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#476 これまで、これから I


 ──サイジック領都ゲアッセブルク、"大地下開拓都市(ジオ・フロント)"──


「亭主が帰ったぞ~」

「誰が亭主だ、だ・れ・が」

「よぉゼノ、ナイスツッコミ」


 プラタを途中で降ろし、"飛行ユニット"の補給がてら俺はテクノロジートリオと顔を合わせる。


「おかえり~ベイリル兄ぃ」

「ベイリっさん、ちはーっす」

「ただいまリーティア、ティータも──もしかして俺のが先に()いちゃったか」


「スミレちゃんのことなら、もういるっすよ。魔導で全速力で飛んで疲れたって、今は休んでるとこっす」

「おっと、既に感動の再会は済んでたか」

「っす。それと自分からもお礼を言わせてもらうっす。スミレちゃんと見つけてくれてありがとう、ほんっとお世話になりました」


 深く頭を下げるティータの頭を、俺は途中で空気のクッションで止めた。


「かしこまらなくていいよ。こちらこそありがとうだ、ティータには色々と世話になってるからな」

「じゃっいつも通りで」


 ティータはすぐに切り替える、こういった気安さ・そつのなさは彼女の大きな美徳であった。



「あぁ、それとリーティアもありがとう」

「えっ? 最近ウチなんかしたっけ?」

「これからしてくれるだろうことへの感謝かな」

「なーにーそれー」


 ピョンと俺の後ろから手を回してぶら下がって甘えてきたリーティアを、そのままおんぶしてやる。

 100年昏睡した未来(かこ)、残した功績の数々。

 特にフラウの遺体を完璧に保存し、エイル・ゴウンの魔導によって束の間の逢瀬が叶ったことは……俺にとって大きな心の支えになってくれた。


「……俺のTEK装備、"特効兵装(エフェクター)"の調整を頼む」

「あーそういうこと、すぐ使う?」

「後で使う予定だ」

「まっかせといてよ」


 いつだって自慢の妹であり、義理の兄として恥ずかしくないよういたいと思う。



「ゼノにも礼を言う」


 リーティアにぶら下がられたまま、俺は頭を下げる。


「おれもかよ、正直ついで(・・・)感はあるが──まぁ言われて困るもんでもない」

「そうでもないさ、"設計士(デザイナー)"さん」

「なんだそりゃ──でも悪くない響きだな、連邦東部なまりか」


 うんうんとゼノは反芻(はんすう)するようにうなずく。

 アンブラティ結社に"設計士(デザイナー)"として潜入し、得た情報が次へと繋がった。


 俺の転生前のことを知る数少ない一人であり、同時に俺の親友である。



「──さて、急いでいるから挨拶もそこそこに失礼させてもらう。諸々を煮詰めたら、また色々とやってもらうことになるかも知れないからそん時はよろしく頼む」

「あぁ、慣れたもんさ」

「はーい、まかせてぇ」

「了解っす」


 俺は背を向けたところで思い出して、(きびす)を返す。


「そうそう、近々三人の"弟子となる人間"を紹介しよう。ビシバシ鍛えてやってほしい」





 ──サイジック領都、"複合政庁"──


 俺はシールフ専用の執務室で、己の半身とも言うべき彼女と対面を果たす。


「──そうか、エイルさんは出張中か。サルヴァ殿(どの)も所用でいなかったし」

「二人に何か急ぎの用事でもあったの?」

「いや、単に個人的なお礼を言いたかっただけだ。まぁ積もる話だし、後回しでも構わん。んでだ、近々(おこな)う予定の"異空渡航実験"は中止な」

「はぁ? いきなりなに、を──」


 俺が意味ありげに笑みを浮かべていたのを、シールフは察する。

 それはすなわち俺の記憶を読んでも構わないというアピールであり──絶句していく彼女の表情に──俺は趣味の悪い愉悦を感じていた。


 これまで辿ってきた壮絶な人生録。

 それを彼女(シールフ)だけは精彩かつ、ほぼほぼ完全に理解をしてくれるからに他ならない。



「頭おかしくなっ──」

「ってないのは、シールフが一番よくわかっているだろう」


 そう言って俺は彼女と手を繋ぐ。

 肉体的接触を得ることで、より深層部分を読心することができるのを承知の上で。


「あぁぁああああああああぅっ!! パンクしないけどオーバーフローする!!」


 その反応(リアクション)に、シールフとはじめて顔を合わせ、転生者である俺の記憶を読んでもらった時のことを思い出す。



「──……順を追いましょう。まずベイリル、貴方がこれから? 100年も昏睡する。いえ、してきた(・・・・)

