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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第二部 人脈つなぎし箱庭実験 1章「青春コネクション」
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#51 資源


 なんのかんの"魔術機械"の小修繕と再調整が終了し、作業を再開する前に試運転をする。

 その動作をリーティア、ゼノ、ティータはそれぞれで注視していた。

 俺は3人の邪魔にならないよう、少し離れた位置で見守る。


「おいーっす、ベイリル」

「こんにちは」

「ハルミアさん……と、オックス」


 ともすると、見知った顔──魔術講義があれば突き合わせることになる男が、ハルミアと連れ立ってこちらへ来ていた。


「なぜお前がハルミアさんと一緒にいる?」

「勘繰るなって。オマエんとこに行くって聞いたから、ついでに"自治会"のことを聞いてたんだよ」



 魔術部魔術科の同輩であり、友人でもあるオックス。

 後に海の民を統べる海帝とやら目指すだけあって、自然体のまま()き付けられるような何かを感じる。


「なにゆえ自治会……?」

「人の上に立つことも慣れとこうかなと思ってな、今すぐってわけじゃあないが」

「オックス、今すぐ新たな自治会長になれ。そしてフリーマギエンスの活動を全面的に認めろ」


「ベイリルくん……それは職権濫用です。それに任期がありますから、卒業でもしない限りすぐに選挙とはなりません」

「それは残念。不測(・・)があっても、副会長が代理を務めるだろうし」

「オイオイなんだよ、ベイリルは今の自治会長は気に入らないのか?」


「……まっ、ちょっとした因縁があるくらいだ」


 ある意味で幼馴染であり、しかして友人とも言えないスィリクスは……なんとも言えない距離感と言えた。



「ふ~ん──ところで面白そうなことやってんねえ」


 リーティア達のほうを覗き込み、好奇心を(あらわ)にするオックスに、俺はニィ……と笑う。


「あいにくとフリーマギエンスに属してない者には教えられんな、秘密を知りたくば入部しろ」

「自治会長になれっつったり、入部しろっつったり忙しいなオイ。オレの体は一つしかないぞ」

「ハルミアさんみたく両立すればいい」


「……私も最近は自治会の仕事がおろそかになりがちで、遠からず会長から苦言を(てい)されるかも知れないんですけどねぇ」

「そん時は俺に言ってください。直談判しにいきます」

「あははっ、それじゃぁ擁護くらいはしてもらうかも?」

「おまかせあれ」


 自治会の協力が得られれば、各所の使用許可や搬出入なども融通が()くようになるので、いずれは交渉の余地がある。



「──さしあたって自治会は後にして、フリーマギエンスの体験だけでいいから見識を広めるのはどうだ?」

「利は受け入れ、供すれど、迎合はせず。オレが主導する側であって、従とはならないつもりだったんだがまあ……せっかく学苑に来たんだし、何事も挑戦か」

「そんな気負うほどのもんじゃぁないがな」


「私たちは()の繋がりよりも()──円を(えが)くような繋がりって感じですからねぇ」


 ハルミアからの援護射撃もあって、オックスはうんうんと(うなず)く。


「なるほど、ハルミア先輩ともお近付きになれるしこの際は……」

「ハルミアさんはやらんぞ」

「なぬっ──狙ってるのは知ってるが、まさかもう既にお手付き!?」


「私は物じゃありませんよー、まったくベイリルくんは最近押しが強くなって困ります」


 ふわっと浮いてしまうような満更でもない微笑に、俺は心臓をハンマーで打たれたような気分になる。

 するとオックスにぐいっと首を取られ、小声で話し掛けられる。



「フラウちゃんといい(うらや)ましいな、ベイリルよ」 

「お前だって故郷に帰れば許嫁(いいなずけ)がいるんだろ、しかも三人も(・・・)


