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#500 私掠船団


 ──ワーム海上・南西部方面──


 サイジック領において、陸軍と海軍はそれぞれが二枚看板の主力。

 さらに飛空島(スカイ・ラグーン)を含めた陸海空の軍事力あって、サイジックは一地方領でありながら多大な軍事力を備えている。


「な~んかアレだな? すっげー(サマ)変わりしてんのな。同じなのって旗の色くらいじゃね」

「収納式マストを伸ばせば、帆船としての機能も使える。ただ基本は新鋭艦としての実戦運用、"戦争の為にお披露目してもイイ"とのことで持ってきた」


 灰色を旗艦として、真紅・淡黄・深緑・群青・薄紫・純白・漆黒の海賊旗を掲げた8隻の"装甲艦"。

 ソディアの祖父母の代から続く──七色竜にあやかった伝統色であり、受け継がれてきた船員達が乗る生え抜きの船団である。



「風もないのに進んでるし、なんかすっげー頑丈そうだもんなぁ」

「はっきし言って、うちの中にある知識や常識がぜんぶ陳腐化したし」


 かつてワームによって山脈ごと喰われてできた大穴に、大量の水が流れ込んで形成された巨大湖──ワーム海"。

 ただの海賊から帝国に認められた私掠船船長となり、さらにはサイジック領の海軍まで率いるまでになったソディア・ナトゥール。


 祖母の魔導によって知識と記憶の一部を受け継いだ少女の面影の残るソディアは、一仕事を終えて合流したキャシーに説明をする。


「蒸気機関とプロペラってのがほんとすごい。風がなくても速度が出せるし」

「へーーー」

「わかってない返事! 魔術を使わずに推進力を確保しつつ頑丈にもできて、積載量も増えて大砲も増やせわけだし」

「つまり速くて(つえ)ぇーってことだな?」



「間違ってはないけど……もういいし」

「あはっは、そういうのは聞いてくれる相手に言えって。プラタとかさ」

「──ほんっと、迷宮に潜った時はプラタがいてくれて良かったし」


 ワーム迷宮でせっかくギミックを解いたりしても、それを熱心に聞いて理解してくれたのはプラタだけであった。


「まっ頼りにはしてっからさ。迷宮でもそうだったけど、海こそが"嵐の踊り子(おまえ)"の本領だろ」

「うん、言われなくても」


 ワーム海に限定されるものの、既に大規模な嵐の魔術を使っている。

 風向きを方向まで計算された暴嵐は、帝国北西から徐々に肥大化して王国海軍も含めてその進路を阻むルートを取っていた。



「白兵戦や砲撃ならアタシがやってやっからよ」

艦隊(うちら)の機動力と砲戦能力があれば、追いつかれないまま一方的に沈めるだけ。白兵戦になんてならないし」

「つっまんねえの」

「それだけテクノロジーで数歩先んじてるってこと」


 空戦は兵器だけでなく個人の練度と技能も重要であり、陸戦は兵器と人員と戦略がバランスよく必要、そして海戦は兵器の性能差が如実に表れる。


「あと──この灰八番艦だけ、実は潜航(・・)できたり」


 唯一潜水艦としての機能を持つ旗艦は、ソディアたっての希望を叶えてもらったものだった。


「おぉーーーまじか、(もぐ)ろうぜ」

「必要に迫られたならともかく、試験運用中で魔力も消費するからダメ。そんな状況になるまえに趨勢(しょうぶ)を決めちゃうし」

「っんだよ、なら期待させるようなこと言うなって」

「ちょっとくらい自慢したいじゃん。帰り途で余裕があったら楽しめばいいし」

「ソレだ、とっとと終わらせよう」


 キャシーはパチンと指を鳴らすと、同時にバチッと電撃が空間を走った。



「そういやさ、浮島を沈める(・・・・・・)計画もあんだっけ?」

海中基導(メガフロートフォ)要塞(ートレス)"アトランティス"──でも課題がいっぱい残ってるからまだまだ先だし。人手もすっごい()る」

