プロトズ子爵の依頼
結論だけ申し上げると、トマナさんは人の話を聞いてくれなかった。
あの後、リビングに案内して、イスに座ってもらって話し合いを始めた。
だが、何が何でも俺を商業ギルドに連れて行こうとしたので、流石にキレると
「お怒りは分かりますが、こちらも緊急なのです」
の一点張りなので
「だから、『断る』と何回も言っていますよね。いい加減、自分を面倒事に巻き込まないでください」
この言い合いが続いて、向こうは全く引き下がらないので
「ハルヤ君、とりあえず追い出す?」
「そうだな、トマナさん。これ以上迷惑をかけて来るなら衛兵を呼びますよ」
とりあえず、そう話すと
「うぐっ、わかりました。わたしもパニックになっていましたね、少し落ち着きます」
トマナさんは深呼吸をして落ち着く。
「すみませんでした。とりあえず、何があったか簡単に話しますね」
「いえ、話さなくていいので、帰ってください」
嫌な事は嫌なので帰って欲しい。
ストレートにそう話すと
「申し訳ありませんが、先程も言った通り、ハルヤ様に助けて欲しいのです」
「あの、自分は休んだらいけないのですか?」
なんか、凄く悲しくなって来る。
「それは、なんとも言えないです」
トマナさんからも哀れまれている気がするが、一旦置いておいて
「ハルヤ様に手伝っていただきたい事は、ポーションの作成です」
いや、何を言っているんだ?
「あの、ポーションなら、その辺の錬金術師に作って貰えばいいのでは? 急いで自分の所に来る意味が分からないのですが……」
「確かに、ハルヤが作るポーションは高性能だけど、そこまで急いで来る事なのかしら?」
そこに引っかかるが、続きを聞く。
「今回、ハルヤ様のポーションを欲しがっているのは、貴族なのです。名前は、プロトズ子爵です」
「プロトズ子爵? 聞いた事が無い名前ですね」
何の関わりも無い貴族だよな、と思っていると、
「正直、ハルヤがそのプロトズ子爵に何の関係があるんだ?」
「それは、前のギルド長達が転売していたハルヤ様のポーションを、まとめ買いしていた貴族です」
……。おい、それはそっちが悪く無いか!
俺はそう突っ込みたかったが、何とか我慢する。
「でも、商業ギルドにポーションを売っていただけで、契約は結ばれていないから、俺は全く関係なく無いか?」
流石に理不尽だろ、そう話すと
「確かにそうなのですが、相手の子爵様はハルヤ様のポーションのおかげで、兵士達の熟練度や冒険者達にも好評だったので、また大量買いしたいと、注文が入ったそうです」
「それって、大量注文では無いですよね」
かなり嫌な予感がしたので、そう聞いてみると
「全部で三万本を発注されました」
……はっ!?
「三万本ですか!?」
俺はイスから立ち上がり、思わず驚いてしまう。
「そうです、三万本ですよ。流石に作成者一人では無理だと伝えたら、人手を雇って、大量生産すればいいだろと言われました」
……もう何も言えない。
俺はイスに座り直して、口を開く。
「正直言いますよ、三万本も作る事はほぼ不可能ですよ。なのに、何故こうなるのですか!」
雑貨屋では無くて、錬金術師として大きな仕事が来ても困るんだよ。
そう思っていると
「ハルヤ様が無理なのは分かっています。ですが、少しでも多くのポーションを作成してもらえないですか? 他は別の錬金術師にも手伝っていただくので何とかお願いします」
トマナさんはイスから立って、思いっきり頭を下げて来たので
「ハァ、なんとかわかりましたが、聞きたい事があります。まず、ポーションの等級は何級ですか、三万本を作成出来るだけの素材はあるのですか?」
「ハルヤ、大丈夫なのか!?」
「レイナ、正直言うがほぼ無理だ。でも、等級指定が無かったら可能性はゼロでは無いから、量的には何とかいけそうだな」
「俺様は、ダンナが過労で倒れないか心配だせ」
ルージュがそう言って、後ろから抱きついて来た。
「ちょっ!? ルージュだけずるいわ」
ソルが膝上、レイナとエルが左右から抱きついて来るので
「お前ら、トマナさんがいる前で抱きつくな!」
とりあえず、みんなに離れて貰って話の続きを聞く。
「ハルヤ様はかなり愛されてますね」
「その事は一旦置いておいて、自分の質問に答えていただけますか?」
「はい、大丈夫です。等級の方は特に指定はされてないです。ハルヤ様が作成したポーションが欲しいと言われただけですので。素材の方は商業ギルドが総力をかけて集めますので大丈夫です」
「それなら何とかなりそうですね。あと、カワドリー商会が買い占めをしていたと、昨日聞いたのですが大丈夫ですか」
そこが一番心配なんだよな。
総力を上げても、素材が無かったら意味が無いからな。
そう思っていると
「それは大丈夫ですよ。素材なら他の街から取り寄せれば何とかなります」
「それは良かった。でも、難しいですよ」
おっと、この話は長引きそうだな。