「まあそうだが……でも半分は家族みたいなもんだからなあ、実感ねえわ」

「時間が経てば──また違う目で見られるようにもなるさ」


 そう俺は実体験(・・・)を踏まえた上で、知った風な口で()く。

 時間とは良かれ悪しかれ、時は色々なものを風化させるものだと。


「経験者は語るってやつか?」

「……否定はせん」

「んなっマジかよテメエ!」

「そうだな、せっかくだから留年したらどうだ。百年くらい経てば見方も変わるさ」


「おれが学苑七不思議の"闇黒校章"になれってか。少なくともベイリル、オマエほどは(・・・・・)生きらんねえよ」


 男同士のフランクなやり取りを、ハルミアはどこか羨ましそうな目で見つめていた。

 しばらくして落ち着いた後に、オックスは話を戻す。



「んで、フリーマギエンスには入るから教えてくれよ。あれは何してんの?」

「地盤を掘ってるんだよ」

「なにっまさか七不思議の中でも実用性ありそうな、開かずの学苑地下迷宮(ダンジョン)を探してるのか!?」

「お前も大概、(ゴシップ)好きだよなぁ……でもハズレ。地下資源の為だよ」


 単純に地面を掘り続けるだけの、極々単純な"科学魔術具"。


「鉱山とかならわかるが、地下になんかあんのか?」

「色々あるんだよ。詳しくはフリーマギエンスで」


 具体的な組成を語るには"原子理論"が必要なので、オックスを相手には割愛する。


 冶金(やきん)技術もまだ洗練されていないし、機構も即席で出力も足りていない。

 しかし少しずつ成功と失敗、思考と工夫を繰り返していくのもまたテクノロジーの発展である。


「──ってか、カメじゃね?」

「ふっ、甘いぞ。この学苑を乗せた巨大陸亀(ブゲンザンコウ)はな、各地を移動しているから資源が豊富なんだよ」


 どこかに停泊している間に植生がごちゃ混ぜになり、ジオラマ湖も巨大水門を用いて攪拌したりと、生態系まで混沌としている。

 なぜだか海藻なども繁茂しているので、それらを焼いた灰などもガラスや石鹸その他を作るのに有効活用させてもらっている。



「へあ~、ほんっと色々と考えてんだな」

「まぁ掘削しすぎると、生体内部に到達しかねないからほどほどだ」

「苦痛でもし暴れられたら……学苑ごと潰れて、軽く死ねるぜ」

「あぁだから浅い部分に留める、掘り抜いた部分を固定する方法もないしな」


(ただいずれ深度が伸びれば、温泉や原油なんかも掘り当てたり……夢が広がる)


 "内燃機関"は他にも前提条件が必要なのでさらに先になるだろうが、石油資源やレアメタルなども早期に確保することは可能になる。

 そうした広い地勢調査の為にも──強力な地属魔術士によらない──普遍的な道具(ツール)が不可欠になるのだ。



(あとは地熱エネルギーなんかも使えれば──)


 高次テクノロジーとなってしまうが、あくまでそれは世界に対してであって……リーティア、ゼノ、ティータにのみ限るのであれば、恩恵のほうが大きい。

 実際的な地熱の利用の為には、魔力による介入作用も()るだろうが……。


(結局科学一つとっても、現在の文明レベルでは魔術に頼るのが適解なんだよな)


 金属加工やガラス製造の為の火力だとか、窒素固定の為の高圧など──特定の条件を得るのに設備を整えるよりも魔術を使うのが手っ取り早い。

 しかしそれこそが醍醐味でもある。本来通るべき過程(プロセス)を魔術によってすっ飛ばす。


 簡略化し、効率化し、安定化に漕ぎ着ける──それでこそ"魔導科学"の骨子とするものだ。

 魔術だけではできないこと、科学だけではできないこと、両輪(あわ)せて高みへと昇る。


 原子や素粒子──あるいはそれ以上に直接的に働きかけることで、前人未到の領域へと踏み込む。

 手段は選ぶものの、使えるものはなんだって使う。あれこれ気を揉んでは、間に合わなくなるかも知れないのだから。



「資源、ねえ──なあベイリル……もしかして海にも一般に知られてないモンが眠ってたりする?」

「もちろん。希少金属も眠ってるはずだし、"メタンハイドレート"とかもあるんじゃねぇかな」

「めた……はあ?」

「ん~~~っと、"燃える氷"みたいなもんだ」

「まるで意味がわからん。けど知識を得ることで、知られざるモノも利用できるってのはわかった」


「あぁ、大事なのはそういうとこだ。なんにせよ発展を考えるなら、何事も早いほうがいい」

「おうとも。もっとも"海帝"になったら、内海の民(いちぞく)を最優先させてもらうがな」


 "内海"の民が住むという海上都市は、文字通り海上に浮かぶ都市であるらしい。

 海面に浮かんでいるので海流によって場所を変え、都市丸ごとで漁業を(おこな)い貿易をする。

 海賊にも内陸国家にも(おび)える必要のない完成された都市であり、魔術がある異世界ではそんなシロモノも極々当たり前の常識として認知されている。


 魔術具か、あるいは魔導具なのか、はたまた魔法具であるのか。

 超大規模な儀式系魔術とか、"浮遊石"のような異世界物質を利用していたりするのか。

 それが一体どういう原理なのかは、一般には全くの不明である。



「【諸島】か、一度くらいは巡ってみたいもんだ」


 内海に浮かぶ諸島群。旅行がてら観光人生を楽しみながら、世界を(じか)に見て情報収集すること。

 そうやって文明の発展を促す為の土台作りが完成するまで待つのもまた、やりたいことの一つだ。


「暇があったら案内してやるよ」

「ほほぅ……海上都市の()も案内してくれるのか? 部外者は入れないって聞いたが」

「だから内海の民から妻を(めと)って一族になればいい」

「"誓約"しないとダメとか、ケチな民だなあ」

「うるせー、色々と制限(しがらみ)があるんだよ」


 排他的というほどでもないのだろうが、完結された社会を(たも)とうという維持機構(システム)なのか。

 技術や文化の流出を防ぐという意味において、鎖国的な政策は全てが悪いわけではない。



「まあもしオレが"海帝"になったら国賓(こくひん)として招待してやってもいい」

「ただの友人としてなら行ってやってもいい」

「言ってくれんなあ」


 お互いにフッと口角を上げて笑い合い、ゴツンと拳をぶつけ合う。


 こうやって輪は拡がっていく──人が人を呼び、信用が信用を築いていく。

 学苑生活を通じて繋がった糸は、きっと後々に役立ってくれる。


 フリーマギエンスと影響を受けた者達が──いずれ世界を回していくよう願って。



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