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#482 帝都脱出


 意識が曖昧なヴァナディスをひとまず説き伏せた俺は──今後の帝国の進退について話しながら彼女を連れ、尖塔の最上層へと向かう。


「帝国を、割る……」

「一時的な緊急避難措置とお考えください」


 戦略構想として、【帝国】を現在の【連邦】のように西と東で分割統治する。

 西側をヴァルターが(おさ)め、東側をモーリッツに任せる。

 防波堤であり隠れ蓑にした上で、王さらに東──【王国】との国境線に位置するサイジック領とその周辺を【サイジック法国】として独立させる。



「継承戦をより大きく、長期的にするような感じですかね。ただし必ずしも直接戦争で決着を見るわけではなく、互いに高め合って総合的な国力でもって決するのが望ましいでしょう」


 そこで最大の障害となりうるのが、自身が旗頭(はたがしら)となって戦乱を引き起こす"戦帝"バルドゥル・レーヴェンタール。

 そして帝国最強度を持つアレクシスと、老獪な東部総督フリーダ・ユーバシャールの存在である。


 サイジック領を国家として成立させる為にも、モーリッツの協力と、円滑な交流とモーガニト領を含めた導線が必要不可欠。

 しかし帝国西側とサイジック領との中間で、アレクシスが神輿(みこし)として(かつ)ぎ上げられれば……それらはご破算となってしまう。


「ゆくゆくはまた一つの国家として合体! するわけです」


 実際に国家が一つになる日が来た時、それは帝国とは(こと)なる――もっと巨大な枠組みでの統一(・・)となるだろう。

 すなわちサイジック法国とフリーマギエンスによる、"大陸制覇"である。



「それが大帝国……──モーガニト伯あなたは実のところ、モーリッツとヴァルター両殿下を支援する立場なのね」

「直接的に支援するのはモーリッツ殿下ですが、ヴァルター殿下もまぁ(えん)があるもので。彼なりのとても強い国家を作ってくれると信頼は置いています」


 同じ転生者同士の共感(シンパシー)だけでなく、客観的にも嘘偽(うそいつわ)りのないの評価である。


「南部はともかく、北方領土は黙ってはいないでしょう」

「想定はしています。北部総督府がレーヴェンタール一族の誰と結びついて(よう)(たてまつ)るかは動向次第ですが、三国に分かたれたとしてもそれはそれで良いといものです」


 西はヴァルターが抑え、中央も一気呵成(いっきかせい)をもって掌握するだろう。

 東はモーリッツとシップスクラーク財団でいただき、南部は総督も領地貴族も日和見(ひよりみ)主義の傾向があるのでどうとでもなる。


 問題があるとすれば血気盛んな北方貴族と、なにより北部総督──"帝国元帥"も兼任している"帝国の剣"は簡単に折れてはくれまい。



「はァ~……」


 俺は尖塔で見張りをしている兵士を"酸素濃度低下"で昏倒させてから俺は──己の中の魔力とは別に存在する"白色"を意識する。


「……その(ちから)、知っているわ」

「ヴァナディス殿(どの)が既知なのは()ですね」


 さすがは木属魔導師にして、魔力操作に秀でた熟年の純エルフ。

 肌感覚のようなものだけで俺の中に渦巻く"それ"を知覚しているようだった。


「"竜の加護"──あなたは認められし者なのね」

「はい、光輝なる白の恩寵です。ちなみに赤竜殿(どの)の協力も得ていますので、上空にいる竜騎士が御身(おんみ)をお運びします」

「フラッドが、あなたと……」


 ヴァナディスは瞳を閉じると、なにやら物思っている様子だった。



 その間に俺は手の中に作り出した光を、ピカッピカッと上空に向けて合図する。


「少し揺れますよ。光速制御秘術式──"輝擲散華(きてきさんげ)"」


 言ってから手の中の光球を増振・圧縮、指パッチンと共に庭園へと投げ込んだ(・・・・・)

 光の種子は地面に触れた瞬間、光と音が花開く。


 一瞬だけ夜が真昼になったかのような強烈な閃光と、大気から伝播し王城を揺るがすほどの超弩級の爆音。

 周囲の光を捻じ曲げ、音を遮断してなければ、視覚と聴覚がしばらく使い物にならなくなるほどの威力である。



(からの──)


 俺はその場で何度か足踏みしながら超音波を発し、"反響定位(エコーロケーション)"で状況把握に努める。

 夜中に突如として発生した正体不明のド派手なテロ行為に、王城は混迷の最中にあって一気に(あわ)ただしくなっていた。


(……モライヴとテレーゼ(いもうと)も問題なさそうだな)


 陣頭指揮を()る振りをしつつ、近衛騎士と連れ立って迅速に動き出している。


「それじゃ俺たちも行きま──」


 風と共に飛ぼうとした瞬間、視界内に見知った人物が現れる。



「ヴァナディス宰相、モーガニト伯、説明を願えるだろうか」

「"ノイエンドルフ"──閣下、何故ここを……」


 尖塔の最上層へと現れたのは、誰あろう帝国元帥の一人にして"帝国の盾"オラーフ・ノイエンドルフその人であった。


音の源(・・・)を辿った」

「……なるほど、さすが戦歴を重ねているだけはありますね」

「エルフでそのような高音ができる者を見たのははじめてだが」


 多様な種族がいる帝国で軍歴を重ねた人物であれば、反響定位(エコーロケーション)のような技を使う獣人を知り、その対処を心得ていてもなんら不思議ではない。



「伯爵、わたしの質問にも答えてもらえるだろうか」

「お答えします。継承戦は既に開始され、自分とヴァナディス殿(どの)も動き出した次第です」


「この騒乱もその一環、であると……さらには宰相が継承戦に介入すると?」

「今回は、そうするつもりよ」

「そうか──我々の誰であっても、肩入れすることを帝国法で禁止されているわけではない。しかし建国以来、中立を貫き通してきたと聞くあなたが動くとは……」

「いつでも必要なことをするだけ」

「了解しました。引き止めはしますまい」


 ゲイル・オーラムらとパーティを組んで黄竜を倒した"帝国の盾"。

 彼と闘争になるのもそれはそれで面白いとも思ったが……どうやらそうした事態は()けられそうで少しだけ残念にも思う。



「しかし……いまだ戦帝が玉座についている。すなわち王位の簒奪となりますが」

「玉座の交代劇も帝国法においては、禁止されていないですよね?」

「あぁ、付け加えるならば王陛下は喜ぶことだろう」


 この場にいる3人とも、そんな戦帝の姿が容易に想像できてしまう。


「緊急時なれば、王城内での魔術使用についても目をつぶっていただけると助かります」

「……モーガニト伯、宰相をくれぐれもよろしく頼む。誰が王となるにしても、必要な方だ」

「しかと承りました」



 俺はヴァナディスの体を(かか)えて、夜闇に飛ぶ竜騎士エルンストが待つ上空まで飛ぶ──途中グリフォン隊とかち合うものの、気付かれるより速く上昇する。

 竜の飛空圏はグリフォンを含むあらゆる飛行生物よりも高く、巡航速度・持久性能についても最優ゆえに、追っ手が掛けられたとしても問題ない。


手札(カード)を揃えるのに、あと一手)


 懐にある"白冠"を服の上からなぞりながら──俺は次なる目的地へと意識を向けるのだった。



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