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#478 これまで、これから III


 ──サイジック領都、"結唱会・本部教会"――


「――というわけだ」


 俺はジェーンを目の前に端的に説明を終えた。


「いやいやベイリル、どういうわけなの!?」

「だから"至誠の聖騎士"ウルバノ殿(どの)を足止めしてほしいってことだ」

「それは聞いたけど……それって、帝国の侵攻に対してウルバノさんが出撃するかも知れないってこと?」


「あぁ、まぁ予定(・・)ではそうならないはずだが……不確定要素(イレギュラー)を考慮し、念には念をってな。やり方はまかせる」

「ベイリル……お世話になった私の気持ちを大事にしてくれるのは嬉しいけど、私もウルバノさんも戦争は覚悟の上だよ」

「だろうな。戦って散ることも、あの人にとっては大事なことなのもわかる」


 実際に未来(かこ)において、闘争の果てにこの手で命脈を断ったがゆえに。



「だけどな、きっと子供たちに囲まれて暮らし続けることも――ウルバノ殿(どの)にとってまたもう一つの幸福の形だろう」

「そうかも……だけど」

「頼む、姉さん」


 俺はガシっとジェーンの両肩を掴んで頭を下げる。


「あーーーもう、こういう時ばっかりお姉ちゃん呼びして――わかったよ。どうにかしてみる、私だって……イヤだから」

「ありがとう。同じ"ハイロード"でも、ジェーン姉さんは素直で助かる」

「えっ? なに、なんて言ったの? はいどーろ?」


「ジェーンの血筋。その遠い遠いご先祖様は、かの初代神王ケイルヴ・ハイロードって()った」


 十数秒ほど沈黙が場を支配してから、ジェーンは半眼で口を開く。



「ごめん、意味わからない」

「いずれシールフみたいに神族大隔世して、俺のように魔力色を()られるようにもなるはずだ」


 未来(かこ)において"血文字(ブラッドサイン)"を相手に命の危機に瀕したことで、覚醒したという話。

 昏睡していた俺としても、あくまで伝え聞いた話でしかないが――それは歴史(じじつ)として存在していた。


「いやだから、ちょっと待って。ベイリルの言ってることが、まったくもってわけわからないよ。なんで私がそんな大それたことに?」

「今はそれでいい。語りたいことが、たくさんあるんだ。そう遠くない内にへリオとリーティアを交えて話すよ」



 フラウ、キャシー、ハルミア、クロアーネ。シールフ、オーラム、カプラン。ジェーン、へリオ、リーティア。

 俺が異邦人(てんせいしゃ)であることを知るゼノとサルヴァあたりにも、話しておいた(ほう)が良いだろう。


(秘密を知る人間が随分と増えてしまうが……構わない)


 いい加減、話すべき時が来たということ。

 情報漏洩を危惧して隠しておく意義よりも、知って受け入れてもらう意義のほうが大きい。


「うん……なんだかもう私じゃ届きそうにもないくらい、男って感じの()だ」

「なんだそりゃ」

「今までにないくらい大きな決意を秘めた顔をしてるってこと」


「なるほど、そうかもな」


 空前絶後の破天荒解。前人未到にして先代未聞な旅路。その終着点は果てしない。





 ──サイジック領都、"アレキサンドライト図書館"──


 俺は黒髪黒瞳の目標(じんぶつ)を見つけ、周囲の迷惑にならないよう"遮音風壁"を掛けつつ対面に座る。


「久しぶりだな、ロスタン。お前の定期健診のおかげで、"断絶壁"まで行く手間が省けたが……図書館にいるとは」

「……チッ、こっちはてめぇと顔を合わすのもウンザリだっての。オレの(ガラ)じゃなくて悪かったな」

「いやぁ? むしろ似合っているとすら思う」

「てめえ喧嘩売ってんのか」


 パタンッと読んでいた本を閉じて、ようやく視線を合わせて睨みつけてくるロスタンに俺は肩をすくめる。


「本当に、心の底から純粋にそう感じてるんだがな」

「それはそれで侮辱だ、殺す」

「その言葉を待っていた」


 俺は顎でクイッと出入り口を示し、ロスタンは勢いよく立ち上がった。



 ──俺とロスタンは、図書館から出てスキエンティア区とマギア区の間にある中央通りを並んで歩く。


「今までのオレだと思うなよ、ベイリル」

「その自信から察するに、トロル細胞が適合したか」

「……」


 図星を突かれて無言のまま苛立つロスタンに、俺は挑発し煽ることにする。


「吐いた言葉を飲み込むなら今の内だぞ?」

「うるせえ、殺すっつったら殺す」

「よし、それなら俺は負けたら命を差し出してやろう。その代わりロスタン、お前が負けたら俺の言うことを一つ聞いてもらう」

「んだとぉ……」


 ロスタンは一瞬だけ逡巡(しゅんじゅん)するような様子を見せるが、すぐに歯噛みしながら首を掻っ切るような仕草を取る。


「上等だ。オレが負けたら、なんでもいくらだって聞いてやらあ」

「一つでいいんだがな」



 俺はほくそ笑みながら、空を仰いて口を開く。


「なぁロスタン、価値観が広がっただろう」

「……はあ? なんだいきなり」

「読書を通じて知識を広げ、領都でもあらゆる文化に触れている。そのどれもが新鮮に感じるはずだ」

「だったらどうだっつーんだ。強くなる為には必要なことと思っただけだ」


「大いに結構。それこそがフリーマギエンスの本分、"文明回華"の道だ。恥じる必要など微塵にもないし、素晴らしい好例だ」

「偉そうに言いやがって」

「まぁ実際、シップスクラーク財団で偉い立場にはいるし帝国伯爵でもあるが。まぁそれはそれとして、あまりノンビリ歩いてもいられな──いッ!!」

「のあッ──!?」


 俺はロスタンの腕を掴むと、勢いよくその場から空中高く踊り出る。

 法規制上は街中での魔術使用を禁じているものの……歪光迷彩(ステルス)で飛んだので露見する心配はなかった。



 領都からそこそこ離れたところで、俺はロスタンと共に着地する。


「──っし、と。ここは開発予定区画で周辺に一般人もいないから、少し派手に暴れられる」

「ふざけろ」


 すぐさま間合いをあけたロスタンは、こちらを射殺すような瞳で睨むつけてきた。


「お前で最後の調整だ」

「光栄、とでも言えばいいのかよ? ナメんじゃねえ」


 ロスタンが先んじて動こうとするその瞬間を狙って、俺の背後の空間から一筋(ひとすじ)の"光線"が発射される。



「おぁああ!? てめえ、コレ……壁で見たやつ」

「"光陰(やのごとし)"――まぁイシュトさんの出力とは比べるべくもないが」

「あの白い女をマネた光属魔術か、うざってぇ」


「俺の中では"秘術"と呼んで分類しているがな。魔術と似ているが、感覚的にも微妙に違うんだ」

「知ったことかァ!!」

「甘いぜ」


 無数の光の矢が立て続けに空中から(はな)たれ、ロスタンは近付けないままタタラを踏む。



「クッソ……こうなったら被弾覚悟だ」

「そうそう、俺が勝った時の頼み事だがな――」


 世界を抱擁するかのように両腕を広げて、俺はロスタンへと告げる。


「今後はテクノロジートリオの下で従順に学び、雑用と知識を得つつ技術開発に(いそ)しんでもらう。楽しみにしておけ」


 いつかの未来、ありえなかった歴史。

 俺は皆と共に、新たな道を進んでゆく。

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