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#495 光と影


 常に戦場(いくさば)と共にあった帝国の王の遺体──"戦帝"バルドゥル・レーヴェンタール──を、しゃがみ込んで見つめる。

 他ならぬモーガニト領と、伯爵の位を与えてくれた人物。


(インメル領会戦での功績があったとはいえ、俺の過去の経緯(いきさつ)を聞いて……本当にあっさり土地をよこしてくれたな)


 そのおかげでサイジック領との接続都市として、また対外的にも都合よく立ち回れた部分は大きい。

 少なくとも今、この世界軸においては恩しかない人物をこの手に掛けたのだった。


後顧(こうこ)(うれ)いは()った──)


 これで大きく未来は変わった。

 戦帝から端を発して、世界中で引き起こされる戦争と戦災。それに伴う文明の衰退を回避することが確定した。


(だが逆に以降は俺自身が知らない歴史を辿ることになるし、どのような不確定要素(イレギュラー)が発生するかも未知となる)


 ゆっくりと噛み締めつつ立ち上がった俺は、余波で積まれた瓦礫の一角へと視線を移す。



「感傷はおしまい。それで──何をやっている? ヴァルター(・・・・・)

「チッ……バレてんかよ、それとも当てずっぽうの勘か? "帝王殺し"」


 俺の言葉に応じるように、(かげ)からヴァルター・レーヴェンタールが姿を見せる。


「戦闘直後で感度は全開(マックス)だ、それに影に潜んでいようと俺には魔力が見える」

「魔力──だと? ほっほ~、んな芸当まで持ってんのか。またバカ正直に話しやがって」

「その程度で揺らぐ実力じゃない。一部始終を見ていたのなら理解(わか)るんじゃないか」



 ヴァルターは「ハハッ」と笑いながら、数拍ほど置いてから俺を見据えてくる。

 

「……そうだな。だが消耗してんなら難しいことじゃあない」

「その為にわざわざ来たのか」

「価値はあるだろ。ベイリル(てめェ)でも戦帝(クソやろう)でも、生き残ったほうは邪魔だ」


 肉体に刻まれたダメージ、連戦による精神的疲弊、残存魔力――いずれも万全には程遠い。

 爆発によって魔力が散ってしまっている為、黒スライムカプセルを利用して新たに補充しても心もとない。


「このままてめェの都合通りに進むってのも許せねえ」

「まっ試してみたらいいさ、本当に勝てると思うならな」

「はンっ……それじゃあ遠慮なく――」



「"光陰(やのごとし)"」


 ヴァルターが動き出すその瞬間、俺は"光の矢"を虚空から放って影へと撃ち込んでいた。


「ぬおぉォオ!? ベイリルてめェ不意打ちか!!」

「俺が先に声を掛けてなかったら、奇襲するつもりだったろうによく言う」

「うるせえ!!」

「"輝閃空(ドラクレーン)"」


 背中から無数に伸びたヴァルターの影が、多様な武器の形を取って襲い掛かってくる。

 それを俺は虚ろな残像の軌跡を残しながら、光速もかくやという速度でもって後ろへと回り込んでいた。



「ぐっはッ――」


 そこから"光の拳"による乱打。

 俺が腕を振るうたびに、虚空から発せられた光の砲弾がヴァルターの肉体を激しく叩く。

 回転をどんどんあげていき、防御を固めていたヴァルターは耐え切れずにぶっ飛ばされる。


「"光芒一天(こうぼういちてん)"――今の俺(・・・)とは相性が悪いよヴァルター、お前にとって一方的にな」


 白竜(イシュト)からもらった光輝の加護――白の秘術は通常の魔術や魔導よりも、魔力の消費対効果(コストパフォーマンス)が良い。

 今のところ使用する間は己の中にある加護に集中する必要がある為、魔術を使えないし通常の魔術群(レパートリー)と比して組み合わせや汎用・多様性に劣る部分がある。


 それでも光が持つ特性が刺さる相手であれば、無類の威力を発揮するくらいには既に馴染んでいた。


「クソがよ、随分と多芸じゃねえか……」

「特効ってやつだ。考える時間は死ぬほどあったが、試すことができなかったもんでな──丁度いいっちゃ丁度いい」

「チート野郎が」


 さらに言えばヴァルターの戦法についても既に経験済みなのだから、まさしくズルっこである。



「"影装"」


 新たに湧きあがった影がヴァルターを包み、形成され伸ばされた影の触腕を俺はステップしながら避ける。


光輪舞(オレオルロンド)"」


 地面を踏むたびに光熱の衝撃波が発生し――影触腕は掻き消え、影の鎧が剥がされていった。


「ッッがぁァア!! "影絵・竜"!!」


 ヴァルターは進退窮まった様子で咆哮し、同時に巨大な影が黄竜のシルエットを形作って声なき咆哮をあげる。


「諦めないド根性は買うがな……まぁ遠慮なく実験台にさせてもらうぞ、"揺光楼閣(ようこうろうかく)"」


 光って(うな)る手の平から発せられた、光熱で揺らめく拡散波動が影竜を白く満たし、爆散せしめたのだった。



「ここまで簡単にやってくれるとはよ……まったくもって殺したいほどムカツクぜ」

「俺を殺せる気配は、まったくないようだがな」


 ようやくヴァルターは力無(ちからな)く、うなだれた様子を見せる。


「とにかく有り余ったエネルギーをこんなところで使うなって、ヴァルター。まだまだやることが残ってるんだから」


 一方で俺も正直なところ限界がもう近い。これ以上抵抗してこようものなら無力化も視野に入れておく。


「……チッ、そうだな。考えなくちゃいけないこと、対処しなきゃならんことが多すぎる。とりあえずベイリル――てめェにその気(・・・)がないことはハッキリした」

「あぁ俺はお前を殺して、組織や王位を乗っ取ろうだとか考えちゃいない。さしあたって一定の信頼を得られたのなら、一戦しただけの対価としておこうか」

「偉っそうに、やっぱいけ好かねえ」



 毒づくヴァルターに、俺は今後のことを含めて(たず)ねる。


「戦帝の遺体はどうする?」

「コッチで引き取って利用させてもらう」

「わかった。それと三騎士の遺体も恐らくは残っていると思うが、シュルツ上級大将の遺体は無いのであしからず」

「別にいらねえ、三騎士もてきとーに埋めとくか好きにしろ」


 ヴァルターは興味なさげにシッシッと手を払うように振った。



「この継承戦(たたかい)が終わって……」

「ああ?」

「アンブラティ結社も潰したら、一杯どうだ?」

「……」

「同じ転生者同士、少しくらい語り合ってもいいだろうと思うんだが」


 ヴァルターは殺され、俺は100年の昏睡によってありえなかった未来(かこ)


「はっ! んなもんお断りだ。馴れ合いなんざいらねえ」

「……そっか、それは残念だ。いや――俺達はそれでいいのかもな」

「手前勝手に知った(ふう)な顔して気取ってんじゃねえよ」


 ペッと唾棄するヴァルターに、俺は風を(まと)って空中へと飛び上がる。

 光と影は表裏一体、境目(さかいめ)で交わることはあれど決して同化することはない。



「もはや性分なんでな、それじゃまたいずれ――ヴァルター」

「次ィ顔を合わす時は覚悟しとけ、ベイリル」


 道は分かたれ、歴史は進む──

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