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#506 先行する時代


 それはテクノロジーであったり、文化・芸術分野であったり、あるいは思想面においてだったり。

 相手の水準を遥かに上回る──時代の先を行く知識や技術というものは、既存文明を陳腐化させてしまう。


「──バルゥ総督、搭載準備が整いました」

「あぁ……では()くか」


 石斧や石槍が生まれたばかりの頃、投擲よりも遠い間合いから弓をとって一方的に射殺す。

 青銅器に対して、大人げなく鉄器を持ち出して容赦なく破壊してしまう。

 槍を銃に、投石器を大砲へと変えて、城砦の壁をたやすく突破する。

 戦列へは機関銃を叩き込み、敵の陣地は戦車による電撃戦で制圧せしめる。

 弩級戦艦相手に、潜水艦や航空戦力で大艦巨砲主義の終わりを告げさせる。

 レシプロ機を相手に、ジェット戦闘機の速度差と兵装で圧倒。

 レーダー、電子制御、ミサイル、あるいは認識圏外からの超高々度ステルス爆撃機で思い知らせて戦意喪失へと追い込む。



「砲兵部隊は手はず通りに、弾着観測と周辺警戒は(おこた)るな。もしも相手方に降伏の意志が見えれば、速やかに信号弾で知らせてくれ」


 陸軍総督にして軍団の長が自ら出撃する。

 しかしそれを(いさ)めるものはいない。なぜならばそれが最も効率良く、同時に安全な戦い方だったからである。


 戦端を開いてから──道中の領主や権力者には無血開城、あるいは交渉や威圧によって屈服させてきた。

 実際的な戦闘行為は、わずかに2度だけ。

 そのどちらもサイジックが保有するテクノロジーの象徴がごとく。バルゥが、先陣(さきがけ)となって片を付けてきた。



「他の者はゆるり(・・・)と続け」


 そう言うとバルゥは"獣身変化"によって白き虎へと姿を変えると──すぐに周囲の者達が、その巨大な体躯へと兵装を積んでいく。

 一式が取り付け終えたところで──流星がごとく──白虎は力強(ちからづよ)く大地を蹴った。


 背中には一体化砲弾装薬が自動装填される88mmの砲塔が1門と、静音と冷却機能を備えたガトリング型の機関銃が左右に2基。

 余剰スペースには装甲を兼ねた弾薬箱(ボックス)がいくつも連結していて、浮遊極鉄(アダマント)による軽量化が施されてなお総重量は2トンを軽く超える。


 しかしバルゥは重量物を背負っていると感じさせないほどの速度とバランスを保ち、四ツ足を止めずに掃射する。

 体高にして3メートル近く、全長は8メートル以上もある巨体が、重武装で戦場を駆ける。

 それはさながら重戦車がF1のような最高速で走り回るようで、異世界の超人に魔導と科学が融合した姿に他ならない。


 時に空中すらも蹴って軌道を(えが)く、縦横無尽の白虎(ティーガー)を止められる者は存在しない。

 流星が瞬くたびに東部総督府を構成する防備がただただ蹂躙され、瓦解し溶けていく。



『──地上砲部隊、斉射七連』


 バルゥの88mm砲が咆哮した直後に、ポーラは"魔線通信"で砲兵長へ伝達。展開していた大砲から7発の砲弾が一斉に飛んだ。


「補給用意、急げ」


 新たに積みあがっていく弾薬箱を横目に──副官ポーラは"白き流星の剣虎"もとい砲虎とも言うべき勇姿を、まぶたの裏に焼き付けるかのようにその瞳に映した。

 

『弾着確認し修正、次弾装填して待機せよ。飛空島(スカイラグーン)部隊、爆撃の用意は──よし、そのまま警戒を続けて』


 一変した生活と経験。詰め込んだ知識や技術。そして出会いの数々は、短期間でポーラを一回りも二回りも強くした。

 大族長バリスの何十人といる子の一人として生まれたが、血がさほど濃くなかったのか兄弟姉妹の中でもパッとしない実力。


 インメル領会戦を経て、シップスクラーク財団と共同歩調を取ることとなった騎獣民族。

 これまで通り外を回って情報を集めるか、あるいは新たにサイジック領に残るかを迫られ──後者を選んでバルゥの直属として仕事をこなしてきた。


 先進文明の知識と技術と文化に()れて感動し、自身を高みへと進化させ、得られたものを存分に発揮する喜びを知れた。

 自分だけの価値を見出すことができた。



「おつかれさまです、バルゥ総督。再出撃の為の補充準備は整って──」

「いや、どうやら二度目はいらないようだな」


 自陣へと戻ってきてバルゥは人の形態へと戻りながら、遠く総督府が掲げる"降伏の旗印"を見てそう言った。


「……完全な非戦無血開城とはいきませんでしたが、往生際の良い指揮官だったようでなによりです」

「東部総督の身柄と、総督補佐の遺体を待っても良かったが──事態がどう動くかわからないからな。早くに動いて越したことはない」


 巧遅よりも拙速。早期決着して次に備えておくほうが、この際は重要であると判断した。

 バルゥは空っぽになった砲と銃と箱を地面に軽々と置いたところで、グググッと伸びをする。


「バルゥ総督、外套(ローブ)を」

「ん? あぁすまんな」


 真っ裸に1枚だけ羽織ったバルゥは髪をかきあげつつ、戦局の推移と展望を頭の中で構築していく。

 カエジウス特区を突っ切るという電撃作戦。さらに部隊を分けながら要所となる土地や、有力な権力者を取り込んできた。

 バリスが率いる騎獣兵団と竜騎士団の位置。ソディアら私掠船団に運搬された、自由騎士団が到着するまでの時間も計算に入れる。



「……制圧部隊の用意は?」

「すぐにでも」

「よし。騙撃(きょうげき)の可能性に重々留意した上で、総督府を我々の支配下に置く」

「了解です」


 敵方を拘束し封じ込めた上で、充分な休息をとっておく。

 西方からやってくるという協力者──帝位継承者モーリッツ・レーヴェタールに速やかに引き渡せられれば、それだけ次の行動に移りやすくなる。


「より広く喧伝し、植え付けなければならないからな。時代の先駆者たる財団の……テクノロジーと文化を」



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