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#472 ラスボス


 最下層手前の庭園へと転送してきた俺は、上層へと放った"反響定位(エコーロケーション)"で仲間の位置を把握する。


「なんつーハイペース。いや……面子は揃ってるんだから、さもあらん」


 少なくとも当時の4人よりもずっと強いパーティーである。

 逆送攻略した頃よりも強度を増したフラウとキャシーは言うに及ばず。

 白兵戦では無類のバルゥ、ギミック担当の知恵者ソディア。

 器用万能なプラタに、凡人でありながら天才と鍛錬し続けたカッファ、そして……鬼札(ジョーカー)のケイ・ボルド。


(彼女は戦略構想に必要不可欠……)


 後輩を戦争に巻き込むのはあまり気乗りしないものの、指折りの最強駒を遊ばせておくほど余裕はない。



 俺は庭園から最下層へと続く、やたら豪奢になった巨大門を開いて中へと踏み入れた。


『……久しいな、ベイリルだったか』


 ややくぐもってはいるが、器用に人語を喋る黄竜に俺は一礼する。


「お久し振りです黄竜殿(どの)

『まさか一人で到達するとは……今一度、我と相対するか』

「あぁ~~~、いやいや誤解させて申し訳ない。俺は転送されて来たので貴方と戦う資格はありません、"イェーリッツ"さん」


『──?? その名は……実に懐かしい響きだ。そうか、白き加護。アイツの息吹を感じる』

「はい、俺が持つ至宝の一つです」

『その白い髪も名残だな。我が加護を与えし者や、赤や青のそれも髪の色が変わっていた』

「あぁコレってそういう──」


 黄竜に指摘されて、俺は白く輝けるぬくもりを自覚した。

 過去に見た"青い髪の魔王"、"雷鳴の勇者"も黄色い髪色で、"燃ゆる足跡"も赤竜フラッドと同じ赤髪だったのを思い出す。

 サルヴァにも紫色が混じっていたし、この特徴は加護を与えられた人間特有の、身体変化の一つなのだろう。



(つまり……少しは馴染んでくれたってことかな)


 スミレに指摘されたように同化する前には白髪がなかったし、なんなら最初の時間(じく)では数百年経っていても変わらなかった。

 "第三視点"の魔法という高みに昇る為に、はじめて"白竜の加護"を使えて、それから7000年も付き合ってきたがゆえの適合とでも言うべきか。


「素直に嬉しいですね」

竜族(われら)人族(ヒト)とを結ぶ絆、大切にするがいい』

「もちろんです。それと……白竜(イシュト)さんと黒竜(ブランケル)さんのこと、語りたいので今しばらくお付き合いください」





「なんで!? おかしくない!? 一息つけるよね? 普通休むし!!」

「いやぁ~、ここで気を緩めちゃうよりは、一気にいっちゃうのが勝算高いと見たよ」

「フラウに同感だ。バルゥのおっさんも元気だろ、ケイはどうだ?」

「わたしも大丈夫です! なんかこう、すごい高まってる感じです」


 ソディアの制止なぞ聞く耳持たずといった様子のフラウとキャシーに、ケイも同意する。


「士気が大事なのは戦争も闘争も変わらんだろうさ」


 そう口にしながら、バルゥは巨大門に手を掛けて純粋な筋力だけで開けていく。


「そんなことはわかってるし! ただあんたら脳筋ってのと違って、うちらは普通の人だし!! ねぇ二人とも!?」


「えっと……結局前線に立つのは御四方(およんかた)なので、その気勢は()げないかなぁ? なんて」

「ここでついていってこそ、壁を超えられる!!」


 話を振られたプラタはややバツが悪そうに、カッファは生き生きとした様子で言った。


「ダメだこりゃ、話にならんし。というかもうツッコミ続きで疲れたしもう知らない! どーとでもなるし!!」


 最後の抵抗を諦めた常識人ソディアは──しばらく住んでいたいと思わせるほどの庭園に後ろ髪を引かれながら──最下層へと踏み入る……と。




『くぅーーーっはっはっはっはハハハハハハハハッハハァ!!』


「ねぇキャシー、どゆこと?」

「さぁ……知らね」


 そこに黄竜の姿はなく、ただただ出所のわからぬ笑い声が最下層中に反響する。


「最下層の主が変わった、ということはありえるか? 実際に制覇した二人としての考えは?」

「ありえないとは言えないけど~、どうだろ」

「オイオイ、アタシは黄竜から加護をもらう為に来たってのに!!」



『ぃよくぞここまで来たぁ、類稀(たぐいまれ)な智慧を勇気を持った者たちよぉ』


「誰だか知らねぇが、(つら)ァ見せやがれ!!」


 激昂したキャシーが咆哮するも、声の主はマイペースに進める。


『我が名は"冥王(プルートー)"、(ゆえ)あってお相手しよう』


「ぐぇっ!?」

「あっ──うぅ……」

「のわぁ!!」


 瞬間──ソディアとプラタとカッファの体は、壁まで吹き飛ばされる。

 同撃七拳。不可視の状態から接近を許し、刹那に不意打った攻撃を防げたのは……フラウ、キャシー、バルゥ、ケイだけだった。



『美事なり。挑戦の資格ありし四人の強き者よ、いざ参らん』


 ステルスからその姿を見せた男は顔に着けた薄布の奥で笑い、高台の上から仰々しく両腕を広げた。


『さぁさぁ、お立ち会い。ここからが迷宮踏破劇(ダンジョンショー)の本番だ』


「……えっベイリルじゃん、なにやってんの? わざわざ声まで変えて。ってかなんか白髪まで生えてるしー」

「ベイリルてめぇ!! まさかまたァ穴空けて来たのか!? 黄竜はどこだ! どうせ知ってんだろ、早く言え!!」


「フラウもキャシーもネタばらしが早すぎる」


 肩をすくめたベイリルは、高台から飛び降りながら薄布を剥ぎ取って捨てる。


「後から追ってくるとは聞いていたが、まさか先回りをしているとは思わなかったぞベイリル」

「ベイリル先輩! カッファはどうでもいいとして、なんでプラタとソディアさんを──」


 ケイの言葉途中でベイリルはパチンと指を鳴らすと、風擲斬(ウィンドエッジ)爆燕(はぜつばめ)が4人の中心で炸裂する。



「おいベイリル、てめえシャレになってねぇぞコラ。(かわ)さなきゃ当たってたんだが?」

「んっと~~~……ベイリルってば()る気満々だ」

「本音を言うと、今すぐにでも二人を抱きしめて唇でも交わしたいところなんだが──」


「んなァが!? ナニを小っ恥ずかしいこと言ってやがるこのバカ! バーカ!!」

「えーーー、あーしはいいよ」


「フラウ!!」

「キャシーもしたいくせに」

「そういう空気じゃねェ!!」


 キャシーはフラウに突っ込み、ケイはやや恥ずかしそうに口を開く。


「わっ、えっと……わたしは後ろを向いてます!!」

「ふむ、ではオレも……終わったら声を掛けてくれ」

「乗るなケイ! おっさんまで!」



「まぁまぁ冗談はともかくとしてだ。慣らし運転がてら、実践勘を取り戻しておかないといけないんでな。とはいえ、俺一人じゃぁ流石(さすが)に無理だから──先生(・・)、お願いします」


 するといつの間にかベイリルの後ろに、頭半分ほど高く肩幅の広い、無精ヒゲ(づら)な黄色い髪の男が立っていたのだった。

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