばす。
「ゴフッ、いきなり何をするんだソル!」
そう言い、フラフラになりながらなんとか立ったレイナに、ソルは思いっきり睨みつけた後、ある事を発言する。
「今レイナはお尻の痛みで冒険者ギルドから動けないはずだけど、なんでこんな早くにある程度復活出来ているのかしら? それに、何で入り口のドアを破壊したのかを聞いても良いかしら」
確かにそうだな。
こいつらのお仕置きは、数日は動けないほどの痛みがあると本人から聞いている。
それなら今いるレイナは偽物か?
ソルが剣を構え直しレイナを見ていると、もう二人の見知った人物が入ってきた。
「レイナ、君は何しているんだい? ボク達はハルヤ君の店を襲撃して来たのではないんだからね!?」
と言いながらエルが入ってきた。
「そうよ、今回は緊急事態だから見逃すけど、普通なら器物破損で留置所行きよ」
もう一人の女性メルさんがそう話す。
(後、何でそれをメルさんが決めるんだ?)
うん。この状況は嫌な予感がする。
俺はそう思い裏口から逃げようとするが、エルとメルさんに両肩を掴まれる。
「どこに行こうとしているのかしらハルヤくん。さっきも言った通り、緊急事態だから冒険者ギルドに来て貰ってもいいかしら?」
「お断りします。俺はただの雑貨屋店員ですので関係ないです」
「そんな冗談言っている場合ではないんだよ。本当に大変な事が起きたから君の力が必要なんだよ」
エルが真剣にそう言ってくる。
だが、俺はそんな事は知るかと思い、全力で断ろうとする。
「また、面倒ごとをですか? いい加減にしてください。最近は、まともに雑貨屋店員の仕事が出来ていなくて大変なんですよ!?」
(お金の方は、副業の回復魔法を使ってまだ何とかなっている)
俺はキレながらそう言いソルが頷いているが、残りの三人は御構い無しに連れて行こうとする。
「話は冒険者ギルドでするから、いいから来てくれ」
と言われたがこれを聞いて、こいつらは人の話全くきかないなと思ってしまう。
そして俺達が言い合っていると、今度はゴリマッチョなギルド長のソルの叔父さん、ドンガスさんが店の中に入ってきて
「まだ言い合っていたのか、今は言い合っている時間はないぞ。こうなったら強引に連れて行くぞ」
と俺を無理矢理担いで連れて行かれた。
この時、俺はいつもの事を思った。なんでコイツらは人の話を聞かないんだと……。
そして、俺は無理矢理ギルド長に担がれて冒険者ギルドに着くと、冒険者の人だかりが出来ていて、その中心にはボロボロの女冒険者が何かをギルド職員に話している。
ギルド長は、俺を下ろしその女冒険者に声をかけた。
「とりあえず、お前さんその傷をこいつに治して貰え。前に赤オーガの時に顔を合わせた事のある、凄腕の回復魔法使いだぞ」
「あのギルド長、俺は凄腕の回復魔法使いではなくて普通の雑貨屋店なのですが」
俺はそう突っ込むが、この人もやはり人の話を聞かない。
そんな話をしていると、女冒険者がこちらに振り向いてきて、俺に跪き何かを懇願してきた。
「お願いします。今治療室にいる仲間の怪我を治してください。他の回復魔法使いの方では傷を塞ぐのが精一杯でどうにもならないのです」
俺は、なんでいつもこうなると思いながら
「あの、確かに自分は回復魔法使えますが、どうなるかわかりませんよ」
と言うと、何回も泣きながら助けてと発言してくる。
その状況をみて他の人を見ると何故か頷いて来て、何とかしてくれという顔をしてくる。
俺は少し考えて
「仕方ないですね。とりあえず前レイナがいた場所に行けばいいのですね」
そうギルド長に聞くと頷かれた。
「とりあえず先に女冒険者さんの傷を治しますね」
俺は回復魔法第三階の(サード・ヒール)をかける。
すると傷が一瞬で治り、周りの人は驚いているが、その女冒険者さんはいきなり立ち上がって俺の腕を掴んだ。
「あの、お礼なら後でしますので、付いてきてください」
また、無理矢理連れて行かれてしまう。
でも、今回は仕方ないと割り切り、行動することにした。
そして、治療室に入ると包帯がぐるぐる巻きの三人がいた。
内訳は男性が二人、女性が一人でベットの上で寝ている。
全員、さっきの女冒険者よりも怪我が酷くて、今にもお亡くなりになりそうになっていた。
早速、回復魔法の第六階の(シックス・ヒール)を一人ずつかけていく。
すると三人の傷はみるみる治り、見える限り傷は全部治る。
流石に、この魔法は少し疲れるのでイスを持って来て座ると、女冒険者が涙を流してうずくまっているではないか。
俺が固まっていると、メルさんが入ってきて女冒険者を抱きしめる。
この状況を邪魔しないように外に出ようとしたら、二人が俺の方を見てくる。
「ありがとうございます。このご恩は一生かけて返しますので」
そう言ってきたので
「請求はドアの分も合わせて冒険者ギルドに請求するから安心してくれ。あと、メルさんは覚悟しておいてくださいね」
俺はメルさんを睨み、今度こそ外に出る。
少しして、外に出るとギルド長達が近づいてきたので俺は、この時は何とかキレるのを我慢することにする。
「おう、回復は上手くいったようだな。流石は凄腕の回復魔法使いのハルヤ君だな」
ギルド長に、俺は雑貨屋の店員だけどなと突っ込みたかったけど、どうせ人の話を聞かないから無駄だと思いやめる。
その他の奴もうるさいので俺はさっさと帰ろうと思ったが、大事な話を忘れている事を思い出す。
「ギルド長と他の数人今から衛兵の所に出頭してもらってもいいですか?」
俺がそう言うと固まるギルド長と他数名。
「えっと、何故だ」
と聞かれたので
「まずドアの破壊(器物破損)これはまだ新しい奴を買って弁償してくれたらいいですが、誘拐(俺を無理矢理担いでギルドに連れてきた事)に関しては完璧な犯罪なので然るべき場所で罪を償ってもらいます」
「待て待て、お前の言っている事は正論だが、こちらも仕方がなかったんだ理解してくれ」
流石に俺はその一言でブチギレた。
「あのですね、まず俺はただの雑貨屋店員なんですよ。確かに魔力量などはあるかもしれないですが、たかがそれだけですよ。なのに貴方達は俺を便利屋のように回復魔法を使い続けさせてぶっちゃけ大変なんですよ。後、治療院もからも最近、怪我をした客が減って儲けが少なくなったという苦情まで来たんですよ」
俺は思っていた事を早口にして言う。
そしたらドンガスさんは、頭を下げてきて謝罪してくる。
「その件に関しては済まないと思っている。だがギルドも怪我に苦しんでいる奴らを見逃せなかったからついやってしまった」
「それなら治療院に行って回復魔法をギルドの金でかけて貰えばいいじゃないですか? なんでしなかったのですか?」
「それは、ハルヤ君に任せた方が確実で安上がりしたからそうさせてもらった」
ついに本音を言ってきやがったなオイ。
俺は、どうやって追い込んでやろうかと考えていると、入り口の方から見知った騎士達が入ってきた。
「なんだ、この人だかりは何が起きたんだい?」
そう言ってきたのは、兜を外し中性的な顔立ちで男か女かわからない騎士のエルナ少尉だ。
俺は何故このタイミングでこの人が来るんだと思い、頭を抱える。