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異世界シヴィライゼーション ~長命種だからデキる未来にきらめく文明改革~  作者: さきばめ
第二部 人脈つなぎし箱庭実験 1章「青春コネクション」
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#39 魔術科 I


 学苑を(よう)する魔獣ブゲンザンコウは、大きな自然湖の上に浮かび──俺達はさらに大亀の背中に形作られた湖付近に集まっていた。

 大亀は連邦領内の街道を進んでいく途中でいくつか停泊ポイントがあり、その際は近くの都市国家と密に交流をしていく。


(すい)(もぉん)ッッ!! 全開ぃぃいいいイイイイイ──!!」


 一個生命体の甲羅をダイナミックに装飾し、山と丘と平地と森と湖と学苑とが共存する巨大ジオラマじみた箱庭。

 そんな背の上に構築された"ジオラマ湖"と、本来の"自然湖"をこうして水門を通して繋ぐことで、水草や生態系を循環させるダイナミックな光景。


(スケールがデカ過ぎる……)


 ベイリル(おれ)は改めて、この移動する学苑の凄絶さに舌を巻く。

 水棲だけでなく動物や植生にしても、街道を巡ることで実に多種多様な彩りを見せているのだ。

 


「──かつて魔力を用い、望むままの法を定めたのが"魔法使(まほうし)"と呼ばれ、さらに導き形を成す"魔導師"が現れました」


 初日にしてフリーマギエンスを創部した俺は、フラウと共に魔術部魔術科へと足を運んだ。

 キャシーは戦技部兵術科、ナイアブは専門部芸術科へとそれぞれ既に戻っている。


「しかし本学科の基本として、みなさんがまず目指すべきは"魔術士"です。魔力を操る術を知り、魔導──そして魔法へと至る為の過程と見る志高き者もいるでしょう」


 どの学科を選ぶかは、多少なりと迷うところではあった。

 少なくとも戦技部兵術科のジェーン、冒険科のヘリオ。

 また遠く対岸に集まって同じように水門見学をしている専門部製造科のリーティアとは被らないように──と(なか)ば決めていた。


「しかしまずは魔術から何事も始まります。この水門も大型の魔術具によって動かされていて、魔術は様々な形で我々の生活に――」


 何かしら適性が活かせそうな専門部を探すのも悪くはなかっただろう。

 しかしやはり元世界(ちきゅう)にはなかった魔術への好奇心はことのほか大きい。


 俺の空属魔術も多くが我流も同然であり、体系化された基礎から学ぶのは有意義だと考えている。



「そういえばフラウは何の魔術を使うんだ?」

「ん~~~? さてさてなんでしょう」


 耳打ちするように発した俺の質問に対して、質問で返したのは再会を果たした幼馴染の少女フラウ。

 彼女の魔術は俺以上に我流。それも魔術科を選ぶ一つのキッカケであった。

 子供ながらに世界を生き抜く為に会得し、そして洗練されていったらしいフラウの魔術。


 改めて魔術を学び直すということも大事であろうと、俺からフラウを誘った。

 彼女は元々一般教養の単位しか取得しておらず、宙ぶらりんであった為に丁度良かったとも言える。


 転生してからずっと過ごしてきて、演技することや、前世からの人見知りも幾分慣れてきた……ものの、やはり知った顔がいるほうが居心地はいいものだ。



「──っえーということで、まずは皆さんの実力を見たいと思います」


ん……(おぉ~)?』


 教師の発言に俺達は揃って疑問符が浮かんだものの、すぐに察しうる。

 魔術の練度差はおろか、そもそも扱えないから学びに来ている者のほうが多いだろう。


 効率的な教育の為にまずふるい(・・・)に掛けるのは、至極当然の帰結と言えた。


「今現在、魔術が使えるという者は手を挙げてください」


 すると俺とフラウを含めて、集まった3割超くらいの人間がまばらに手を挙げる。

 魔術士は世界人口比だと1~2割といったくらいらしいのだが、若い時分でこれほどいる。

 やはりこの学苑は自由を尊重しつつも、元々備えている基本水準が高い傾向にあるようだった。


 最低限の義務教育のない異世界において、学ぶ意欲ありし者は向上心の塊なのだ。



 なによりも学苑は種族や国籍を問わない。それゆえに多様性に特化している。

 刺激にも事欠くことはなかろうし、学び取れることもたくさんあろう。


 フラウやキャシーのように、行き場を求めて辿り着いた者もいる。

 嫡子(ちゃくし)でない子供も多いと聞く。一夜限りの相手に産ませたような落とし子にも丁度いい場所。

 俺の学苑生活の目的の一つに人脈(コネ)作りがあるが、同じ考えを持つ奴もいるに違いない。

 

 最初から帝国、王国、皇国のいずれかに帰属したいと思っているのであれば、それぞれの最高学府のほうが良い。

 しかし未だ不明瞭で基盤もない状況では、学苑がやはり最も適した環境なのだった。

 


「なるほどなるほど、なかなかに豊作です。では湖のほうへと向かいましょう」


「これで(てい)よくフラウの魔術も見れるな」

「いや~……度肝抜かれるよ?」


「くっははは、そいつは楽しみだ」


 冗談なのか本気なのかわからないリアクションに俺は笑う。

 俺とて負けるつもりはないくらいには、積み上げてきた自信はあるのだった。





(まぁ実際は……こんなもんか)


