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#503 激突


 灰装甲艦の上で、雷光が真横に疾駆(はし)り──


「絶・雷牙ぁぁァァァアアアアアッッ!!」


 直角に軌道を変えて、天を突く"昇雷"が起こった。


 単純出力で最大限にまで高められた黄雷を、直接接触で相手に叩き込むだけの明快な一撃。

 キャシーの右手に集約された雷撃が、フリーダの胴体を浮かす形で貫いていた。


「ッはぁ……終わりだ」


 雷鳴の後に黒焦げになった体をキャシーは甲板へと乱雑に放り捨て、両耳を塞いでいたソディアは恐る恐る口を開く。

 


「し、死んだ……し?」

「生きてるよ、しぶてぇババアだ──ったく耐えるだけじゃなく、喰らいながら再生までしてやがった。つってもアタシがさらに上回ってやったけどな」


 赤髪の割合が戻ったキャシーは、ピクピクと震える右腕と両脚をそれぞれ見つめる。

 終わってみれば一瞬の交差ではあったが、両者間には刹那の駆け引きと攻防があった。


「アタシの雷速に対応しようとしやがったから、ちっとばっか無理な動きぃし過ぎたわ……」

「別にキャシー自身は、実際の雷の速さじゃないっしょぉ~?」

「いーや、同じ速さだね」


 フラウの言葉をキャシーは真っ向から否定する。

 思い込みこそが魔術をより強固にする原動力であり、少なくともキャシーは己を強く信じていた。



「ん……まぁそれはどうでもいいし」

「どうでもよくねーよ!! ソディアはそういう機微っつーかなんつーか理解し──」

「と・に・か・く、ひとまず置いとくし。フリーダ総督の魔導を考えれば、このまま回復されたら厄介」

「あん? 闘り合った結果として死んだならともかく、アタシは勝敗が決したのにわざわざトドメを刺すつもりはないぞ」


 立っているのがきつくなったキャシーは、その場に尻餅をつくようにふんぞり返って座る。

 

「わかってるし……それはうちがやる。ただ殺すのもやむなしだけど、たぶん生かしておくほうが今後とも有利になりやすい部分も多くて──」


 生きているからこそ利用価値があり、リスクの低減に繋がる。

 生死不明だったり、討ち取ったことを喧伝すればそれは相手方の士気を不用意に高めることになりかねない。

 しかし人質として交渉の材料とするのにも、フリーダ個人の実力を(かんが)みた時に危険でもある。



「まぁ色々と無理してきたけど、それでもあーしらの快復のほうが早いと思うよ~多分」

「だな。何度でもぶっ飛ばしてやんよ」

「う~ん……」


 ソディアは取り巻くあらゆる情報を頭の中で回す。


「まーたソディアの心配性がはじまった」

「うんうん、ディアっちのそういう性格のおかげであーしらも迷宮じゃ助かったからーーー」


 フラウはサイズの違うサイズの輪を重ねて構築された卵をバラッと割ったかと思うと、その中にフリーダをしまいこんで密封してしまった。



「どうどう、とりあえずの牢屋ってことで。少しは安心する~? いざとなったら、このまま片割れ星にでも飛ばしちゃうからさ」

「片割れ星って──無茶苦茶言ってるし」


「あっははは~~~、そうかもね」

「どうだかな」


 呆れ顔を見せるソディアに、フラウとキャシーは揃って笑みを浮かべるのだった。

 




「ヴァッハ!! 今のは少し危なかったか」

「チッ、ケダモノどもが──」


 東部総督府の直轄地の南方を、ほんの数日で荒らして回った騎獣民族と竜騎士の連合軍。

 戦線を押し戻す為に転戦しているアレクシス・レーヴェンタールは、首領にまで迫るも決め手に欠けて長引いていた。


「噂には聞いてたけど、アレクシス殿下ってほんとに強いんだねぇ。オイラたち二人と二頭(・・・・・)掛かりなのに」


 人獣一体。巨獣に乗って半獣変化しながら地を駆けるバリス。

 人竜一体。火竜の背で縦横無尽に空を飛ぶプラシオス。

 

 共に相棒を持つ者同士、即席ながらも陸・空の連係は目を見張るものがあった。



「強いことは強いし、(すじ)も悪くはない。が……まだまだ荒削りよ、闘争の何たるかがわかっていない」

「……わかりたくもない」

 

 二丁戦斧を大熊の膂力(パワー)でもって、機動性を維持しながらも振るい続ける白兵戦の専門家(スペシャリスト)である騎獣民族大族長。

 身の丈の2倍ほどの長さの剣槍を回転させ、炎の吐息(ブレス)を挟みながら曲芸紛いの超立体軌道を展開する竜騎士団長。


 それら2(つい)の猛攻を──無尽蔵に近い魔力力場を(まと)いながら──傷らしい傷もなく戦い続けるアレクシス。


蒙昧(もうまい)な蛮族と、恥を知らぬ裏切り者どもが」


 略奪も(いと)わず闘争を至上とするかのような、人の皮を被った野卑な獣。

 帝国の庇護下にありながら、情勢の変化に乗じて自らの利益を貪らんとする誇りを失った竜。


 アレクシスにとってはそのどちらも許しがたいものであった。



「ヴァッハハハハハ!! はたして本当に無知にして無恥はどちらかな」

「愚弄する気か」

「事実を述べているだけだ。聞く耳すら持てぬなら、きさまの言う蛮族……いや、そこらのケダモノにすら劣る知能だな」


 舌戦においても揺るぎないバリスの態度に、アレクシスは苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。


「仮にも帝国の王族にムチャクチャ言ってらあ」

「技術を知らぬ、文化を知らぬ、世界を知らぬ──星の果てにも想いが及ばないのでは、誰しも獣と変わらん」

「アイタタタタ、それってオイラぁも含まれてるか。でもこれからそういうのも知れるんだろう? 楽しみってもんだ」


 アレクシスとの間合いを一度離したバリスは、さらに追い詰めるように言葉を紡ぐ。



「本物の恥とは知ろうとしないことだ。これでも騎獣民族はな……世界を放浪しながらあらゆる文化や価値観を受け入れ、知識や技術──時に情報を売り買いしてきた。己らの信条を至上に置きながらな」


 それこそが生きる(すべ)

 単純な強度のみならず、大器と運用あってこそ騎獣民族はその形態を維持してきた。


「黙れ……」

「環境に適応できず、時流を乗りこなせない者は、滅びるが定めだ。ヴァッハッハッハッハハァッ!!」

「その口を閉じろと言っているのだ、ケダモノが──!!」


 両雄は再び激突し、アレクシスがわずかばかりにバリスに手傷を負わせたところで相対距離が開いていく。



「なっ!? 逃げる気かッ!!」

「あいにくとおれたちは時間を稼ぎながら、おまえを追い立てる猟犬に過ぎぬわっ!!」


 バリスは最後にそう一言、大声で残し──竜騎士団長プラシオス共々、全速力でもって姿が見えなくなっていった。


「一体どういう……」



 言葉途中でアレクシスの眼前へと、天空より1人の少女が荒野に舞い降りる。

 地上に激突するスレスレで瞬きほどの速さで抜刀し、落下の速度と衝撃を静かに殺し切っていた。


「こんにちは──あっ……おはようございます、ですかね」


 明るい青髪の少女は、まだ昇ってさほども経っていない朝の()を背にする形で深々と一礼するのであった。

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