「あぁ、俺にとっても完全に想定外だった」

「私が実験以降、行方不明になる」

「どうなったかはわからん、その場にも居合わせてなかったし」


「それで……第三視点の、魔法!? 時間と空間を超越する──どんだけなわけっよ!!」

「まぁ巡り合わせと、支えてくれた人達のおかげだ」

「それで過去に戻って、アイトエルと一緒にって、まじ……あの時にも既にいたの!?」

「知られざる秘密のいくつかも、実体験済み」


「ぐぁああああ、若気の至りがぁああーーーー」


 その場で悶えるシールフが落ち着くのを待ってから、話は続く。



「竜、神族、魔王、英雄、魔獣、英傑──歴史をずっと辿ってきたんだ……私だけじゃなく、エイルやサルヴァなんかのことも」

「まぁ詳しく知りたいのならまた今度で。どのみち同化した時に曖昧になってる部分を、思い出させてもらいたいしな」


魔空(アカシッククラウド)──なるほど、そんなものが……未来の私はそっちに巻き込まれた可能性が高いかも」

「なんか色々と理論的に説明と得心がいったとしても、とりあえず落ち着くまでは延期してくれ」

「わかってる、それどころじゃないもんね」


 俺は彼女の役割を口に出さないまま、シールフは全てを飲みこんでくれる。



「そう……さしあたって私はベイリルが考えた、未来改変の"具体案"を進めればいいってわけ」

「頼んだ。俺は俺で実働することが多すぎて、指示出ししてらんないから」

「各地への折衝と依頼、段取りも大変そうだなあ、まったく。でも仕方ない、貴方の旅路を思えばこそ、一肌()いじゃる」

「ありがとう、色々と落ち着いたら俺も"異空渡航実験"には協力するからそれまでは(けん)で」


「オッケィ。それに改めて──くくくっ、まだ弱かった頃からのアイトエルの弱味も握れるじゃん」

「何かに利用したらしたで、後が怖いけどな」





「どーもです、カプランさん」

「……? あぁベイリルさん、連絡は来てませんがもしや皇国侵攻戦はもう終わったのですか?」

「いえ、まだ中途で戻ってきました。財団も大規模に動くことになります」

「そうですか、今は(ちから)を蓄える時期だと思っていましたが……」


「のっぴきならない事情がありまして。カプランさんには漠然とした俺の計画を整えてもらいたくて……詳しい話はシールフからあるので、毎度のことながらよろしくお願いします」

「えぇ、それは構いませんが──」


 大まかなヴィジョンはあるものの、それを現実に実行する為には様々な障害(ハードル)が存在する。

 今までも俺の思いつきのような計画を、細部まで緻密に練り上げてくれたのはカプランを筆頭とした優秀な人材のおかげであった。



「それとは別に、俺自身の口から先に話しておきたい個人的なお話があります」


 カプランは俺の真剣で含みのある顔色を読んでか、同じように神妙な表情を浮かべる。


「お聞きしましょう」

「出所についてはまたいずれ説明しますが、俺独自の情報網から新たに得た事実です」


 俺は一呼吸置いてから、ゆっくりと冷静に告げる。



「シールフから聞き及んでいると思います、カプランの奥さんと娘さんを殺した──真の(かたき)を見つけました」

「……ッッ!? それ、は……やはりシールフさんの読み通り、存在していたのですね」

「以前にカプランさんから窺っていた話からすると、もしかしたら一度はカプランさんが自らその手で下していたかも知れません」

「どういうことでしょう?」


「ただそれは本体ではなかった(・・・・・・・・)ということです。"奴"は分身体を自由に創り出すことができる」

「つまり僕が殺したのは、偽物──」

「魔法具による分身ですから、それはもう恐ろしいほど精巧です。そしてそいつはアンブラティ結社の、事実上の中心──」


 血が滲むのではと思うほど、ギリッと食い縛られるカプランの拳。


「"仲介人(メディエーター)"の通称名で呼ばれる女。そして、俺にとっても(かたき)です」


 女と聞いて思い当たる(フシ)があったのか、カプランの瞳に宿る色が濃くなる。



「結社ですか、そしてそれを明かしてくれたということはつまり──」

「はい、つまり。二人で仇を取りましょう、ということです。どのみち一人では殺すのが不可能に近い相手でして、同時に殺す(・・・・・)必要があるんです」

「……であれば、入念な準備があれば必要そうですね。確実に捕捉し、絶対に逃さない、完璧な段取りが──」


「おっしゃる通り周到に組み立てつつ時機を待って、奴が築きあげた結社ごと全て磨り潰します」


 2人は復讐者は、心の(うち)で静かに刃を研ぐ。


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