「つまり戦争で出た難民を、全員サイジックで引き受ければいいってことだな?」

「キャシーは野蛮人すぎ」

「はッ! それを海賊が言うかよ」


 スパッと切れ味のよいキャシーの突っ込み(カウンター)に、無自覚に己を棚上げしたソディアの言葉が詰まったところで、甲板から足音が近付いてくる。



「いやはや何やら面白い話をしてますなぁ。浮島を沈めるとは、ぜひとも長生きして拝見したいものですな」

「おじいちゃん、盗み聞きだし」


 老齢の男──元帝国軍人にして、自由騎士団序列3位。"強壮剣(ごうそうけん)"フランツ・ベルクマン"は肩をすくめながら笑う。


「はははっ、この老体の耳にも聞こえる声の大きさで話していらしたでしょう。良い土産話になります」

「……ま、ね。噂を広めてくれるのはありがたい。大々的な宣伝も今後は重要らしいし」


 ベルクマンはかつてインメル領会戦の折にも傭兵として参加していた実績と(えにし)があり、エルメル・アルトマーを通じて雇用されていた。

 すぐに動かせた最大人数として500人近い自由騎士が、各艦に分散して乗っている。

 大陸有数の陸上戦力がいれば、たとえ肉薄されて船上白兵戦に持ち込まれたとて、まずもって負けることはないであろう。


「なぁジィさん、揺れは大丈夫なのか?」

「ワシは帝国海軍にも属していた時期もありましたからなぁ。それにこの新式船とやらは揺れも少なく安定していて、ワシ以外の者も随分と楽なようです」

「一番最初の頃はすっごいガタガタだったし。でも技術者たちが精一杯がんばってくれたおかげ」


 在野から集め厚遇される多くの人材は、サイジック領とシップスクラーク財団を支える基礎(どだい)

 そして最先端の知識と技術を、惜しみなく耽溺(たんでき)するという、研究開発者にとって甘美な果実である。



「うい~~~、とりあえず本調子には遠いけど魔力はだいぶ戻ったかなぁ」


 すると空から落ちてきた銀髪紫瞳の半人半吸血種(ダンピール)が、甲板上に着地する。


「おうフラウ、おかえり」

「ただいま~"TEK装備"のほうも問題なく使えそうだったーーー。それと敵船はぼちぼち展開し始めた感じだったよ」


「ありがと、助かるし。海の上である程度は叩いて()いでおかなくちゃだから、相手が遅すぎても困るとこだった」


 ついでの高高度偵察を終えたフラウは、その場で寝っ転がって──インメル領会戦での祝賀会で知った顔へと問う。



「おジィも()る気満々?」

「そうですなぁ、フラウどののように円卓の一人でも倒したいところですが……帝国といっても東部総督府に限定すると、いささか難しいですな」

「元帝国人なんだっけ~? 馴染みと戦うのは抵抗ナシー?」

「楽しみでなりません」

「あはは~筋金入りだぁ」


 柄頭に両手を掛け、水平線をギンッと睨むベルクマンをフラウは笑う。


「アタシもなんか名のあるヤツを倒して(ハク)をつけたいな」

「"トンデモもないの"を一人やったばっかじゃ~ん」

単独(ソロ)でだよ。アレは三人掛かりで主体(メイン)もフラウだったじゃんか」



「ほう……既に相当な一戦を交えてきたのですかな」

「うん。でもひ・み・つ~~~」

「どうせ聞いたところで信じられな──」


 キャシーの言葉が途中で止まり、黄色いメッシュ混じりの赤い髪の毛が、彼女自身から発せられる静電気によって立ち上がっていた。

 フラウとソディアはそれが意味するところを知っている為、すぐに臨戦態勢へと切り替える。


「総員、第一種警戒態勢──!」

『総員! 第一種警戒態勢ッッ!!』


 ソディアが発した命令を後方にいた年配の副船長が復唱し、すぐに灰旗艦から七色艦隊へ伝令が飛んだのだった。


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