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#479 竜の道


 ──赤竜山・火口洞穴──


『貴様、その"白い髪"――短期間で何があった』


 俺は周囲に白竜イシュトとの絆──小さな球状の光輝を、ふよふよと指先からホタルのように操作して遊ぶ。


「はっはっは、長期間(・・・)ですよ。竜である貴方にとっても、ね」

『どういう意味か』

「──レーヴェンタールの名付け親、赤竜殿(どの)だったんですね。古の王の意を持つ"エンタール"と、レーヴ地方」

『……貴様にそこまで話した覚えはないが、どうして知っている』


「信じられないかと思いますが、三百年と七千年の時を過ごしてきました」

『そうか、ならば得心もいく』

「まぁ冗談に聞こえるかと存じますが、決してふざけているわけでは──へっ?」


 俺は間の抜けた声をあげる。下手に嘘を吐いていると思われれば、炎熱吐息でも飛んでくるところだろうが……。

 そうなってない以上、赤竜は俺の言葉をあっさり信じてくれていたようだった。



『無意味に逆撫でするような愚か者ではあるまい。それに我がどれだけ人間(ヒト)の歴史を見続けてきたと思っている』

「なるほど……魔法の時代から生き、ヒトの成長を見守ってきたからこその見識というわけですか」


 それに加えて、"白竜の加護"を使えるようになっていることまで鑑みれば……少なくとも赤竜にとって驚くほどのことでもないということか。


「ちょっと語り甲斐(がい)がないですね」

『貴様の道楽に我を付き合わせるな。それで、何の用事あってここへやってきたのだ』


 頭を切り替えつつ、真剣な面持ちで俺は言葉を紡ぐ。


「赤竜殿(どの)および竜騎士の皆様方と、新たな契約関係を結びたいと考えています」

新たな(・・・)、だと? それはつまり既存(きそん)の関係を反故(ほご)にしろと聞こえるが──』

「その通りです」

『我が帝都に赴いた時、どのような話をしたか知っての発言か』

「ある程度は把握しています。ただこれから私達がやることによって、帝国の在り方そのものが変わりますので……」


 今のところ炎熱で気温が上がることはない。

 それは赤竜が気にも留めていないのか、あるいは抑制しているのかは定かではなかった。



「こたびの戦争に関して、既に正式に参陣しないことは承知しています。しかしここは新たな未来の為に、共に戦ってもらいたいのです」

『どこにも肩入れせず敵対しない、だけでは満足できないと』

「与えられるだけのものに、真の価値を見い出せますか? そこに本当の居場所があるとお考えでしょうか」

『その言葉……ベイリル貴様、なかなか言ってくれる』

「失礼。しかし言葉が過ぎたとは思っていません、赤竜殿(どの)ならご理解されていることと存じます」


 かつて偉大な4人の手によって帝国は建国された。

 それは他の誰でもない自分達で掴み取った栄光であることを、赤竜自身が忘れているはずもない。


「ヴァナディス殿(どの)もこちらで保護し、"長寿病"も治療するつもりです」

『我が(ふる)き知己を交渉材料とするか』

「そういうつもりで言ったわけではないのですが……単純に彼女の資質が得難(えがた)いので、同志として迎え入れたいと」


 巨大な帝国を支え続けた事務能力もさることながら、"闊歩する大森林"と呼ばれた歴史上でも稀有な"木属魔導"の使い手。

 テクノロジーの発展において、最高級に貴重な人材である。



『具体的に帝国をどうするつもりだ』

「"戦帝"の治世は終わらせます」

『我だけならばともかく、竜騎士が裏切り者として尊厳を踏みにじられるようなことがあってはならないが──そこを承知しているのか』

「大義名分に関してならば……ご安心ください。レーヴェンタールの血に連なる者を擁立(ようりつ)します」

『継承戦か。しょせんは派閥争いということか』


「帝位は目的ではなく、もっと遠大な構想──"文明回華"と"人類皆進化"における手段に過ぎません」

『興味浅くはない、続けよ』

「それでは──」


 俺は一つ一つこれまで成してきたこと、これから為していくことを噛み砕ききながら丁寧に赤竜へと説明する。

 明確な展望。もたらされる利益。来るべき備えについても十二分にプレゼンしていく。



「──以上です。ここで動かなければ、竜騎士の方々(かたがた)は帝国内で孤立することになるわけです」

『参戦しなければ、その威は地に()ちると言いたいわけか』

「私個人としては基本的に合理主義なので、そうは思いません。竜騎士という貴重な空戦力をもってするならば、温存し自らの立場を出し惜しみするのも一つの手段かと」


 しかし世間一般までがそう考えるとは限らないし、為政者は不信・疑心を(いだ)くことだろう。

 矜持(きょうじ)や高潔さを(むね)とする集団にとって、それは耐え難いことなのも承知した上での意見。


『……仮に今ここで貴様を殺せば(・・・・・・・・・・)、内戦はせずに済むか』

「試して、みますか?」


 俺はニィ……と不敵な笑みを浮かべる。



『フンッ、その様子を見るに継承戦の勝算についても充分なようだ』

「どのみち内戦は起こります。早めに継承戦を仕掛けようという思惑が二つも存在しますから。私がやるのは、その双方が考えるものとは違う場所を着地点とすることです」

『そしてベイリル、貴様は我らに帝国という小さな器ではなく──貴様が思い(えが)く世界へ参戦しろと焚き付けているわけだな』


「はい。僭越(せんえつ)ながら私……いえ、俺ほど七色竜(みなさん)縁深(えんぶか)く理解ある人間はいませんよ。"白の加護"をもらった白竜(イシュト)さんは言わずもがな。頂竜の血を分けられたアイトエルとは、半身同体とも言える存在。

 黒竜(ブランケル)さんとも過ごしましたし、一粒種(ひとつぶだね)の灰竜アッシュは俺達が育てています。黄竜(イェーリッツ)殿(どの)とも良好で、仲間がつい先日"黄の加護"を頂戴しましたし。"紫の加護"を得た人物もうちの組織に在籍しております。

 青竜(ブリース)さんとはこれから長くお付き合いしてもらう未来は確定で、赤竜殿(どの)ともそうありたいと願っています。まぁ唯一緑竜(グリストゥム)殿(どの)とだけは未知数ですが……」


『……アイトエル、か』

「頂竜から与えられた血をして、アイトエル《かのじょ》自身が分化した兄弟姉妹のようなもの、と仰っていましたが」

『相変わらず図々(ずうずう)しい奴だ』

「あれはあれで美徳かと──」

『奴は気安すぎる』


 和やかな談笑の雰囲気に手応えを感じ、俺はさらに一歩踏み込む。



「改めて赤竜殿(どの)、見守るだけではなく一緒に創っていきましょう。人類と竜を含めたあらゆる生物の未来と可能性、その進化の果ての……その先まで」

『大言だな』

「過言とは思っていません」


『貴様もアイトエルに負けず劣らずだ』


 俺は碧眼をジッと紅き眼と交わし、赤竜はゆっくりと火の粉混じりの息を吐き出す。


『──よかろう、ベイリル。我らが牙と翼を、共にすることを赤竜の名に懸けて誓おう』

「互いの間に築かれた信頼を決して裏切らないこと、ここに約束します」



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