 というのが素直な印象であった。確かにみんな魔術を使えてはいる。

 しかし大半は単なる発火魔術だったり、風を吹かしたり、あるいは光源を産み出すといった……ささやかな程度のものだった。


 一応は教師の一人が隆起させた3メートルくらいはありそうな、土塊が標的がわりに存在している。

 しかしあくまで命中させて精度などを見せているに過ぎず、破壊するほどの者はいない。

 同じように土を操って並べたり、もしくは湖の水を利用して動かしてみせたりといった程度のもの。



(先輩らはまだわからんが……さしあたって同季生には目ぼしい奴はいない、か)


 そも魔術の修練とは、通常10年単位を要することも珍しくない。

 無論才能がある者であれば、1季程度でも使いこなす者がいるとはいえ──


(俺もなかなかに苦労したしな、あの極限状態あってこそのものだ)


 幼少期からそこそこやっていてもついぞ使えないまま、村を焼かれ奴隷と成り果てた。

 無明たる闇黒の中で、魔術を発動するまでの過程をもはや覚えてないくらいの集中力あって、ようやくモノにできたに過ぎない。



(一度コツを掴んでしまえば、幅が広がっていったものの──)


 それまでは「本当に魔術なんて使えるのか?」なんて思っていたほどだ。

 上手くいったのは魔力の循環操作に長けているエルフの血を、半分でも受け継いでいたからこそでもあろう。


(実力ある魔術士がいれば、フリーマギエンスに誘おうと思っていたが……)


 そうそう都合よく集まってくれるというわけではないようだった。


(いや、逆に考えるんだ──)


 新季生が魔術をあまり使えないというのは、すなわち何も書かれていない白紙も同然。

 転じて元世界知識を利用した理論を、馴染ませやすいとも言えるのだ。



 俺が一人でそんな思考を回していると、左隣にいるフラウがちょんちょんと肩を叩いてくる。


「ベイリル、どうする? てっきと~にやる?」

「そうさなぁ──」


 フラウの言わんとしていることを、俺はすぐに察しえた。

 今はまだ不必要に目立つ学苑生活は、自治会の手前もあって控えておくに越したことはないと彼女に話したばかり。


 とはいえこうした好機(チャンス)を逃すというのも……また悩ましい。


 つまるところ落伍者(カボチャ)達を打ちのめした時と、やることはさほど変わらない。

 授業にかこつけて思うサマ実力を見せつけ、フリーマギエンスの教えを広めるという手もアリ寄りのアリだ。



「気兼ねは……いらんか」


 この際は開き直ってしまうとしよう。能ある鷹はなんとやらなどと、気取っていても仕方ない。

 せっかく異世界で(ちから)を持っているのならば、それを誇示しないで──ひけらかさないでなんとする。

 称賛を浴びてちやほやされるのも、それがたとえ虚栄であったとしても……。


(得られた充足感は、きっと気持ちいいだろうしな──)


 学苑という箱庭の中に限ってしまえば、名が売れてしまってもさしたる問題にはならない。

 それもまた実験になるだろうし、あるいは自治会へのアピールになるかも知れない。

 

「りょ~かーい、んじゃまベイリルを参考にするねぇ~」



(となると何の魔術を使うかだが……今の俺が使えるのは──)


 俺は空属魔術を基本として、さらにそこから"六柱"魔術として派生させ分類(カテゴライズ)している。

 とは言うものの、現在魔術として使えるのは四柱しかない。六柱とはあくまで今後使う予定にして妄想(・・・・・・・)だ。


 ──風流(ウィンド・)操作(コントロール)

 風の流れそのものを直接的に扱い、単純な物理的作用を発揮させる魔術。


 ──空気(エア・オルタ)改変(レイション)

 空気中に含まれる分子の状態に直接干渉し、様々な効果を及ぼす魔術。


 ──大気元素(アトモスフィア・)合成(シンセサイズ)

 大気を構成している元素を分解・結合し、別の物質を生成する魔術。


 ──音圧波動(サウンド・ウェイブ)

 空気を介して伝わる音の振幅を増減させ、指向性を持たせる魔術。

 

 四柱の内で何が最も適しているかを考える──


 "重合(ポリ)窒素(ニトロ)爆轟(ボム)"は威力過剰な上に、今の俺にとって唯一の切り札(ジョーカー)となる魔術である。



("切り札は先に見せるな、見せるならさらに奥の手を持て"──派手にやるにしても、貴重な手札を曝すまでには至らない)


 無難に素晴らしき"風擲斬(ウィンド・ブレード)"でいくことに決める。


 どうせ今いる者には初見である。奇をてらう必要はない。

 魔術と戦闘技能を組み合わせた"術技"でも悪くはないが、動かぬ的が相手ではいまいち映えない。

 かと言ってわざわざ対人を望み出るのも、イキり過ぎててなんとなく(はばか)られる。


(基本的な魔術であっても、魅せ方次第だ)


 土塊(つちくれ)と言っても、魔術で固められた一種の防壁のようなものだろう。

 純粋な岩よりは脆いだろうが、それでも地面と一体化してそびえ立つ物体である。


 どう破壊の演出をして見せようかと考えていると、いつしか順番が回ってくる。


 手招きされて指定の位置まで移動すると、教師は質問する。



「名前と、使う魔術と、用途を教えてください」

「ベイリルです。空属魔術で岩を攻撃します」


「よろしい、それでは好きなタイミングでどうぞ」


 教師に開始を促されたその瞬間──


 俺は教師の方を向いたまま、左手指を鳴らし速攻で魔術を放つのだった。



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