#469 新たな選択
未来にて一時ながらも再びフラウと逢わせてくれた、"魔神"エイル・ゴウン。
同じく未来にて世話になった後の"美食魔王"レド・プラマバ。大監獄からの大脱獄劇。
そして"将軍"を打ち倒し、復讐を果たすのをもう一度見届けた──
"文化爆弾"作戦後、発展していくサイジック領都ゲアッセブルクを眺める。
クロアーネと結ばれ……。帝国による皇国侵攻の召集・要請を待ちながら第三視点は改めて今後のことを練っていた。
いよいよもって帝国からの要請があり、ベイリルの運命が大きく動き出す刻が迫っていた。
俺は保険用に残しておいた魔力を使い、世界を俯瞰しながら情報を収集する。
"明けの双星"兄妹オズマとイーリス、"放浪の古傭兵"ガライアム、同窓生である"食の鉄人"ファンランの雇用。
帝都での一幕、王城の調査。"帝国宰相"ヴァナディスと"帝国の盾"オラーフ・ノイエンドルフを観察。
竜騎士特区で"赤竜"との会合、帝都内でのちょっとした騒動。
"斜塔"を拠点とし、神獣を相手取った航空戦。
転生者にして新たな同胞スミレの救出──
(ここだな……)
そうして俺は未来を変える、どこからやり直すべきかの分岐点を見定める。
完全に同化して記憶を継承してしまえば、もうやり直しは効かない。
"生命研究所"による俺への肉体魔改造を含め、また魔王具を集めて未来と同じ魔法発動の条件を整えられるとは限らない。
『ただ──まだ一つだけ、やることが残っている』
残りわずかな魔力の使い道、第三視点である今だからこそ最後にできることをする。
ちょうど俺が行方不明になった頃──帝国領土内において起きた1つの事件。
奴が残した血の詩を確認すべく、俺は意識を飛ばすのだった。
◇
ドクンッと心臓が跳ねる。
「──ふぅ、さてと」
俺は斜塔の頂上で、同化継承を完了する。
(ここからだ、ここから既知の未来を……未知なる未来へと変えていく)
第三視点という情報流入負荷により、ベイリルは──漏れ出た鼻血を拭いつつ──青色スライムカプセルを摂取する。
「すごいよね、夜空に浮かぶ片割れ星。月なんかより全然大っきくて、綺麗だけどちょっと不安にもなっちゃう」
ふと隣に立ったスミレの言葉に、俺は今の俺らしい答えを紡ぐ。
「あぁ……いつか、みんなであの地に立ちたいもんだ」
「そりゃまた──でっかい夢を抱いてるんだね」
スミレは話半分といった様子で笑うが、俺には明確なヴィジョンとして記憶の中にある。
さすがに300年と7000年もの時を越えてきたので、色々と曖昧な部分もあるものの──胸裏にまで刻み込んだもものはちゃんと覚えている。
「──んん? ねぇねぇ、あなたって白髪なんて生えてたっけ?」
「"白髪"……?」
指摘された俺は眼前の空気密度を変えて鏡を作り出し、自らの姿を覗き込む、と──確かに真っ白い髪束が灰銀色に混じっていた。
「なんだこれ、メッシュみたいだな」
「再会した時にはなかったような……、短期間でストレスにあてられた?」
「そんなことは……いやある、かも」
第三視点という情報流入・同化は、肉体的にも精神的にも多大な負荷であったことは疑いない。
「ふ~ん……体は資本だし、精神は要だよ」
「そうだな、気をつけよう。もう少しばっかし気張ったらな」
今は無理をするべき時である。なぜならば未来をこの手で変えるのだから。
「気張る?」
「あぁ、急ぎやることがある。スミレにも手伝ってほしい」
「えっ? うん、なにを? わたしにできることなら」
「悪がいる。社会通念上、絶対悪と言っていいだけの邪悪が──」
俺の突然の説明に、スミレの表情が険しくなる。
彼女なりの正義をもって、その力を使わんとするスミレにとって聞き捨てならないのはわかっていた。
「そいつは己の欲望のままに……恐らくは数百人とその手に掛けてきたし、これから数千あるいは万単位で殺して回るだろう」
あるいは人類が絶滅するその日まで、殺戮の限りを尽くすやも知れない存在。
「そして恐らくは転生前も──」
「転生? それって……」
「通り名は"血文字"。英語圏出身のサイコパス殺人鬼だ」
「その名前、噂でだけど聞いたことある。わたしたちと同じ立場で……そんなの許せない」
「同じ転生者だから、という理由でもない。ただ野放しにはしておけないから対処する。今なら奴が現れる場所も時間もわかる、確実な捕捉ができる」
第三視点として最後の魔力を振り絞って得た情報。
そして戦争中ではあるが、一時的に抜け出して俺にとっての最高速で向かうなら間に合う。
「わかった、わたしにも協力させて」
「頼りにしているよ」
◇
「撤退ぃ!? いやぁ……まぁ、他ならぬ依頼者様がそうのたまうんであれば、おれたちゃ従うがよ」
「これも作戦ってやつー?」
オズマとイーリスの言葉に、俺は多方面への手紙を書きながら答える。
「そういうこと。まぁ命令無視・敵前逃亡の形になるが……皆は雇われだし、素性も知られてないから俺一人が責任取る形だからその点も問題ない」
空中戦がメインだった為に4人を前線に出さなかったことが、ここにきて良いように回る。
「あいよ。それでわたしらは今後どうすりゃいいんだい?」
「オズマとイーリス、ファンランさんにもいずれ闘争の機会があるのでそれまでは潜伏を。これからの予定と、倒すべき相手のことも書き残しておくんで」
延々と紙を消費し続ける俺に、ファンランはやや肩をすくめてから笑みを浮かべる。
「なんだか生き生きしているねぇ、ベイリル」
「実感をしているトコですよ。あぁガライアムさんも後で出番があるので、それまでは3人と行動を共にしてください」
「了解した」
朴訥とした"放浪の古傭兵"は、ただ静かに首を縦に振る。
「んげっ!? モーガニトさんよぉ、これマジか」
「大真剣」
するとオズマが既に書き終えた4人用に宛てた紙を見て、思わず漏らす。
「なになに?」
「イーリスも見てみろ」
「ふんふん……うっへぇ~、こりゃ大それてるぅ!」
イーリスに続くように流し読みしたファンランも、一拍置いてから口を開く。
「確かにこれは──でも面白いじゃないか、ちゃんと考えあってのことなんだろう?」
「えぇまぁ、やっておかなくちゃならないことなんで。ガライアムさんが特に割を食う形になりますが……」
オズマはガライアムへと指示書を見せると、少しだけ視線を移した古傭兵はすぐに戻して目を瞑る。
「……やることはいつもと変わらない」
「流石です。オズマたちは自分の相性の良さそうなの入れ替えてもらっても、連係したっていい。まぁ時来るまで研ぎ澄ましといてくれ」
「へーへー、こちとら雇われですから。そんかわし賞与の一つでも弾んでくださると、こっちもやる気が出るってもんなんだけど」
「抜け目がないな、まぁいいだろう」
「よっしゃ!」
「やったぜぃ! こりゃいろんな意味で負けられない戦いだぁ」
「腕が鳴るねえ」
「……」
ストレートに喜ぶ"明けの双星"兄妹と、不敵に笑うファンラン、調子の変わらぬガライアム。
他への割り当てもある以上、予備まで手が回らないものの……それでも十全な戦力足りうると俺は大きくうなずいたのだった。




